如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

ツッコミどころが多すぎる「老後資産」の取り崩し方法

老後資産の取り崩し可能額が1分でわかる計算(東洋経済オンライン)

岩城 みずほ : ファイナンシャルプランナー

 

 昨年の「老後資金2000万円不足問題」以来、各種メディアでこの問題への対応策などが報じられてきた。東洋経済もその例に漏れることなく、随時関連情報を発信してきたと思う。それはそれで必要な情報だし、ニーズもあるので掲載するのは良いことである。 

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 ただし、2月9日の東洋経済オンラインに掲載された記事「老後資産の取り崩し可能額が1分でわかる計算」はツッコミどころ満載の「詰めが甘い」内容と言わざる得ない。

 

 著者はファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏。NHKやフリーのアナウンサーや会社員を経て、FPとして独立、経済評論家の山崎元氏との共著もあるようだ。

 

 ただこの記事、どうにも内容が「浅い」のである。タイトルに「1分でわかる」と打っているので、初心者にも分かりやすくという趣旨で書いたのだろうが、東洋経済オンラインの主たる読者層(中堅ビジネスマン以上を想定)にとっては、「いまさら」という事例が多いし、事実誤認に近いものまである。

 

 例えば1ページ目で59歳の会社員を例に出しているが、ここで「50代は人生で収入が最も高くなる時期です」とある。

 現在、大半の会社では50代になれば「役職定年」を迎えて、給料は20%近く下がるのが一般的だ。最も高いのはそれまでの40代後半からせいぜい50代前半だろう。

 

 加えて言えば、政府の働き方改革推進で今年の4月からは「同一労働同一賃金」が適用される。これによって多くの会社で実施が見込まれるのが、正規労働者の給料を、非正規労働者に合わせるという「実質的な賃下げ」だ。

 具体的には「住宅手当」「家族手当」などの削減が想定されている。これは私の勤める会社でも4月から実施される。その削減額は月数万円になるので、家計への影響は避けられない。こういった「現実」に触れていない点で、まず「合格」とは言えない

 

 次に指摘したいのが「退職一時金を受け取ったらどうするか」の部分。記事では「老後不安を必要以上に感じて不適切な金融商品を購入し、結果的に老後生活を不自由なものにしてしまう」としているが、これはもはや50代にとっては「当たり前」すぎる話。いまどき銀行で「外貨建て保険」に入るような人は当サイトの読者にはいないはずだ。

 

 むしろ記事にすべきは、その前段階の退職金を「どう受け取るか」の方だ。具体的には「一時金」「年金」「並行利用」の3つがあるが、その損得勘定(納税額)は人によって異なる。受け取り方次第で数十万円以上の差が出るのだ。この辺の事情については同じ女性FPでもより実績のある深田晶恵氏の記事「定年後の手取りを増やす退職金の受け取り方『たった1つのコツ』」の方が実践的で役に立つ。残念ながら東洋経済オンラインではないのだが。

 

 もうひとつ気がかりなのは、政府内で浮上している退職金課税の見直し。日本経済新聞は昨年10月「甘利自民税調会長「働き方による差是正」、退職金課税の見直し議論」との記事を掲載、勤めた期間が20年を超えると控除額が大きくなる退職金課税の見直しを検討課題としている。

 2020年度の税制改正では導入は見送られたが、来年度以降も俎上に上がる可能性は高い。これについても「一言も触れない」のは退職金を取り巻く情勢判断に甘さがあると言わざるを得ない。

 

 最後に指摘したいのが、老後の総資産を4000万円と設定して寿命を95歳とし「4000万円÷30年=約133万円で、1年間に取り崩せる額は133万円。これを普通預金に移し、12カ月で割った約11万円ずつ毎月使っていきます」としていること。

 これは現在一般的な考え方で、実践している人も多いのは事実だが、退職後の資金引出しについては、少しづつだが「定額法」よりも「定率法」の方が優勢になりつつある。(参考記事「逆算の資産準備」のすすめ~余命を考慮した引き出し率を考える)。

 年齢を重ねれば、総じて活動範囲も狭まるし、食も細る。厚生労働省の「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会」の資料によれば、平成28年の健康寿命は男性が72.14歳、女性が74.79歳。自分が自由におカネを使える期間はせいぜい75歳ぐらいまでと考えた方が現実的だ。

 つまり、65歳から95歳までの30年間を一律で毎月11万円消費するという前提そのものが、老後の一般的な生活から乖離していると言える。

 

 記事では、最後に「①1年間にいくら使ってもいいかを「毎年計算し直す」、②運用を続けながら、取り崩していくこと」が大切だと指摘している。この考え方自体は正しいと評価できるだろう。

 問題は、この結論に至るまでの解説に「詰めの甘さ」が多すぎるという点だ。厳しいようだが、同じFPでも先の深田晶恵氏や共著もある山崎元氏の方が、ずっと読み応えのある記事を書いていると思う。

 

 並のサラリーマンよりは金融リテラシーの高い読者層が多い東洋経済オンラインなのだから、著者には次回はもう少し「骨のある」記事を期待したい

 

悩む住宅問題、現役時代は賃貸で住み替え、引退後に現金一括購入がおススメなワケ

「持ち家か賃貸か」老後に困らないための正しい考え方(ダイヤモンドオンライン)

深田晶恵

 

 住まいに関する問題で過去も現在も最も悩ましいのが、過去も現在も「持ち家か」「賃貸」かの選択である。

  

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 この課題については、これまでにも様々なメディアで専門家が持論を展開してきたが、現在に至るまで「決定的な結論」は出ていない。総じて言えるのはSUUMOなど住宅業者寄りのメディアは若いうちの物件購入を進める傾向にあり、一部のファイナンシャルプランナー(FP)などが賃貸を勧める傾向が見られるといったところだろうか。

 

 こうしたなか、著名なファイナンシャルプランナー(CFP)で生活設計塾クルー取締役の深田昌恵さんの「『持ち家か賃貸か』老後に困らないための正しい考え方」というタイトルの記事が、2月6日付けのダイヤモンドオンラインに掲載された。

 

 本人は仕事柄「購入と賃貸とどちらがトクですか?」という質問を受けたり、このテーマで雑誌の取材を依頼されるそうだが、「これまで引き受けたことはない」そうだ。なぜならば「試算条件の設定次第で結果が大きく変わるから」。

 

 これは私も共感する住宅に関する認識のひとつである。細かい設定条件などは記事を参照して頂くとして、簡単に言えば「変動要因が多すぎて、万人に当てはまる正解はない」ということだ。購入の場合は、金利、返済期間など、賃貸の場合は更新料や引っ越し代などが該当する。

 

 とはいえ、記事では後半で、「住宅ローンを組んでマイホームを購入することは、老後の家賃を前払いするようなもの」として、年金生活をベースにした将来に不安を持つ人に対して、購入という選択肢もあることを解説している。

 確かに現在の年金制度が将来にわたって維持されると考えている人は少数派と言っていい。支給開始が70歳になるのはもはや現実的には既定路線だし、支給額も減額は必至。目減りする年金から賃貸料を負担するのは、よほどの預貯金がなければ厳しいだろう。

 

 著者は、購入する際には購入する場合は60歳までの返済が望ましいが、現在の物件価格の水準からみて65歳までとするのが月々の返済額から見て現実的としている。まあ、これも間違ってはいない。もっとも住宅支援機構によれば「完済債権の平均経過期間」は2018年度で15.8年と意外に短いのだが(P11)。

 また、記事で著者は「持ち家推進派」でも「賃貸推進派」でもない、と強調しているが、個人的な感想を言えば、はどちらかと言えば「購入も考慮した貯蓄が望ましい」という、やや持ち家推進派ではないかと思う。

 

 私自身の住宅問題に対するスタンスはここ5年ぐらい変わっていない。それは「現役時代は多少不便でも賃貸に住んで貯蓄に励む。現役引退前後に現金一括で持ち家を購入する」というものだ。

 

 この理由だが、まず若い世代に住宅を購入してしまうと身動きが取りにくくなるという点が挙げられる。具体的には、転勤や子供、周囲の住民など環境の変化に対応しにくいこと。

 そして、物件が地震や火災などで被災した際に生活を立て直すのに大変な労力がかかることが挙げられる。また、マンションの場合管理組合という面倒かつやっかいな存在もある。

 これが賃貸なら、生活環境に問題が生じたらさっさと別の場所に住み替えればいい。所得が減少したら安い家賃の物件に引っ越せばいいだけの話だ。地震や家事の場合も、契約を解除して住み替えれば済む。環境の変化に柔軟に対応できるのが賃貸の最大のメリットだ。

 

 とはいえ、現役引退後に年金から賃貸料を毎月支払うのは確かに厳しいのも事実。そこで、賃貸生活時代に貯め込んだ貯蓄で、物件を現金一括購入するというのが私の持論である。

 貸料を支払いつつ貯蓄をするのは困難というのは分かるが、いまは積み立てNISA(少額投資非課税制度)もあるので、長期の資産形成の手段は少なくない。加えて言えば、給料天引きで貯蓄するのが基本だ。日々の生活費から残った額を貯蓄などというのは私自身の経験上からもまず失敗する。

 

 外部環境から見れば、今後中長期的に、都市部を含めて人口、世帯数は減少するのが確実なうえに、新規住宅着工件数は減ることはあってもゼロにはならない。総務省の「平成 30 年住宅・土地統計調査」によれば、2018年時点で過去最高の13.6%だが、この比率は今後さらに上昇することは間違いない。

 

 つまり住宅の需要が減る一方で、供給は続くのだから空き家は増える。結果として物件の価格は下がると言わざるを得ない。

 ちなみにすでにこの傾向は首都圏近郊でも出始めており、郊外のバス便物件ならば1000万円を割り込む物件も珍しくなくなっている。

 この価格崩壊のエリアは、年を追うごとに首都圏中心部に向けて拡大していくのは必至だろう。20年、30年後には、築10年ぐらいで駅から徒歩10分以内の物件が数百万円で買える時代になっている可能性もある。

 しかも定年時には子供もすでに独立しているはずで、夫婦や一人暮らしなら部屋数も少なくていいので、選択肢も広い。

 

 その頃はマンションの寿命も普通に50年以上には伸びているはずだから、老朽化に伴う大規模修繕や建て替え問題が起きる前に本人の寿命が先に来るはずだ。

 戸建てなら管理費と修繕積立金もかからないが、定期的な外壁工事や庭の手入れが必要なほか、2階建てなら階段の上り下りは高齢者にはキツイかもしれない。

 

 以上から結論をまとめると、記事の最後にあるように「重要なのは、わが家(自分)にとっての買い時なのかどうか」ということだ。

 もちろん「住宅はプライスレス」という人もいる訳で、精神的な満足度を得られて家族が幸せな生活を送れるなら、多額の借金も厭わないという人がいてもいい。

 

 ただ、その際にも資金計画は慎重にも慎重を重ねた方がいい。個人的にもっとも危惧しているのは、湾岸のタワーマンションを夫婦共稼ぎの共有名義で、借入の上限額を35年の変動金利フルローンで購入するような世帯だ。

 この場合、かなりの確率で将来の生活基盤は脆弱だと言わざるを得ない。どう考えてもリスク要因が多すぎるのだ。

 

 タワーマンションへの憧れやそこから見える眺望の優越感は一時的なものだが、その背後にある住宅ローンと生活は一生続くのである。購入を検討している人は、とりあえず一歩踏みとどまって「未来の家計」を熟慮した方が良いだろう。

銀行も随分変わったものだ――地銀が婚活事業に参入とは

「婚活」マッチングに銀行が乗り出す深い事情(東洋経済オンライン)

三上 直行 : 東洋経済 記者

 

 銀行に対して、まだ一般人は「信用」できる民間企業のひとつとして認知してはいるが、貸出先の減少、超低利金利の継続で、本業が厳しいのは巷で言われている通り。

 やや古い記事だが、東洋経済Plusの2017年7月8日号には「収益柱の預貸業務で稼げない! 7割の地銀が実質赤字」という記事が掲載されたし、昨年2月には日本経済新聞が「地銀3行、赤字転落 4~12月 低金利で収益力限界」と報じている。

 

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 メガバンクを中心に大規模なリストラが計画、実行されているが、これらはコスト削減を狙ったもので、言わば「後ろ向きの対応」と言えなくもない。

 こうしたなか、愛知県ではトップの地銀である名古屋銀行が「婚活」事業に参入したことを伝える記事「『婚活』マッチングに銀行が乗り出す深い事情」が2月5日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 記事によれば、名古屋銀行は2月14日に独自の婚活パーティーを開催する模様。ここに至るまでには2018年に婚活サービスを展開するIBJとの業務提携が貢献したようだ。

 本業で稼げないなら、新たな事業への参入というのはどこの企業でも考えることだが、この銀行の手掛ける婚活サービスも新規事業への参入であり、少なくとも「前向きの試み」であることは間違いない。

 

 そのきっかけは、以前から銀行に持ち掛けられていた取引先企業からの「うちの息子にいい相手はいないか」といった相談に対応するために、「事業承継支援の一環」として立ち上げたことにある。無論、婚活サービスが利益に大きく貢献する訳ではないが、地元企業との絆を強めるという中長期的なメリットは小さくないはずだ。話題になれば、銀行のイメージアップにも繋がる。

 

 この展開を簡単に言い換えると、銀行が本業の「お金の融通」に加えて「人材の融通」にも対応することで、業容を変化させていると見えなくもない。

 もっとも人材についてはこれまでも、銀行は40代から出世競争から外れた行員を取引先に供給してきたという事実はあるが、これは「融資」という紐付きの人材提供だった側面は否めない。企業側にとっても、金融機関から要請があれば受け入れざるを得ないという事情があった。

 

 これに対して、今回の「婚活サービス」は逆に企業からの要請に対応するという内容であり、しかも取引先ではない一般人まで対象にしているという点で、かなりの本気度が感じられる。

 

 しかもこの婚活パーティー(恋するバレンタイン)30代の男女10名程度の限定とはいえ、参加費用は無料だ。記事によれば提携先のIBJに個人が直接申し込むと初期費用が16万5000円以上、月会費は1万5500円かかるので、これは小規模とはいえ名古屋銀行の損益度外視の大盤振る舞いである。

 

 個人的には、本業で利益が出ないと文句ばっかり言って何もしない他の多くの地銀よりも、遥かに前向きで評価できる対応だと思う。

 もともと地方において銀行は、地元の信用は高く、就職先としても人気は根強い。今回の婚活サービスに限らず様々なコミュニティの形成に貢献できる余地は大きい。しかも、大抵の地銀が、市街の一等地に本店を構えており、その存在感を生かさない手はない。

 

 今後、キャッシュレス化の進展、ATMの削減などで銀行への逆風は強まる一方で、何も手を打たなければ顧客の銀行離れは止まらないだろう。

 

 これまでのおカネを融資のための「メインエンジン」とする体制から、各種顧客向けサービスのための「潤滑油」にするような発想の転換が銀行には必要なのかもしれない。

不動産相場の波乱含みを予想する専門家長嶋氏の良心

価格は?今年の不動産市場を読み解く3ポイント(東洋経済オンライン)

『SUUMOジャーナル』編集部

 

 不動産業界は魑魅魍魎の跋扈する業界であり「性悪説」を前提に対応すべき、とのタイトルで1月30日に当ブログを書いたが、こうした業界においても個人的に「良識派」として日ごろから信頼を置いている関係者の一人に、不動産コンサルタントの長嶋修氏がいる。 

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 この長嶋氏の執筆した記事「価格は?今年の不動産市場を読み解く3ポイント」が2月2日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 もっとも、記事の直接の投稿者は『SUUMOジャーナル』編集部となっており、長嶋氏の名前は文末に(文/長嶋修)として掲載されている。

 

 この記事執筆の二重構造を個人的に分析すると、SUUMOはリクルート住まいカンパニー運営の不動産・住宅情報サイトであり、その事業収入の大半は当然ながら不動産の販売会社の広告になっている。こうなると編集部としては、不動産に関連する「マイナスな記事」は掲載しにくい

 

 一方で、新規物件の供給は昨年当初から減少傾向にあり、広告収入だけでは駅ナカのフリーペーパー事業(SUUMO新築マンション)などが成立し得なくなりつつある。実際昨年春頃まではSUUMO新築マンションは綴じ込みが糊付けだったが、春以降はホチキス止めとなりこれは現在も続いている。

 

 こういう状況下で、イケイケドンドンの不動産買いを推奨するような記事を出すのは、さすがの剛腕なリクルートでも厳しいのだろう。とはいえ、業界内でのプレゼンス(存在感)を落とすわけにはいかないという事情もある。

 そこで、顧客との関係を維持するために不動産市況を客観的に評価する記事が必要となった結果、業界内の事情に精通している長嶋氏に原稿の執筆を要請した、というのが実態だろう。

 

 話が逸れたが、今回取り上げた記事のテーマは「今年の不動産を読み解く」だ。記事に登場するキーワードは3つ。

  1. さらなる災害リスク
  2. 不動産価格のピーク感
  3. 政治の動き

である。

 

 1の災害リスクは昨年の台風による水害を想定している。記事では、「不動産売買・賃貸契約時にハザードマップの説明を義務付け」は現時点では義務化されてはいない、としているが「『浸水想定域の説明義務づけ』を提言 全国知事会、宅建業法改正で」と昨年7月に報道されているように、ハザードマップへの関心が顧客サイドからも高まるのは確実だろう。

 というよりは、今までの買い手があまりにも物件選別にあたって「被災リスク」を考えずに購入していたと言わざる得ないと思っている。

 

 加えて言えば、「地盤」にも注意すべきだ。国土交通省の国土地理院のWebサイトで「数値地図25000(土地条件)」が無料で公開されており、以下のような地形分類が確認できる(表は分類の一部)。

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地形分類(国土地理院のサイトから)

 2の不動産価格のピーク感は言うまでもないが、読者の関心が最も高いテーマである。記事では「平均価格は横ばいかやや下落」としているが、実際には中古を含めて高くなり過ぎた物件価格だけに、表向きは価格を維持するものの、実際の販売価格はかなり値下げせざるを得ない物件が増えると思う。

 

 現在は、共稼ぎの二馬力、35年のフルローンで共有名義のタワーマンションを購入するという人もまだいるが、企業業績が伸び悩み、大規模なリストラは今年も続く見通し、3組に1組は離婚するなかで、住宅ローンの負担に耐え切れず、物件を手放す事例が今年以降急増するのは確実だろう。

 

 雑誌などの時勢に敏感なメディアは、こういうテーマにはすぐに飛びつくので、住まいへの「一時の憧れが、一生を狂わせた」といった刺激的な活字が見出しになる可能性は高い。

 

 リーマンショックの時期と比べて、大手デベロッパーの市場占有率が高く「資金面で体力があるので安易な安売りはしない」との観測もあるが、モノには限度というものがある。

 売れなければ在庫になった住居の管理費、修繕積立金はデベロッパーが負担することになる。しかも竣工後1年を経過すれば、制度上「新築」を名乗ることはできない。売り手にとっては日を追うごとに売りにくくなり、費用負担が重くのしかかる。

 

 こうなると在庫は積みあがる一方なので、いずれは赤字覚悟で販売せざるを得なくなるだろう。一社が値引きを始めれば他社が追随するのは自然の流れで、これは中古市場にも影響を与えるはずだ。

 

 具体的な物件を挙げれば、「晴海フラッグ」がきっかけになるかもしれない。総分譲戸数4145戸の販売が本格化するのは今年から。オリンピックまでは何とか持ちこたえるのかもしれないが、その後は不透明だ。

 これは個人的な見方なのだが、そもそも選手村として一度使われた住戸なのに、その後リノベーションして販売する物件を「新築」とか「未入居」とか言っていいのか疑問だと感じている。まだメディアはどこも指摘していないようだが。

 

 最寄りの勝どき駅までは徒歩で約20分、広大な敷地の割には各棟が密集しているし、ゴミ処理工場は隣接、タワーマンションに匹敵する高さの工場の煙突は嫌でも目立つ。冷静に考えると、わざわざこの物件を選ぶ理由は見当たらないーーと当ブログでも「晴海フラッグ、見落としがちな2つの視点」として昨年4月18日に指摘している。

 

 記事では最後に、3の政治、経済情勢を考慮して、今年の不動産市場は「大きなトピックがなければ横ばいまたはややマイナス」「世界の政治・経済情勢に大きな変化があれば大きくマイナス」になる、と締めくくっている。これは現状での認識としては至極真っ当な見方だろう。

 

 ただ個人的には、ごく都心の優良物件を除けば「相場全体はマイナス基調が鮮明」に、経済情勢次第では中古を含めて「急落」の可能性もあると思っている。

「酒を飲まない」のは、自分の価値感を重視する人の選択

「酒を飲まない人」が、いま日本企業で「注目」されている意外なワケ(マネー現代

藤野 英人 レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役社長

 

 酒を飲まないという選択をする人が増えている――この事例を紹介しながら、日本でも個人が「集団」から「個人」を優先する傾向が高まっていることを解説する記事「『酒を飲まない人』がいま注目されるワケ」が1月31日付のマネー現代に掲載された。

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 記事のタイトルからは、「あぁ、若者の酒離れの話ね」と想像してしまいそうだが、この記事の本質は日本人の「気質」が変化しつつあることを説明するための事例として「酒を飲まないこと」を引き合いに出した点にある。

 

 著者は、独立系資産運用会社「レオス・キャピタルワークス株式会社」の代表取締役社長・藤野英人氏。会社は最近注目されている「ひふみ投信」の運用会社といった方が分かりやすいかもしれない。要するに藤野氏は資産運用のプロである。

 

 記事は冒頭で、藤野氏が昨年フェイスブックで下戸の人たちが集まれる場として「ゲコノミスト お酒を飲まない生き方を楽しむ会」というグループを立ち上げ、現在2500人近いメンバーを集めたことの紹介から始まり、続けて「お酒を飲まないことをポジティブに考える層が厚みを増しているように思います」と指摘している。

 

 とまあ、ここまでは各種メディアで伝えられた若者中心の「酒離れ」の内容とさして変わらないのだが、著者はここからプロの「投資家」としての立場から「酒」に対する企業・社会の変化を解説している点にオリジナリティがある。

 

 例として、企業が忘年会を開催しなくなったのは、「働き方改革への意識の高まり」が背景にあるとし、昨年「忘年会スルー」という言葉が席巻したように、これまで「参加せざるを得ない」雰囲気に包まれてきた職場の忘年会が、企業・社員の間で「強制的な参加」を問題視する動きが強まったことが影響していると分析している。

 

 個人的な話で恐縮だが、私の勤める会社では会社や職場単位での忘年会は5年近く前からなくなっている。不景気で宴会などに時間もおカネもかけられないという事情もあっただろうが、私が新人の頃は毎日のように職場の先輩に連れられて居酒屋でわいわいやっていた社員の間での「飲み会」もほぼ消滅した。

 

 記事の言葉を借りれば「日本の企業や個人がより主体的にものを考えるようになってきたことの表れ」ということだと思う。

 

 昨年来、「終身雇用は維持できない」という発言が経済界から相次いで聞かれ、50代後半が対象だったリストラの対象年齢も40代まで低下している。それも富士通、NECといった大企業の大規模リストラが目立ってきた。

 加えて、年功序列の賃金制度も崩壊しつつあり、実績を上げなければ年収の減額は必至の会社も増えた。人事制度も年下の上司、年上の部下は当たり前になりつつある。

 

 こうなると物事の判断基準や人生の価値観は、自分自身で選択、決定せざるを得なくなる訳で、これまでのような「会社任せ」のキャリアプランでは、転職が一般化していく今後の労働市場では通用しなくなる。この傾向は今後も一層強まるだろうし、同時に個人の「実力」が客観的に評価される時代になることを意味する。

 

 私自身はあと数年で60歳定年なので、何とか逃げ切れるのかもしれないが、その後の再雇用は1年ごとの契約となる。65歳まで継続雇用される保証はないことを考えれば、やはり手持ちのカード(スキル)は多いに越したことはない。

 具体的にはまだ公言できる段階ではないのだが、シニア層でもこれまでの経験を生かせる公的な資格取得を私の今年の目標にしている。

 

 厚生労働省の「平成22年簡易生命表」によれば、65歳まで生きた男性の平均余命は18.86年で、84歳まで生きる可能性が高い。引退後の20年間を「のんべんだらりん」と過ごすのは、もったいないと思う。ベストセラーのライフシフトではないが、人生の最終章は多くの日本人の場合、やはり「仕事」をすることが一番の生きがいになるのではないだろうか。

 

 「酒を飲まない」という傾向から、「個人が主体的に生きるようになった」という結論を導くのは、やはり資産運用のプロは「木を見て森も見る」ことができるのだと感心した。

不動産屋とは「性悪説」を前提に対応すべき――宅建士資格より営業成績を評価する体質

なぜ不動産には悪徳業者が集まるのか(アゴラ)

岡本 裕明 

 

 言論プラットフォーム「アゴラ」に、1月28日「なぜ不動産には悪徳業者が集まるのか」というタイトルの記事が掲載された。元ネタは岡本裕明氏のブログで、「外から見る日本、見られる日本人」からの転用とのこと。

 

 今回この記事を取り上げるのは、不動産業者というものに対して私自身が個人的に大きな不信感、嫌悪感を持っているからである。

 

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 ちなみに現在、私自身は不動産とは縁もゆかりもない職業に就いているが、学生時代に賃貸専門の不動産屋でアルバイトした経験があり、宅地建物取引士の資格も持っている。ブログではマンションを中心に不動産関連の記事をそれなりの本数を投稿してきた。

 

 一言で言えば、不動産業界に勤める社員に良心を求めるのは、八百屋で魚をくれというのに等しいレベルである。これは大手財閥系、中堅デベロッパー、街中の仲介業者を問わず、すべての不動産会社に当てはまると言っていい。

 

 業界の内情を描いたコミック「正直不動産」を読んで頂くと、いかに「いい加減」で「悪質」かがよく分かる。このコミックについては、私も第一巻をAmazonの書評でレビューしているほか、ブログでも昨年4月に「不動産屋を信ずるべからず。どうしようもない輩がいるのは事実。情報武装して立ち向かうべし」というタイトルで書いているので参照して頂きたい。

 

 アゴラの記事では、「なぜ、不動産には悪い奴らが集まるのか、といえば扱う金額が大きいこと、不動産売買そのものからマネーのにおいがプンプンするため、悪徳な輩が入り込む余地が大きい」と指摘しているが、これに加えて、専門知識のない従業員でも仕事が可能なうえ、業界の体質としていわゆる体育会系の組織が多く、給与体系が「歩合制」の比率が相対的に高いことを指摘したい。

 

 要するに、顧客に対して、「強引な勧誘」、「恫喝や泣き落とし」、「時間差の波状攻撃」など何でもありで、契約を取った者が偉いという絶対的な価値観が業界全体に蔓延しているのだ。

 

 その証拠として、宅地建物取引士(宅建士)の資格を引き合いに出したい。毎年20万人前後が受験する国家試験としては断トツの受験者数を誇る試験だが、合格率は例年15~17%に留まっている。7人に1人しか合格しない訳だが、これを「難関試験」と受け止めるのは間違いだ

 

 実際に宅建士の試験問題を見たことがある人であればわかると思うが、全50問で四肢択一、しかも過去問と類似した内容が少なくないうえに、暗記が必要な項目はあるが分量はさほど多くはない。まともな学習能力を持つ人であれば、半年も勉強すれば、合格することは難しくはないはずだ。

 

 合格点は毎年変わるが、70%つまり35問正解すればほぼ合格できる。試験範囲で言えば「民法」は難問・奇問が毎年いくつか出題されるが、これは大多数の受験生が間違えるので問題にはならない。他の分野でカバーすれば十分に35問は正解できる。

 

 要するに、まともに勉強をせずに会社から急かされて「仕方なく」受験する不動産会社の従業員が多数を占めている結果、見かけ上の合格率が低くなっているだけなのだ。

 

 ではなぜ勉強もしない社員が宅建士試験を受験させられるかと言うと、法律で事務所には従業員5人につき1人以上の宅建士資格保有者が必要とされているからだ。というのも「いざ契約」となると、顧客への説明が義務付けられている重要事項説明を行えるのが宅建士に限られているのである。このため資格保有者は多いほど契約がスムースに進むという効果がある。

 

 逆に言えば、顧客との交渉で契約の意志を確認して契約に結び付ける直前までは、宅建士の資格がなくても問題はない。つまり資格がなくても不動産の営業活動が可能なのである。

 

 このような状況下では、資格の有無よりもセールストークや営業活動がうまい従業員の方が評価されるし、給料も高くなるのは当然と言える。現場の営業マンにすれば「資格取得」よりも「セールス」に力が入るのは当然だ。

 

 現在、物件を探している人にアドバイスするとすれば、担当者に「宅建士の資格を持っていますか?」と聞いてみることを勧める。かなりの確率で持っていないはずだ。私の経験では、超大手財閥系の営業担当者の名刺を受け取った際ですら、宅建士の名称が入っていなかったことがある。

 

 時間的に余裕があるのであれば、物件購入の前に宅建士の資格を取ることをお勧めする。先に書いたが真面目に半年勉強すれば取得できるレベルの資格である。

 モデルルームなどで担当者との出会い頭に宅建士の資格証を見せると、その効果は絶大だ。相手が資格保有者であっても、言葉遣いには慎重になるし、仮に資格がない担当の場合は、かなりの確率で顔色が変わって奥に引っ込み、別の担当者か上司が対応することになるはずだ。

 つまり当初の担当者が「通常のいい加減な対応では自分のペースに持ち込めない客」ということを本能で察知するのである。これは買い手にとっても「まともな」営業マンに担当してもらえるというメリットがある。

 とは言え、逆に警戒されて「ぞんざいな扱い」を受けることがあるかもしれないが、そんな不動産屋はロクでもないのは明白なので、こちらから願い下げた方がいい。

 

 以上をまとめると、不動産会社の営業社員に対しては「性悪説」を前提に対応するべきだ、ということだ。もちろんすべての営業担当が悪人だとは言わないが、不動産は金額が大きい取引だけに失敗した場合のダメージは大きい。相対する担当者は慎重に選んだ方が間違いないと思う。

 

 そもそも、例え資格はなくても物件や取引に関して相手は営業の「プロ」である。一方、顧客であるこちら側は、情報や経験で圧倒的に不利な「素人」の立場にあるのが不動産取引の実態なのだ。

 こうした状況に対応するには、こちらが情報武装して相対するしか手はないと思った方がいい。

定年後の趣味、一人で楽しむ方法はいくつもある

趣味がないと孤独になる可能性も?老後にオススメの趣味をお伝えします!(UKANO)

 

 仕事一筋でやってきた定年後のサラリーマンが、職場以外の居場所がないうえに家事もまともにできなくて、妻から「粗大ゴミ」(粗大生ゴミ)とか、妻の行動に同行するので「濡れ落ち葉族」などを揶揄されているのは、広く知られている。

 

 こうした定年後の生き方については、近年「定年本」と呼ばれる書籍が多数出版されていることから、ニーズもあって、それなりに対策を講じている人も多いだろう。

 

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 今回紹介するのは、UKANOという「家計のリスクや不安”を解消するWEBサービス」のコラムで、26日に掲載された「趣味がないと孤独になる可能性も?老後にオススメの趣味をお伝えします!」という記事。

 

 記事全体の印象としては、特段目新しい内容はないのだが、定年後の趣味全般について幅広くカバーしているので読みやすい。

 

 記事では、定年後に頭や体を使うことで認知症を予防できるほか、新しいことを手掛けることで気分がリフレッシュできる効能を解説している。

 

 アウトドア関連では、ウォーキング、ランニング、登山のほか旅行を勧めている。

 まあこれらはどこのメディアでも取り上げられているので、「斜め視線」からの文章を売りにしている当ブログでは、これにいくつか補足したい

 

 まずランニングだが、日頃運動不足を自認している人はいきなり「走る」ことはやめた方がいい。まずは「歩く」ことから始めて、徐々にスピードを上げていく方が負担は少ない。

 そして目標はランニングでも構わないのだが、個人的には「自転車」を推奨したい。というのも、私を含めて中年太りでメタボ体質のシニアにとっては、ランニングは走るたびに片足に全体重が一気に乗るので、膝への負担が大きいのだ。知り合いにもジョギングを始めたものの、膝を痛めて自宅療養せざるを得なくなった人もいる。

 

 これが自転車であれば、下半身全体に力が分散されるので、膝を痛める可能性は低くなる。しかも行動範囲が「足」よりも広がるので、気分転換の効果も大きい。

 ママチャリでも構わないのだが、個人的にはちょっと変化を求めてクロスバイクを勧めたい。これはママチャリと競技用のロードバイクの中間的な存在で、車体の重量はママチャリよりもずっと軽く、価格はロードバイクよりも安い。

 ハンドルの位置がママチャリよりも低いので、腕にも力がかかるため上半身の筋肉も使うという効能もある。

 

 さらに補足するなら、スーパーのオリンピックの子会社が開発した走行補助装置「フリーパワー」の装着を勧めたい。

 これはシリコンゴムの特性を生かして、走り出しの踏み込みの力を弱める一方で、その反発力で推進力を高めるという機能で、私自身クロスバイクに後付けで装填した。

 確かに踏み出しは軽くなったし、上り坂も楽になった実感はある。自前の自転車を持ち込んで装着してもらう場合、費用は1万数千円程度だ。

 

 一方、インドア関連では、日曜大工、囲碁・将棋、芸術鑑賞を勧めている。まあこちらも「よく知られた」定年後定番の趣味ではある。あと付け加えるとすれば「陶芸」だろうか。

 

 囲碁の場合、碁会所に行くという手もあるが、初心者にはハードルが高い。日本棋院が手掛けるネット対局「幽玄の間」なら、月15局まで相手からの申し込みによる対局が無料で打てる(これ以上は有料)。

 将棋ならば日本将棋連盟の「将棋倶楽部24」が会員になれば無料で対局が可能で、棋力に見合った対戦を設定してくれるうえ、5級から六段までの認定状、免状の申請もできる。

 

 ただ囲碁も将棋も相手がいてこそ楽しめるもので、自分の都合だけで好みの相手と対戦できる訳ではない。

 私のおススメはAmazonプライムの「映画、アニメ鑑賞」だ。年間4900円(税込み)がかかるが、この価格には「購入した商品の配送無料」「音楽200万曲が聞き放題」などが含まれており、月に1回以上Amazonで注文するなら、十分に元は取れる。同じ映像配信サービスのネットフリックス(月額800円から)よりも圧倒的にコスパは高い。

 

 肝心のAmazonプライムの「映画、アニメ」だが、私の場合、アニメが主体なのだが、ほぼ隔月で10本近くが新たに「番組」として配信が始まり、作品によるが大体一週間ごとに最新話が追加される。しかも作品が最新作が大半を占めているのがありがたい。

 旧作に至っては、昨年人気作品「フェアリーテイル」が一度に全277話が配信されて、驚いたことがある(現在も視聴可能)。

 

 アニメだけでもこの頻度で配信されるうえに、Amazonプライムには「映画(邦画・洋画)」のほか、内外のドラマなどのオリジナル作品も多い。はっきり言って全てを視聴するのは無理といってもいいぐらいのレベルである。

 

 以上をまとめると、定年後の趣味については「無理」に人とのコミュニティに入らずとも、アウトドアでは自転車で体力を維持しつつ外界の景色を楽しみ、インドアでは好きな映画やドラマで見聞を広げるという、「一人」で趣味を十分に楽しむことが可能な環境が整っている、と言っていい。

 

 定年後の「居場所探し」を必要以上に心配する必要はないというのが個人的な意見だ。

レジ袋有料化、影響は個人商店に及ぶ?――新年度以降の関連商品に期待

7月からレジ袋完全有料化…安倍政権の「消費増税+キャッシュレス推進」で個人商店廃業(ビジネスジャーナル)

文=小川裕夫/フリーランスライター

 

 2020年7月からレジ袋の有料化が全国一律でスタートする。税金ではないのでレジ袋の価格は全国一律ではないが、スーパー、コンビニ、個人商店など業態を問わず導入されるので、消費者への負担は確実に増える。こうした事態に伴う影響を解説する記事「7月からレジ袋完全有料化…安倍政権の『消費増税+キャッシュレス推進』で個人商店廃業」が26日付けのビジネスジャーナルに掲載された。

 

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 記事では前半で、これまでのレジ袋有料化に向けた自治体の取り組みなどを紹介、後半では「レジ袋有料化は大義名分ばかりが立派で、その内実は面倒なルールが増えただけで終わる可能性が高い」として、その弊害を指摘している。

 

 ビジネスジャーナルが政策批判をするのは珍しい話ではないのだが、今回の記事は「ツッコミ」要素が満載の内容だった。

 

 まず、レジ袋削減策に積極的な自治体として「東京都杉並区」を挙げている。同区は2002年にレジ袋への課税を制定したが、1枚5円という重税感などから結局導入は見送られた。

 レジ袋有料化の事例として引き合いに出すなら、「富山県」の方が適切だろう。同県は平成20年4月1日から県下全域で、要スーパーマーケット及びクリーニング店で、レジ袋の無料配布の取止めを実施している。

 検討したけど導入できなかった「区」ではなく、10年以上前から実現している「県」の事例を取り上げないのは、記者の取材不足と追われても仕方がないだろう

 

 また記事では、「いずれレジ袋の価格競争・サービス競争が起きてしまい、レジ袋削減にはつながらない」と指摘している。

 これについては、昨年12月に公表された経済産業省・環境省の連名による資料「プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン」が参考になる。これによれば「商品価格を値引くことや、ポイントを付与すること、 その他の利益供与を行うことはここでいう有料化に含まない」(p7)、「複数枚のプラスチック製買物袋を提供する際に、一定枚数を有料で提供しつつ、その他の袋は無料で配布するという価格設定方法(例えば、1枚目を無料で配布する等)は、有料化には当たらない」(p8)と定めており、レジ袋を巡る競争は限定されると想定するのが妥当だろう。

 ”いずれにせよ”レジ袋の価格競争・サービス競争は起きない可能性が高い

 

 そして後半では、「地方自治体の商工課などでは、有料化を機に多くの消費者がネット通販に流れて商店街の“シャッター街化”が加速すると懸念されている」としているが、そもそも地元の商店街で買い物をするような地元民は「シニア層」以上が多いはずで、レジ袋の有料化をきっかけにネット通販に切り替えることなどできない「情報弱者」が大半だろう。

 しかも商店街で買い物をするシニア層(特に女性)は、マイバッグやキャリーバッグを持参していて、レジ袋を不要としている姿をよく見かける。考えてみれば、肉、魚、野菜などを個別の商店で買うのだから、いちいちレジ袋に入れてもらうよりも、持参したバッグにまとめて入れた方が効率的だ。

 すでに来客層がシニア以上に限定されている商店街が、レジ袋の有料化で大きな影響を受けることはないだろう。

 

 レジ袋有料化の効果だが、先の資料によれば8ページ目にレジ袋1枚の価格と、レジ袋辞退率の関係図が掲載されていて、レジ袋の価格は2円、3円、5円の3種類に集中しており、辞退率もすべて70%を超えている。有料化の効果は大きいと言える。

 加えて、近年全国の自治体が家庭ゴミ回収にあたって、回収用のゴミ袋の有料化を推進している事の影響も大きいだろう。これまではスーパーのレジ袋をゴミ袋に流用できたが、これが不可能になった。使い道の限られるレジ袋にお金をかける人は減るのは確実だ。

 

 個人的に今回のレジ袋有料化で関心を寄せているのは、資料の3ページ目にある「厚さが 50 マイクロメートル以上の袋は、繰り返し使用することが可能であり、 プラスチック製買物袋の過剰な使用抑制に寄与するものとして、省令に基づく 有料化の対象外とする」という記述。

 具体的にはレジ袋に「この袋は厚さ 50μ m 以上であり、繰り返し使用することが推奨されています」といった記載があれば、有料ではないということなのだが、実物を見たことがないので、判断のしようがない。

 この記述を見る限り、顧客が買い物の都度「繰り返し利用可能なレジ袋」を請求すれば、実質的に「有料化」の効果が低減する可能性はないのだろうか。

 

 ともあれ、全国一斉にレジ袋削減への取り組みが始まるのは良いことである。「レジ袋の使用は年間20万トン程度で、1年間に出る廃プラの2%程度」との指摘もあるが、「何もやらないよりはやった方がマシ」なのは間違いない。

 

 私も通勤の行き返りの途中で、コンビニ、スーパーに立ち寄ることは多いので、対策を講じるつもりだ。

 ただ、新年度入りして有料化の実施時期が迫ってくれば、各種業界が「レジ袋有料化対策」として様々な新商品を打ち出す可能は高い。エコバッグ等が中心になるのだろうが、今年のトレンド、人気商品のひとつになるのは確実だと思う。

 

都会に住む人が田舎に移住するのは「憧れ」に留めた方が無難

田舎暮らしで「失敗する人」と「成功する人」の差(東洋経済オンライン)

滝 和秀 : ジャーナリスト、中東料理研究家

 

 都会を逃れて田舎暮らしに憧れる人は少なくない――こう始まる田舎暮らしの実態をレポートした記事「田舎暮らしで『失敗する人』と『成功する人』の差」が24日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

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 記事は、12日に配信された「40代男性『生活費8000円』田舎暮らしで得た快感」が好評だったことを受けて、その続編という位置づけのようだ。

 

 著者は、ジャーナリスト、中東料理研究家の池滝和秀氏。経歴を読む限り少なくとも「田舎暮らし」の専門家ではない。推測ではあるが、著者が個人的に関心を寄せていた「田舎暮らし」で情報収集していたら、月8000円で暮らしているという実例を聞いて面白いので記事にしたら、予想外のインパクトがあった、という事情が影響しているようだ。

 

 記事の内容はタイトルにあるように、田舎暮らしにあたって成功、失敗する要因を列挙している。

 ちなみに本文中の見出しを挙げると以下のようになる。

  1. 古民家探しの現実は甘くない
  2. 何世代も尾を引いている怨恨
  3. 既成概念に縛られない創造力が必須
  4. 田舎暮らしは意外と忙しい

 の4つだ。

 

 これらの見出しから分かるように、「成功例の紹介」というよりは「失敗しない覚悟」を記事の大半が占めている。要するに、「安易な憧れで田舎暮らしをすべきでない」という警告と言えそうだ。

 

 都会の喧騒に悩まされて、田舎ののんびりとした暮らしに憧れる気持ちは私にも理解できる。テレビ番組で都会から移住して充実した人を取り上げることがあるのも、そういったニーズがあるからだろう。

 

 ただし個人的な考えを言えば、田舎へは「移住」ではなく「仮住まい」をまずは選択すべきだと思う。

 これについては当ブログでも「田舎暮らしに殺されない法 (朝日文庫)」の書評「田舎への移住は自殺行為だ!『住む』のではなく『いいとこ取り』をすべき」で詳しく書いているので参照して頂きたい。

 

 ちなみに書籍「田舎暮らしに殺されない法」では、冒頭から「田舎暮らしに憧れるのは自立の精神が欠如しているため」という、なんとも問題の本質を鋭く突いた指摘から始まる。その後の本書の内容は「本当にここまでやるの?」という田舎での生活の驚きの実態が明らかにされている。

 田舎暮らしを視野に入れている人は一読して損はないはずだ。

 

 私自身は田舎暮らしをする気はさらさらないが、定年後は余暇も増えるので、田舎で自然に囲まれた生活を「一時的」にするのは悪くないと考えている。

 ここで言う一時的というのは短期の仮住まいで、数日から数週間程度の期間だ。つまり田舎暮らしに付きまとう面倒な「付き合い」「慣習」などに関わらず、巻き込まれそうになったらさっさと自宅に戻るなり、別の田舎を探せばよい。

 

 もちろん過ごした田舎が気に入れば、期間を延長して、最終的に移住しても構わないとは思うが、おそらく都会の生活に慣れ親しんだ人をそのまま受け入れてくれる田舎はそう多くはないはずだ。

 参考までに私の親の実家がある田舎には、生まれてから住み続けている同い年の親戚がいるのだが、1年のうち半分の週末は「祭りや催しの会合」で、奥さんまで駆り出されるとこぼしていた。

 

 ブログでも書いたが、都会からの移住が失敗するのは、「よそもの」が田舎社会の内側に入り込もうとする結果、軋轢が生じるのである。外側でお金を払ってくれる「お客さん」であれば、理不尽な警戒や嫌がらせを受ける可能性は低くなるはずだ。

 

 記事では最後に「自然の美や恵みを感じ、今ここに在ることを楽しめる人だけが、田舎暮らしの成功者になれるのではないだろうか」とまとめているが、この境地に至るまでのハードルは相当高い。

 ここでいう「楽しめる」の代償として、受け入れざるを得ない「苦労」の方がはるかに大きいのが現実だと思う。

 

東証一部上場企業はそんなに偉いのかーー市場改革は急務

東証改革でも「ゾンビ企業」が半数残留の不可解(東洋経済オンライン)

松岡 久蔵 : ジャーナリスト

 

 東京証券取引所が2022年に株式市場を再編し、新たな上場基準を設けるうふぉきについて、現状の課題を指摘する記事「東証改革でも『ゾンビ企業』が半数残留の不可解」が23日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

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 著者はジャーナリストの松岡久蔵氏。経歴を見ると、地方紙勤務を経て現在はフリーで、マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバーしているらしい。証券、金融関係に特に強いという訳ではなさそうだ。

 

 記事では、今回の市場改革の目玉は「現在の1部市場にあたるプライム市場の新規上場基準は100億円。TOPIX(東証株価指数)についても、算出対象を1部市場の全銘柄から変更し、新指数に切り替える」ことだと指摘している。

 市場改革の詳細については、金融庁のWebサイト「金融審議会市場ワーキング・グループ 市場構造専門グループ報告書(案)」にその方向性が書かれているので、参照されたい。

 

 最大の注目点は、1月9日時点で第1部に上場している会社が2160社と全体(3704社)の58%を占めている「歪な現状」を改革するために、新たな時価総額基準を設けるということだろう。
 本来であれば、市場構成は第一部上場会社がピラミッド構造の頂点に位置し、そこを目指す大多数の第二部市場などの上場銘柄などが市場全体を構成するというのが望ましい姿のはず。現状はこれが「逆ピラミッド」になっている。

 

 また、現在の第一部市場は、プライム市場に名称を変え、その上場基準も単純に発行済株式数に株価を乗じた数値ではなく、市場に流通している株数をベースにしたものに置き換わるようだ。


 先の金融庁の資料によれば「現在、市場第一部に直接上場する際の時価総額の基準は、250 億円となっている。また、上場時の流通株式比率の基準は、35%以上となっている。これらを踏まえると、新たな定義による流通時価総額の基準は、100 億円を目途に検討する」(3ページ目の注釈)と書かれている。

 記事では、この基準によれば「数百社は新基準に届かない」という金融庁のコメントを引用している。

 

 個人的な意見を述べれば、第一部市場から除外されるのが数百社というのは、まだかなり甘い気がする。イメージとしては第一部市場は市場を代表するトップ企業群なのだから、市場全体の多くても10%、欲を言えば5%程度があるべき会社数ではないだろうか。

 仮に5%とすれば対象は185社となり、2500社以上がプライム市場からは除外されるが、185社は本物の優良銘柄群として、今までと比べ物にならない高い評価を受けるはずだ。

 

 そもそもの話で言えば、上場企業、マスメディアを初め、就職希望者や株式には薄い一般人まで「東証一部上場」という看板を高く評価しすぎていたことも問題だろう。

 確かに、会社の知名度や信用の向上に繋がり、融資や人材採用に貢献するという効果はあるのだろうが、不正な不動産融資で信用が大きく失墜したスルガ銀行(8358)やTATERU(1435)は依然として東証一部に上場している。
 身近な例では、音響機器のパイオニア(6773)が、業績不振によって外資に買収され、昨年3月に廃止猶予期間を経て上場廃止となった。

 

 記事では、東証一部の会社が増えたのは、中国の取引所との時価総額競争の結果、上場基準が緩和されたことが影響していると書かれているが、現在の「東証1部上場」という看板は、以前ほど世間に通用しなくなってきているのではないだろうか。

 

 こうしたなかで、株式上場のメリット・デメリットを考慮した結果だろうが、上場しない有名企業も少なくない
 身近なところでは日本生命保険、サントリー、竹中工務店やヨドバシカメラなどがある。いずれも会社組織の改編が必要だったり、子会社を上場させているといった事情はあるが、最も大きな要因は「不特定多数の株主の意向に配慮しない」自由な経営ができるということだろう。

 ディスクロージャー(情報開示)も最低限で済むなどメリットがある一方で、株式公開によって資料作成や株主総会の開催など経常的にかかるコストは決して安くない。

 

 今後の展開だが、仮にプライム市場に移行できない会社が数百社に留まったとしても、対象企業の評価が落ちるのは避けられないだろう。株価は言うまでもなく、資金や人材の調達に影響が出るだろうし、上場にあたって幹事を務めた証券会社からも取引所への不満が爆発するかもしれない。

 

 ただ、この市場改革が目指している方向性は決して間違っていない。本来第一部市場に存在してはいけない企業が、堂々と上場している現状が異常なのである
そしてその責任は、上場基準を緩和した取引所と、見掛け倒しの側面もあった東証一部という「看板」を深く考えずにビジネスに利用してきた市場関係者にもある。

 

 ここは、これまでの反省も含めて、確固たる信念に基づいた健全な市場改革の実現を東証には強く望みたい。