如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

読む価値があるのは全182ページ中、第三章の36ページ

世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略

佐藤 可士和

 

 何とも厳しい評価のタイトルだが、読後の感想はそのままである。
 
 当然ながら読み手の価値観は様々なので異論はあろうが、なぜ私がそう感じたかと言えば、第二章までの143ページ(全体の78%)は慶應義塾大学SFCでの授業、つまり本書の副題でもある「未踏領域のデザイン戦略」の解説だからだ。


 具体的には、授業の概要と進め方、学生の成果物、感想文、Q&A、同大学の准教授オオニシタクヤ氏との対談が主たる内容だ。

 この内容自体に意味がないとは言わないが、本書のタイトル「世界が変わる『視点』の見つけ方」から普通の人が想像するイメージとは異なるだろう。

 

 慶大SFCを目指す学生には勉強になるかもしれないが、働き盛りのビジネスマンにとっては仕事に直接役に立つとは考えにくい。もっとも学生の立場から学ぶ「デザイン戦略」の考え方は、人と仕事内容次第で参考になる側面はあるだろうが。

 

 以上の観点を逆に捉えると、第三章の36ページに本書のエッセンスは凝縮されているとも言える。

 

 メインテーマであるデザイン戦略について著者の言いたいことを集約すると、①問題解決のテーマである「課題」を決めて、②考え方の方向性である「コンセプト」を明確にし、③課題を解決する方策「ソリューション」を考える、である。

 

 具体例として”なるほど”と感じたのは、ビジネスの世界では③のソリューションから入ってしまうケースが多いということ。ポスターを作るためにデザインを発注する、有名タレントを供してCMを作れば消費者にアピールできる、などだ。

 

 言われてみれば、「結果」すなわち「アウトプット」ありきで、物事が進んでいく仕事は珍しくないという感覚は確かにある。
 ビジネスの世界は、売り上げや利益など「結果」が最優先される傾向が強いだけに、仕方がない部分はあるのだが、著者はこれでは「問題の本質」を捉えることができないと指摘する。
 
 実際に著者は、ライアントから「ロゴマークの相談や刷新」を依頼されたが、提案したのは「空間構築」だったり、「ロゴは変えないという結論」だったこともあったそうだ。

 

 確かに、「問題の本質」を再確認するというのは重要なことではあるのだが、ビジネスの現場では、上司や社内の理解を得やすいがためにコストパフォーマンス(あくまで見かけ上の)が優先され、「頭では非合理的だとわかっているけど結果優先を止められない」というのが実情ではないだろうか。

 

 この対策としては、会社のトップを含む経営陣を筆頭に全社的な意識改革が必要だと思う。権限と責任の所在という観点からも、現場の意思と判断だけでは対応できないはずだ。

 

 一見遠回りに見ても中長期的な視点で考えれば、問題の本質を解明することが、結果として最善策となるということへの会社全体の理解が、デザイン戦略を進める上では不可欠だと言える。

 

 この点からも、本書はデザイン戦略の現場だけでなく、マネジメント層も読んだ方がいいのではないだろうか。
 もっとも彼らは何かと多忙だとは思うので、実際に目を通すのは先述したように第三章の36ページ分だけで十分だとは思うが。

 

「正義」を語るときは「謙虚」も忘れずに

誰の味方でもありません

 古市 憲寿

 本書は週刊新潮に掲載中の同タイトルのエッセイを、雑誌に掲載された当時のまま新書にまとめた内容である。文末に後日談を補足しているが。
 従って、私を含めて新潮を購読している人には既読感はあるが、著者の立ち位置を改めて知るには役に立った。

 

 何かと発言が「炎上」することで話題となる著者だが、その行動の背景には、誰もが否定できない正論をかざす正義がまかり通るようになった結果、「人々の口が重くなり、当たり障りのない話題でごまかす」(p4)という社会が本当にいいのかという問題意識がある。

 

 また「正義」を振りかざすときには「謙虚」であることを意識すべきだとも述べている。その理由として、時代や環境が変われば「正しさ」は変わることを挙げている。

 

 要するに「自分が絶対正しい」と信じていることイコール「他人は間違っている」という認識になるという話なのだが、この考え方については私自身を含めて「自分の発言や行動に誤りの可能性があることを常に意識すべき」という点で大きな意味があると思う。

 

 あと、本書を読んで感じたのは、著者は感じたことや疑問に思っていることを私にはとても実践できないレベルで相手に質問していること。
 例として引き合いに出すと、著者は首相夫人である昭恵さんに「夫婦でセックスはするのか」という冷静に考えてみれば物凄い失礼とも思える質問をしている(p153)。もはや怖いものなしのレベルだ。
 これに対して昭恵夫人は、これまた具体的かつユーモアのある回答をしているのだが、その内容は本書で確認してほしい。
 


 まあ全体としては、若手の社会学者が世間に対して思うことをそのままぶつけた内容であって、それ以上でも以下でもない(元が週刊誌のエッセイなのだから当たり前)。
 著者の考え方についても同意できる内容もあれば、「ちょっとこれは」という部分もあった。

 

 ただ、何でもタブーなく自由に言えて、間違いがあっても修正すればいい。それくらい鷹揚でいられる人を増やすことが、実はいい社会を作っていくコツ(p6)という主張は、「正義」でギスギスしがちな現代社会において、ひとつの対応策ではないかとも思い始めている。
 

晴海フラッグ、見落としがちな2つの視点

話題の晴海フラッグを見てきた

 

 総分譲戸数4145戸というとてつもない規模の湾岸マンション「晴海フラッグ」の販売が5月に始まるというので、現地を見学してきた。

【工事の進むPARK VILLAGE側】

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 東京オリンピック選手村の再利用ということもあって話題を集めているが、物件に関する記事やコラムなどを読むと、警戒感や不透明感を持って受け止める声が多いように感じる。

 その根拠として挙げられているのが、①土地が破格値で払い下げられたので分譲価格もその分安く、周辺のマンション価格に影響する、②最寄りの勝どき駅まで最短でも徒歩17分、遠いと20分以上かかる、③通勤などの足として専用バス(BRT)が用意されるが運行に不安要素も―――などだ。

 このほかにも、入居予定が2023年3月からとかなり先な点なども不安要素(ローン金利は契約時ではなく融資実行時に決まるので)になっているらしい。

 

 とまあ以上のことは他のコラムやブログなどでも伝えられているので、ここでは晴海フラッグであまり注目されていなくて、見落としがちな点2つに絞ってみたい。

 

 まず、駅までのアクセスについて。徒歩20分前後というのはマンションとしては致命的な欠点なので、これを補うべく専用のバスシステム(BRT)が運行されるわけだが、終点の新橋まで予定通り10分で行けるかどうかは別にして、途中の勝どき駅までBRTに乗って、そこから都営地下鉄を利用することを想定している人に一言。

 

 それは、BRTは「勝どき駅」には止まらない(はず)ということ。バスの運行予定図を見ると、環二通りを出て左折し新橋に向かう路線図では、清澄通りとの交差点(勝どき陸橋)が勝どき駅の最寄りバス停となるはずだ。ここで降りると駅までは400m、徒歩で5分はかかる。信号やバスの乗降・待ち時間などを考慮すると、マンションから徒歩と時間はあまり変わらない可能性もある。


 おそらくバスを使う住民は、既存の都バス(都05-01系統:東京駅行き)を「ほっとプラザはるみ前」のバス停から乗るのではないだろうか。こちらだと「勝どき駅前」のバス停まで6分。7時台に11本、8時台にも12本運行している(あくまで現時点)。

【中心部に位置する「ほっとプラザはるみ前」バス停

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 ただ、そもそも論として50階建てのタワーマンションが2棟もあるのに、「バス便ってどうなの?」という疑問がどうにも拭えない。駅近で利便性が高いけど利用できる土地面積が狭いので、土地を「横」でなく「縦」に有効利用するというのがタワーの基本構想だと思うのだが。

 

 もうひとつの懸念事項は、中央清掃工場の存在。実際にゴミを目にすることはないだろうし、明確な定義はないものの不動産業界ではいわゆるゴミ処理施設が「嫌悪施設」のひとつになっていることは否定できない。

【晴海フラッグの面する環2通りから見た清掃工場】

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 道路を隔てて面しているのは賃貸物件と商業施設なので、分譲物件からは離れているが、晴海フラッグエリアから外に出る時には、その脇の道路を通らざるを得ない立地になっている。もっとも工場の周辺は、それこそゴミひとつ落ちていないという清潔感に溢れていることはこの目で確認している。


 あと、高さが177mもある工場の排気煙突も気になる。タワーマンションの最上階よりは低いかもしれないが、街のシンボル的な存在になることは間違いないだろう。

【中央に見えるのが煙突】

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 晴海フラッグ全体としては、道路幅は広いし公園も大きそうなのは評価できるが、各棟が想像以上に接近して建っているというイメージだった。個人的には、「湾岸エリアの新築マンションに住みたい」、「買い物など生活は地元で完結する」という条件がブレない人以外は慎重に検討した方がよいのではないかと思う。

 

【追記】
 晴海フラッグの南角にある「晴海客船ターミナル」は一度は見ておきたい建造物スポットだ。平成3年に完成した当時はその近未来的なデザインに感動したが、いまでも古さは感じない。解放感溢れる5階のレストランが休業してしまったのは残念だが。
 新ターミナルが完成する2020年以降には解体されるらしいので、それまでにぜひ一度見学されることをオススメする。

晴海客船ターミナル全景。この建物の向こうにレインボーブリッジが見える】

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根底にあるのは「信じる価値をどのように社会に認めてもらうか」という信念

1本5000円のレンコンがバカ売れする理由

野口 憲一  

 タイトルを見て「いわゆる価格戦略のマーケティング本ね」と思った人には「半分当たっている」と言っておく。


 というのも、もう半分の中身はまさに本書のテーマであるレンコンらしい「泥臭い試行錯誤の体験談」だからだ。

 

 マーケティング本というと、カタカナ言葉でテクニックを駆使し、スマートな戦略手法を解説するというイメージを個人的には持っている。もちろんこの本にもそういった商品戦略の内容も含まれるが、キモとなっているのは、まともな社会人経験もない民族学者が、先祖から引き継いだレンコン事業を1億円ビジネスに育て上げた過程である。

 

 500万円を投じて展示会に参加するもレンコンは1本も売れず、知名度アップのためテレビ局の意向に積極的に忖度して番組に協力、名前が知られ始めたところで同業の有名人とイベントを企画、やっとのことでビジネスの機運が見えてくる。


 目指すレンコン事業が成功したのは「安売りをしなかったから」と解説しているが、その根底にあるのは「信じる価値をどのように社会に認めてもらうか」という信念だろう。

 

 また本書で印象に残るのは、著者が進めようとする新たな販路開拓などを父親がことごとく否定、殴り合いに近いような罵倒合戦が何度も繰り広げられること。

 この部分だけ読むと、頭の固い頑固おやじが息子の仕事にケチをつけているだけに見えるが、実はこの親父さんこそレンコン栽培に促成栽培技術を真っ先に導入するなど根っからのレンコン農家で、「レンコン愛」に満ちているのである。

 

 著者が猪突猛進型で自分の信じたことを突き進むタイプであるのは容易にわかるが、親父譲りの性格が結果として「こだわりのレンコン事業」として成功要因になっているのは偶然ではないだろう。
 もっとも「品質は信用、数は力」という親父さんの言葉を支えにするというビジネスに対する冷静な側面も持ち合わせている。

 

 最近は、ドローンなどの新技術を積極的に取り入れる「スマート農業」がキーワードのひとつになっているが、著者はこういった生産性一辺倒の農業には否定的だ。

 余計な設備投資をしなくても利益を上げられ、なおかつ、時には汚れ、つらい仕事でもある「ありのままの農業」こそがスマートだ、という社会を作らなければいけない(p158)という言葉に著者の本音が凝縮されていると思う。

住宅情報誌SUUMOの縮小が止まらない。最近のマンション動向を反映?

 

 SUUMO新築マンション2019.4.16号

 

 駅ナカのスタンドに置かれている新築マンション情報のフリーペーパーSUUMOの掲載内容の縮小が止まらない。

 

 今年に入って週刊発行だったのが隔週刊に変更になったのだが、掲載される物件の数も減少、最新の4.16(東京市部・神奈川北西版)では掲載物件はインデックスで23件あるが、見開きで物件紹介があるのは20件に留まっている。

 私の記憶では一年ぐらい前は見開き物件数も50件以上は優にあり雑誌としての厚みもそこそこあってページは糊で綴じられていたのだが、現在はホッチキス留め。厚さは5mmもない。

 内容も劣化が著しい。例えばP30からの「共働き夫婦の買い時診断体験記」というコミックだが、これはほんの数か月前に掲載された内容とまったく同一である。

 

 対象が郊外なのでそもそも物件数が少ないという事情もあるだろうが、中央線沿線で現在販売中のタワーマンションなどの大型物件などの広告も掲載されていない状況から見ると、デベロッパーが広告を見合わせているのだろう。

 要するに竣工済みで売れ残った物件は広告を出しても売れないし、一部の人気物件は広告を出さなくてもそこそこ集客が見込めるので、あえて広告を打つ必要性がないのだろう。

 

 一度実店舗のスーモカウンターに行ったことがあるのだが、担当者から「モデルルームに行く際には、現地に到着してからでいいので電話で訪問する旨の連絡を下さい」と言われ、スーモを経由して物件を見るだけでデベロッパーから紹介料が入るのか、との印象を持ったことがある。

 これはいかにも「リクルート」らしいビジネスモデルと思う。その場ではスーモの担当者に確認していないが、事実だとすれば広告を出さなければこのコストも削減できる。

 

 マンションは価格の高騰で、一部の都心物件を除けば販売は伸び悩んでいる。価格の暴落を警戒するメディアなどの報道も増えている気がするし、特に郊外などは人気の落ち込みが激しいのかもしれない。

 

 SUUMOはフリーペーパーなので販売業者寄りの編集内容になるのは当然だが、ページ数や物件件数などの傾向などをデータとして客観的に見ることで、不動産市況の動向の一部を知ることができると思えば利用価値は大きいと思う。

 

 個人的には、この厳しい環境が続けば、隔週刊から月刊へ、そして遂には・・・という展開も否定できない気がする。

 

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如月五月、書評ブログを始めました

 Amazonのベスト100レビュアーの如月五月が2019年4月ブログを始めました。


 書評をメインに今注目したい情報について、簡潔にわかりやすく解説することを心がけています。
 Amazonのレビュアーとしては、2019年1月に87位まで上昇、ベスト100レビュアーも獲得しました。書評については「発売日」直後に購入、「その日」のうちに、「わかりやすい」レビューを心がけています。

 

 2018年12月にはKindle本としてAmazonから「364日でAmazonベスト100レビュアーになる方法」を出し、短期間でレビュアーランクを一気に引き上げる手法の一部を紹介しています。(Amazon側の一方的な誤認識と誤解によって、一カ月ほど強制退出させられた結果、現在は100位台前半で推移しています。この辺の事情はAmazonのプロフィールで説明しています


 比較的得意な分野は、不動産関連(宅建士資格保有)と株式を中心とする中長期の資産運用のほか、中高年世代に役立つ様々な観点からのライフスタイルなどです。書評以外では、アニメ、日用雑貨にも関心は寄せています。


 対象となるコンテンツはさらに拡充させていく予定です。建設的な意見、ご要望はもちろん歓迎致ししますので、よろしくお願いします。

 

挫折を知るからこそ、強く、勝てる存在に

 

競輪選手 博打の駒として生きる

武田豊樹

2019年4月11日

 通算10人目となる獲得賞金15億円を達成した超一流の競輪選手・武田豊樹氏の競輪に対する思いが書かれ
た本である。

 デビューが29歳というプロの競技選手というのは他にまずいないと思うのだが、そこから一気にトップに上
り詰めるまでの過程を含めて、幼少期の体験なども包み隠さず本音ベースで話してくれていて、著者は実力や
人気を驕らない「人格者」であることがよく分かる。とにかく文体などから「真面目」がにじみ出てくるのだ。

 獲得タイトル数などから見る限り、埋もれていた才能が自転車で開花したのではないかとも思うのだが、本
人は才能ではなく、努力の結果だと信じているようだ。

 確かに競輪デビューまでの出来事を読むと、恵まれない経験も数多い。スピードスケートの実績を買われて
王子製紙に実業団メンバーとして入るも成績は低迷、その後自転車に転向を決意するも日本自転車学校には不
合格、その後28歳という年齢制限ギリギリで合格するも、プロデビュー戦では決勝で落車、右鎖骨骨折という
結果に終わっている。

 ただ、挫折して心が折れそうになっても自分を信じて練習・努力を続けたことで、選手として強くなり勝て
るようになったのは間違いないだろう。
 
 著者は、競輪選手として実力は十分にあるのに勝てない人は、レース本番で緊張して力を発揮できないから
だと解説しているが、これは的を得た指摘に思える。

 というのも武田氏は、少年時代スピードスケートの世界選手権などの大舞台で優勝を数多く経験しており、
レース本番で精神状態をコントロールするテクニックに長けている分、他の選手より展開で優位に立てるはず
だからだ。

 もっとも1人の競輪ファンから見ると、選手は年間何十レースも走るのにいつになっても緊張がほぐせない
というのは、実力うんぬん以前に「プロとしてどうなの?」とも思えるのだが。

 あと本音ベースとはいえ、過去に一度「意識的に無気力でレースに臨んだこと」(p105)があったと告白
しているのには驚いた。練習を頑張らなかったらどうなるのか試したかった、とのことだが超一流の選手でも
こういう行動をすることはあるらしい。ちなみに、さほど緊張しなかったので、レース結果も「そんなに悪く
なかった」というオチまで付いている。

 またとても参考になって面白かったのが、他のトップ選手との交流について。すでに引退した鈴木誠選手や、
グランドスラマーにして現役の神山雄一郎選手、他にも村上義弘選手、平原康多選手も登場する。レース以外
の選手の立ち振る舞いなどは一般のファンにはうかがい知れないことだ。

 競輪関連で参考になった本としては昨年出版された「競輪文化」があり、客観的な競輪の歴史を知るには良
書だと思う。一方、本書は現役の競輪トップ選手が選手目線で主観的に書いたもので、別の角度から競輪を知
るうえで貴重な本と言えるだろう。
 
【追記】
レース残り一周半で鳴る「打鐘」について。これをきっかけに車券を買ったファンは一気に盛り上がるのだが、
実際には選手は聞こえていないらしい。レースの仕掛けが早くなったことで、打鐘時点でトップスピードに近く、
風切り音の影響が大きいほか、位置取りなどのレース展開に集中していて鐘の音には気が付かないそうだ。
 

「情報弱者」の行きつく先にあるのは「死」

 

情報だけ武器にしろ。: お金や人脈、学歴はいらない

 堀江 貴文

2019年3月30日

 過激なタイトルで恐縮だが、著者の言いたいことを突き詰めればそういうことだ。
 
 要するに積極的に「情報」を取りに行かないと時代に取り残されて、社会的にも肉体的にも「貧困」を招く
ことになり、その結果「死」に至るということだ。

 具体的にはp53で、生活保護など経済的に厳しく追い詰められていても、大手キャリアのスマホに一家で月
額数万円の出費に苦しむ家庭は、格安スマホの存在を「知らない」か「面倒でやらない」のいずれかだろう、
と指摘。受け身の姿勢が社会的貧困の理由だとしている。

 また、「情報だけで死は防げる」(p186)の項にあるように、
簡単に取得できる予防医学の知識を得るだ
けで、寿命は確実に伸ばせるにも関わらず知ろうとしない。

 どちらの例を取っても、手を伸ばせば簡単に手に入る「情報」に対応する気がない点は共通で、社会的にも
身体的にも結果として「寿命を削る」ことになっている。

 こうした人たちについては、自身でコントロールできない社会的な環境の影響も受ける「弱者」というより
は、単に必要な努力をしない単なる「怠け者」ではないか、とも個人的には思えるのだが。
 
 また、情報との関わり合いについて著者は、ネット全盛の今の時代、あらゆる情報はタダ同然で「入手」す
ることができるとし、これを何らかの形で「出力」することが、一段と重要なスキルになると説いている。

 本書では情報の入手を「インプット」と称し、シャワーのように浴びることが重要で、自分とは反対の意見
に触れ、あえて「ノイズを入れる」(p46)ことも必要だとする一方で、「クソ情報をスルーする力も不可
欠」(p193)としている。

 個人的には、ここでは単に「インプット」というよりは、情報への積極的な「アプローチ」と、価値判断を
伴った「取捨選択」という方が正確な表現だろうとは思う。

 また、「アウトプット」することの重要性に異論はないが、そこには情報の「読解力」「発想力」「表現力」
が欠かせないはずだ。インプットした情報を、そのまま受け売りで「垂れ流す」のでは意味がないのである。

 この「力」を言うと、「才能がない」「時間がない」などの言い訳が聞こえてきそうだが、どちらも「継続」
と「工夫」である程度はカバーできるはずだ。肝心なのは著者が指摘するように「頭の中のアイディア」に留
めず、「中途半端でも行動」に移すことだろう。

 堀江氏の著書は、ほとんど読んだことはないが、コラムや対談などはよく拝見する。おそらく「常識を疑
い、自分の頭で考えろ」という主義・主張は変わっておらず、本書で既読感を覚える人は多いだろう。

 これは推測だが、堀江氏の著作を何冊も買ってその内容に共感、満足している人は、そろそろ「購読」から
「実践」に行動を移す段階に来ているのではないだろうか。

【追記】
 健康に関する項で、世間的には健康食品とされる「納豆」が著者は好きではないらしい。納豆を執拗に勧め
てくる元嫁との「離婚の原因の5%くらいは納豆にある」(p184)という内容は笑えた。

「書く」ことは、「かく」ありたいという人生を「描く」ことだ

 

「書く」習慣で脳は本気になる

茂木 健一郎

2019年4月2日

 脳科学者である著者が、「書く」ことの重要性とメリットを解説している。

 全6章から構成されるが、各章の最後に「まとめ」が箇条書きで書かれており、その一部を紹介すると、
「脳は怠け者なので、本気のスイッチを入れる必要がある」(第一章)、「自分の行動を5段階で評価する
習慣が効果的」(第二章)、「文字にすることで、脳の資本が蓄積される」(第三章)などがある。

 勘のいい人は既にお気づきかも知れないが、第二章で著者が紹介しているように「書籍のレビューを5段階
評価し、他者に発信することで、目利き力が上がる」(p50)というのは、まさにAmazonで書評を書くこと
に他ならない。

 個人的な経験で恐縮だが、私がAmazonでレビューを真面目に書き始めたのは約一年前、今読み返してみる
と、始めた当時の文章は恥ずかしいほど稚拙だったし、書くのに時間も相当かかっていた。だがやはり「継続
は力なり」というのは本当で、最近は自分でもかなり効率的に執筆できるようになった気はする(ただの勘違
いかもしれないが)。

 著者は、「ネットで情報発信することはとても効果的だが、炎上を恐れて本音を隠すのは『書く』ことの意
味や目的から大きく逸脱している」(p160)と、鋭い指摘をしている。私自身まさにこの「炎上」を恐れて
SNSの類は一切やっていないのだが、この指摘は改めて自分の立ち位置を再考するきっかけになった。ただ「
根拠なき批判や言いがかり」への耐性は強い方ではないので、実際にSNSを始めるかは未定だが。

 巻末の「新書版おわりに」で、著者は「書くという行動を通じて、自分のポテンシャルを開放して、夢を実
現することもできる」(p207)と説いている。

 まさに文書を「書く」ことで、「かく」ありたいという自分の人生を「描く」ことができるのだ。

歴史を知るには役に立つが、「反骨」な内容は少ない

 

東京人 2019年 05 月号

2019年4月3日

 この「東京人」という雑誌を手に取るのは初めてなので、本誌の読者層や過去の経緯などは知らないので
恐縮だが、店頭で表紙の特集(多摩・武蔵野)に惹かれて読んでみた。

 タイトルは「反骨の多摩、武蔵野」だが、その内容の大半は「写真を資料として地域の歴史を振り返る」
であり、いわゆる反骨な記事は五日市憲法の解説や滝山団地に関するエッセイ程度で少ない。

 ただ、参考資料が豊富なうえ、地理的には三鷹から八王子辺りまでをカバーしているので、「多摩・武蔵野」
の変遷を知るには役に立った。

 個人的に面白いと感じたのは、批評家「矢野利祐」、漫画家「久住昌之」、地理人「今和泉隆行」という地
元に所縁のある三氏の座談会。地元に住んで暮らした人だけが分かるようなある種の世界観は、多摩地域の在
住者として読んでも「言われてみればそうなんだよね」と納得できるメッセージが多かった。
 
 私は、この「東京人」という雑誌のテーマのひとつであろう「文学」がどうにも苦手分野なので、この雑誌
を定期購読する予定はない。ただ、今回のように関心のあるテーマの特集であれば「普段読む実用系の雑誌と
は異なる編集方針に触れる」という観点からも勉強になるだろうとは感じた。