如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

電車で騒ぐ子供には「言葉」では通用しない場合もある

手を挙げるのは厳禁だが、態度で示すのは有効だったという実例

 

 2月7日付けのプレジデントオンライン(POL)に「電車で騒ぐ子供を「静かにしなさい」と叱ってもうまくいかない根本原因」というタイトルの記事が掲載された。

 

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 趣旨を簡単にまとめると、子供を問題行動を起こすようなキレやすい人間にしないためには「肯定的で具体的な行動を促す声かけ」を意識すし、頭ごなしの否定の言葉はNG――ということだ。

 記事では具体例として「電車のなかで静かにしてほしいときなら、「騒がないで」ではなくて「お口を閉じましょうね」「本を読もうか」というといった具合です」と解説している。

 

 記事を執筆したのは早稲田大学教育学部教授の本田恵子氏。中高の教員を勤めた後に渡米しカウンセリング心理博士号を取得、スクールカウンセラーの専門家である。

 

 今回は記事についてとやかくケチを付ける気はない。著者が書いているように、子供に対して「騒がないで」「走らないで」などのように否定的な言葉で接するよりは、「本を読もうか」「ゆっくり歩こう」という別の行動に目を向けさせるというのは、有効な手段のひとつである。

 これと同じような手法に、部屋を散らかしている子供に「どうして散らかすの!」と怒るよりも、「どこに仕舞うのだっけ?」と話しかけて子供が主体的に行動できるように仕向けるというやり方も知られているところだ。

 

 私が今回言いたいのは、こういった「言葉」でいくら説得しても大人の言う事を聞かない子供に対してどう対処するかという問題である。

 電車内など公共の場でこうした子供に遭遇すると、どうしても「怒り」の感情が高まってしまうのは私の悪いところなのだが、あかの他人の子供に注意する義務はないし、親が出てきて揉めるのも面倒である。かといって放っておけば迷惑この上ない。

 

 ここで実際に数年前、私が取った行動を披露したい。結論から言えば効果は「絶大」だった。

 場所は通勤帰りの電車のなか、途中で塾帰りと思わる小学生2人が乗り込んできて、大声で話始め、じゃれ合うなど周囲にかなりの迷惑をかけていた。しばらくして60代後半ぐらいのおばさんが子供たちに「静かにしないとダメよ」から始まって「もう少しおとなしくして」などと声を掛けたが一向に騒ぎは収まらない。ちなみに周囲の他の大人たちは見て見ぬふりを決め込んでいる。

  私はドアをそばに背中を預けて新聞を読んでいたが、時間が経つにつれて子供たちの傍若無人な態度に我慢できない感情に包まれていた。

 

 そこで私は、手に持っていた新聞を丸めて棒状にし、隣のドアの窓を「バシッ!」と結構な音が響くように叩いた

 その瞬間、車内の空気がガラッと変わり、2人の小学生は瞬時に沈黙、直立不動の姿勢となり、そのまま降りる駅まで2人とも一言も話さなかった。

 私は「バシッ!」の際に子供を睨んだ訳でもないし、その後は新聞を広げ直して読み始めたが、それまで「言葉」で注意していたおばさんも同じように沈黙、その心中を察するに「私のような手法は自分には容認しがたいが、効果は認めざるを得ない」といったところだろう。

 ないとは思っていたが、もし誰かから意見されたら「窓のハエを叩いた」とでも言っておくつもりだったのだが余計な心配だった。

 

 小学生の側に立てば、「次は自分たちがバシッ!の対象になるかも」という恐怖があったかもしれないが、それよりも「大人を怒らせると怖い」ということを身をもって実感したのではないだろうか。

 

 体罰や暴力は私も反対だが、言葉でいくら言ってもマナーを守れない子供がいるのは事実。そうした場合に私のような「牽制」をかけるのは間違いではないと思う。実際に効果はてきめんだった訳で。

 

 記事を書いたカウンセラーの先生がいう事は正論だが、公共の場では「言葉」だけでは通用しないという現実もあるということを知ってほしい。

日経、オリンピック開催再考を促す記事を1面で掲載

「今夏の開催を望む人は少数派」が市井のリアリズムと主張

 

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 7日に政府から緊急事態宣言が発令され、1都3県の飲食店の営業時間短縮や一般市民の夜間の不要不急の外出の自粛要請が行われている。昨年末からの感染者の急拡大に伴うもので、後手になった感は否めないが実施しないよりはマシなのは確かだ。

 

 問題は予定されている2月7日に宣言が解除できるかどうかだろう。近況を見ると9日には京都、大阪、兵庫3府県の知事が新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を要請しており、少なくとも目先は感染状況が改善される見通しは立たないと言っていいだろう。東京都の感染者数に至っては9日まで3日連続で2000人を上回っており、医療崩壊は現実のものとなりつつある。

 

 この差し迫った状況のなかで、個人的には夏の東京オリンピック・パラリンピックが開催できるのか非常に疑問を持っているのだが、政府や都知事からは予定通りの開催の方針しか伝えられないし、東京五輪・パラリンピック組織委員会も「安全安心に開催されるよう準備を進める立場」と声明を発表している。関係者には「中止・延期」という発想は少なくとも表面上は微塵もないようだ。

 

 こうしたなか、日本経済新聞は10月付けの朝刊の1面のコラム「春秋」で、オリンピック開催の事実上の再考を促す論調を打ち出した。私は全てのマスメディアを漏れなく読んでいる訳ではないので不正確かもしてないが、日本を代表する全国紙が1面でオリンピック開催の見直しの記事を掲載したことの意義は大きいと思う。

 

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 記事では、第二次世界大戦末期の御前会議を引き合いに出して「国力の現状などのリアルな数字や予測を前にしながら誰もが思考停止に陥った」とし、「これが遠い昔の出来事と言い切れようか」と述べている。

 後半では各種世論調査では「今夏の開催を望む声は少数派である。これが市井のリアリズムだろう」と冷静に国民の声を代弁している。個人的には「よくぞこの時期にここまで踏み込んだ論陣を張ってくれた」として拍手したいぐらいだ大手新聞社は日経を含めて東京2020オリンピックオフィシャルパートナーであり(産経新聞はワンランク下のオフィシャルサポーター)、開催に否定的な記事を掲載するには相当な覚悟が必要だろう。しかも1面の準社説扱いである。

 

 こうした国民感情と与党幹部の意識はかなり食い違っているように見える。例えば自民党の二階幹事長は5日の記者会見で「開催しないということのお考えを聞いてみたいぐらいだ」という発言をしている。「お考え」は世論調査で国民の意識としてはっきり示されているのに、これを完全に無視した内容だ。要するに「開催ありき」の前提で話を進めているので、都合の悪い情報には聞く耳を持たないのだろう。

 

 そもそも日本がいくら開催すると前向きになったところで、肝心の海外各国が自国の感染対策で選手を送り出せない、もしくは感染が収束していない日本での開催に参加したくないと言い始めたらどうするのか。

 そもそも世界で感染者数(10日時点で2200万人)、死亡者数(同37万人)ともに最大の米国が、何の問題もなくすべての選手団を送り出せるというのはどう考えても楽観的過ぎるだろう。仮に米国が選手団を派遣できないという判断をした場合、オリンピックの最大のスポンサーである米テレビ局は放映する意味を大きく失う。その結果、放映権の解約となれば国際オリンピック委員会は予定通り開催できるのだろうか。

 

 7月23日の開催まで残り半年余り。聖火リレーは3月には始まる。政府と東京都は開催の中止や延期を視野に入れた議論を進める時期にあるはずだ。希望的観測だけに基づいて予定外のシナリオを考慮しないことを世間では「無為無策」という。

 

「マンション」or「戸建て」専門家の意見が真っ二つ。「購入」推奨では一致

戸建ての価値をどう考えるか

 

 不動産の購入を検討している人にとっては大きなテーマである「マンション」か「戸建て」。この問題について最近意見が真っ向から対立する専門家の意見が相次いでWebサイトに掲載された。

 

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 経済評論家の加谷珪一氏は12月3日付けのプレジデントオンラインで「マイホームと賃貸はどちらがお得か」お金のプロの最終結論」というタイトルの記事を投稿、賃貸の家賃は「経費」、購入は「資産形成」という視点から、考えるべきという前提条件の下で、購入するのであれば資産価値の下がらないマンションを推奨。具体的には中古・新築を問わず利便性の高く駅地価の「立地」で物件を選択すべきとしている。

 

 この見方について、私自身は「賃貸=経費」、「購入=資産形成」という考え方には基本的に同意する。不動産情報誌や雑誌の特集などで「賃貸と購入、どっちがお得?」といった特集が組まれることが結構あるが、賃貸料や借入金利の変動などで前提条件は変わってくるので、誰にでも通用するような確定的な結論はありえない。

 

 ただ、前々回のブログでも書いたが問題となるのは、資産価格が落ちない人気の都心3区のような物件を買うとなると、中古・新築を問わず、普通の共稼ぎ夫婦が購入できるような価格帯ではないということだ。親からの資金援助があって購入するなら話は別だが、無理をして高い物件を買えば、将来支払いの滞る可能性は高まる。

 

 折しも冬のボーナスが軒並み大幅カットされる会社が相次ぐなか、東京商工リサーチは10月30日に「上場企業「早期・希望退職」募集企業 前年比2倍超に急増」という記事を掲載。「募集人員は判明分だけで1万4095人と昨年をすでに上回った」としている。11月以降もこの勢いは止まっていない。

 

 高止まりする物件価格と家計収入減少の可能性を冷静に考えれば、この時期に共稼ぎを前提にした長期ローンでの住宅購入は個人的には危険極まりないと思う。結婚や出産などで引っ越しを考えざるを得ない人は、URなどの公営住宅を含めた賃貸物件に移って当面は様子を見るべきではないだろうか。

 

 一方、オラガ総研代表取締役の牧野知弘氏は、同じく12月3日の現代ビジネスに「日本人が大好きな「賃貸か持家か」論争、コロナ危機でついに答えが出た…!」というタイトルの記事を投稿、サブタイトルには「郊外戸建て住宅=持家」で決まり、として加谷氏とは逆に戸建てを推奨している。

 

 もっとも、牧野氏の主張にも前提条件があって、将来コロナ禍が収束しても通勤が週1回あるいは月2回という会社が増えてくることを想定している。この「通勤」を前提としないで家を選ぶとなれば「生活ファースト」の考え方が主流になるという見立てだ。地域としては神奈川県の横須賀、小田原や埼玉県の飯能、秩父などを挙げている。

 

 このエリアまで来れば優良な中古の戸建てが2000万円から3000万円程度で入手できるので、都心の資産価値が維持できるような高い価格のマンションを無理に買わなくても済むという見解だ。ローンを組んだとしても月々の支払いは少ないので、その分趣味やスキルの向上、家族との食事などに充当できるというメリットもあるという。

 

 この2人とも「購入」を推奨という点では一致している。最も大きな相違点は「戸建て」の寿命に対する価値観だろう。加谷氏が「一般的な日本の木造住宅はほんとうにもたないので、あっという間にダメになって、資産価値として最後は土地代ぐらいしか残らない」と指摘しているのに対して、牧野氏は「家が古くなっても建替えは自由にできるし、売却時には家を解体して更地にすれば土地としての価値を維持することが可能」としている。

 

 さて、この両者の言い分を聞いたうえでの私の個人的な意見だが、一般のサラリーマンが資産価値を維持できるようなエリアにマンションを購入できないという現実を考えれば、牧野氏の「郊外の中古戸建」に軍配を上げたい。

 ただし、30代の働き盛りの世代が中古の戸建てを購入するのは慎重にすべきだろう。最近の戸建ては20年ぐらいで目立ったガタは来ないはずだが、30代で買って永住するとなると築15年の物件を買っても70代になるころには築60年近くなる。さすがに建て替えを視野に入れることになるが、70代で少なくとも1000万円以上の建て替え費用を捻出するのは難しいのではないか。

  これは私の持論なのだが、仕事を引退するまでは多少不便でも賃貸に住んで貯蓄に努め、現役引退が見えた頃にライフスタイルに合わせた中古戸建てを現金一括で購入するのがベストだと思う。繰り返すようだが若いころに買ったマンションを資産として残せるのはごく一部の物件に限られるからだ。また、維持費も戸建ての方が安く済むし融通が利くというのが、現実に郊外の中古戸建に住む私の実感だ。

 

 牧野氏は購入対象としてかなりの郊外エリアを意識している。ただ、2022年に期限を迎えるはずだった生産緑地法の期限が10年間延長されたことで、同年に農地が住宅地として市場に出回るのは一部になるとはいえ、いずれ地主の農家は後継者不足などで農地を手放すことになる。対象となるのは駅からやや離れた土地が多いだろうからマンションやアパートよりも戸建てとして供給されるはずだ。

 国土交通省の都市交通調査・都市計画調査によれば、東京23区で最も生産緑地が多いのは練馬区の189ヘクタール、次いで世田谷区の95ヘクタール、江戸川区の63ヘクタールと続く。つまり戸建て向けの土地がヘクタール単位で放出されるわけだから、数十年先にはこの3区を中心に都区部でも中古を中心にかなり値ごろ感のある戸建てが供給されるのは確実だろう。もっともその頃には、神奈川や埼玉はさらに格安となってはいるだろうが。

 

 住宅購入はほとんどの人にとって一生に一度の買い物となるはずだ。現役世代に支払う賃貸料は「経費」と割り切って、引退後に自分に合った戸建て「購入」という生活を考慮した方が有意義な人生を送れるのではないだろうか。というのも、これからは「人生100年」の時代と言われているのだから

 

政治家からの内部情報で投信を売買したらインサイダー取引に該当するのか?

インデックス投信は規制の対象外だが・・・

 

 株式のインサイダー取引については、摘発の報道がされることで個人投資家の間では違法取引という認識がかなり定着しつつあると思っていたのだが、まだ手を染める関係者は存在するらしい。

 ちょっと前になるが10月29日、時事通信社がネットのJIJI.comで「ディスカウント店「ドン・キホーテ」親会社の前社長(57)を、金融商品取引法違反(インサイダー取引と情報伝達)容疑で証券取引等監視委員会が昨年11月と今夏、関係先を強制調査」と報道している。

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 「ああ、またか」というのが正直な感想だが、現在の株式市場で「早耳情報」で儲けようとするのは投資リスクの取り方を完全に間違えている。株価の上下に対してリスクを負うのは正当だが、インサイダー取引が露呈しなければ儲けものという考えでリスクを取るのは馬鹿げている。下手をすれば利益だけでなく投資総額すべてを没収される可能性もあるうえ、有罪となれば個人としての社会的な損失は計り知れない。

 

 企業の株価に影響を与える内部情報で発表前に株取引をすれば「完全なアウト」ということは、広く世間に知られていることだとは思う。ただ、この結果インサイダー取引を管轄する金融庁は「問題のない取引まで、必要以上に控えられているのではないか」という指摘を受けて、令和元年7月に「インサイダー取引規制に関するQ&A」の改訂として、インサイダー取引に該当しない例を明記した。

 具体的には、

 ① 重要事実を知らない場合の株取引

 ② 重要事実の公表後の株取引

 ③ ETFや大半の投資信託の取引

 の3点である。(注釈は省略)

 

 金融庁としては、平成20年のインサイダー取引規制に関するQ&Aで書かれているように「株式投資等は、不公正取引でなければ、本来自由に行うことができ、安定的な資産形成の観点からも有効に活用されるべきもの」という立場であり、「社内規則で株式投資等全般を禁ずるような場合には、過剰な抑制となる」という認識だ。

 

 要するに、これまでインサイダー取引を厳しく取り締まってきたがその効果と影響があまりにも大きかったため、個人投資家の間には問題のない株式取引まで摘発を警戒して手控えるような動きがあることを懸念して、今度は一転して一定条件下での「株式投資の推奨」に動いたということだろう。

 このことは金融庁が職員に対して「法令や服務規律に反しない範囲で資産形成を後押しする取組みを行っている」とし、「金融庁職員におけるつみたてNISA等の利用について」のなかで「つみたてNISA等を活用した資産形成に率先して取り組む」と明言していることからも明らかだ。

 

 さて、ここで個人的に気になっている事例を取り上げたい。それは「政治家からの政策全般に関する内部情報の提供を受けて日経平均などのインデックス投信を売買したらインサイダー取引に該当するのか」という疑問である。

 政府が政策を実現するうえで法案の整備は欠かせない。であれば法案を通す国会議員に事前に官僚から案件が持ち込まれるのは自然なこと。各種税制度や公共投資、金融政策に至るまでその範囲は広い。もちろん個別企業の業績に直結するような情報もあるだろうが、株式相場全体へのインパクトが明かな案件も多いはずだ。これらの情報を元にインデックス投信を売買したら、儲かる可能性は決して低くはないだろう。

 

 この売買がインサイダー取引に当たるかどうかだが、金融庁の資料を見る限り該当するとは言えないように思える。というのも先の該当しない例の3番目に「大半の投資信託」が含まれているからだ。大半と言うのは、注釈に「J-REIT、上場インフラファンド、⾃社株投信等はインサイダー取引規制の対象」と書かれているからだ。ただし、ここには日経平均などのインデックス投信は含まれていない(自社株投信等の「等」の文字が気になるが)。

 

 実はこの件について確認のため証券取引等監視委員会に問い合わせたのだが、担当外ということで金融庁の担当部署に回され、そこでは「取引する証券会社に聞いてほしい」とさらにたらい回しにされた。最後に聞いた証券会社からは「その他の何らかの法令違反行為に該当するかについては、恐れ入りますが弊社ではお答えいたしかねます」との回答があったが、その後に「制度上の変更事項や政策の変化など、株価全般に影響する事実を公開前に知って行う場合、市場倫理的には好ましくない取引とされる可能性があり、情報提供者の立場を危うくする場合もあり得ることをご承知おきいただきたい」と書かれており、まったくのリスクフリーとも言えそうにないようだ。

 

 以上から個人的な考えを述べると、政治家からの政策絡みの内部情報でその家族や有力な支援者などがインデックス投信の売買を行った事例は過去にも相当数あったはずで、これらがインサイダー取引で摘発されたことはない。つまり規制する根拠となる法律が整備されていないので対象にならないということだろう。

 証券会社からの回答にある「市場倫理的」というのは、文字通り倫理上の問題なので法律上は取り締まることができないという意味のはずだ。これは社会的な責任の大きい政治家の立場を懸念しているのだと思われる。

 

 ただこれはあくまで「現時点」での話。今後私の指摘するような事例が発覚して、世間で批判の声が高まれば規制の対象となる可能性は否定できない。

 

 ちなみに私には国会議員の知り合いはいないし、あえて不必要なリスクを取る気もないので、過去も将来もインサイダー取引とは無縁だと思っているが、今回の内容が読者の参考になれば幸いである。

 

復調のマンション市場、「本当にリスク覚悟の購入ですか?」

おススメは現役引退後の「現金一括購入」

 

 新型コロナ禍で低迷していた新築マンション市場に回復の兆しが見える。不動産経済研究所が10月20日に発表した「首都圏のマンション市場動向(9月度)」によれば、新規発売戸数は前月比48.4%増、契約率は73.4%と好不調の基準となる70%を6月以来3か月ぶりに上回った。

 

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 今年に入って購入を見合わせていた層が、ここに来てマンション市場に戻ってきたようだが、いい機会なので、2019年2月にAmazonに投稿した「負動産時代 マイナス価格となる家と土地 (朝日新書)」のレビューの一部を再掲したい。

 その趣旨は、「そのマンション本当に今買って大丈夫ですか?」。つまり購入予定者に一歩踏みとどまって、支払い計画や将来のライフスタイルなどを今一度考えてもらうことだ。

 

 折しも日本経済新聞は10月4日に「住宅ローン、定年後に遠のく完済への道」という記事を掲載、2020年の借り手の返済期限が20年前から5年延びて73歳になったことを伝えている。今後就業可能な年齢は70歳まで延長されることにはなっているが、現状の65歳でも60歳以降は1年毎の有期再雇用が大半で、給料は正社員時代の半分程度になるのが一般的。年金の支給開始年齢の引き上げも見込まれる中で、73歳まで本当に返済可能なのだろうか。

 おそらく多くの借り手は「退職金で残債を一括返済すればよい」と考えているのかもしれないが、大卒の退職金の平均額は平成30年までの15年間で700万円以上下がっている(下図:EL BORDE80年代生まれのリアル)。退職金制度自体を廃止する会社も出てくるなかで、年功序列賃金・ベースアップの廃止、ジョブ型雇用の普及などを考えれば、住宅購入後数十年間にわたって毎月10万円以上を支払える根拠がどこにあるのか慎重に再考してほしい。

 

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 ここからは私のAmazonレビュー(2019年2月)からの引用になるのだが、そもそも返済を終えた35年後の古びたマンションにどれほどの価値があるのだろうか。現在築35年のマンションを見てほしい。設備、構造など今の新築物件とは比較にならないはずだ。ごく一部の利便性の高い物件は中古でもニーズはあるだろうが、大多数のマンションは供給過剰でまともな値が付くとは思えない。(ちなみにこれと同じ趣旨のコメントが不動産アドバイザーの牧野知弘氏の2020年6月のコラム「コロナで終止符?「賃貸」VS「持ち家」のくだらない論争」に書かれています
  
 私は宅建士の資格も持っているので、個人的に分譲マンションのアドバイスを求められることも結構あるのだが、若い現役世代には新築・中古を問わずローンによるマンション購入を勧めない。代わりに手ごろな賃貸物件(公営住宅を含む)に住んで貯蓄に努め、引退後に家族構成などのライフスタイルに合わせた住宅(戸建ても含む)の現金一括購入を推奨している。人生の最後まで「賃貸」でも別に構わないのだが、今後減額が確実視される年金を原資に賃貸料を支払い続けるのは、さすがに厳しいのではないだろうか。

 近い将来人口・世帯数の減少する一方で、新規住宅建設は伸び率が鈍ることはあってもゼロにはならない。しかも区分所有者の様々な思惑が入り組んで、老朽化物件の解体も進まない(戸建ての建て替えに伴う解体は別)ので総住宅戸数は増え続けるのは確実。要するに「需要」が減って「供給」が増えるのだから、どう考えても市場全体の「不動産価格」は下がるとしか想定できない。言うまでもないが収益重視のいわゆる一丁目一番地の投資物件は別の話である。
 具体的には、いまから数十年先には相当数の住宅を選り取り好みで、中古なら数百万円程度で買える可能性が高いだろう。すでに都下でもバス便なら1000万円以下の中古物件は珍しくないのが現状だ。
 仮に70歳で引退して年金生活に入って、築15年の物件を購入しても90歳(築35年)になるまではマンションでも戸建てでも建て替えの不安はないだろう。

 では、なぜこのオススメの「引退後の現金一括購入」を、不動産の業界関係者が誰も話題にしないのかという疑問を持たれる方も多いと思う。
 その答えは「誰も儲からないから」だ。基本的に新規分譲マンションや中古物件を手掛ける業者は、「すぐにでも契約して建設コストを回収もしくは売買手数料を確保」したいので、数十年も先の話などまったく眼中にないのである。

 この話が信じられないのであれば、新築マンションのモデルルームに行って、一通り説明を聞いた後で「実は購入するのは2、3年先の話なんです」とでも話を振ってみればいい。まず間違いなく担当者の顔色が変わって、早々に話を切り上げようとするはずだ。目先の利益につながらない相手は客どころか、迷惑な存在以外の何者でもないのである。

 私は、学生時代に賃貸住宅仲介業者のアルバイト経験はあるが、現在は不動産関連の仕事をしている訳でもないし、当然ながら業者から一銭も受け取っていないので、思っていることを何のしがらみも制約もなしに正直に書いている。不動産で稼いでいないという意味では「プロ」ではないが、「プロ」が書きにくいことも正直に言えるという立場にあるのは事実だ。

 今の時代、夫婦共稼ぎの収入、借り入れ金利の上昇、地震などの自然災害、病気・ケガ、転勤・転職、子供の進学、親の介護など将来何が起きるかわからないうえに不動産価格の中長期的な下落は確実。住宅ローンという長期かつ多額の負債を自ら抱え込む必要はないと思うのだが。

 以上のように「引退後の現金一括購入」が現役世代の住宅購入予定者に対する私からのアドバイスだ。

 

 最近ではマンション購入にあたって「将来の資産価値」がキーワードになっている感がある。確かに人気の都心3区で利便性の高く、地盤・ハザードマップに問題がない物件は資産価値という点では安心感はあるのは事実だ。

 ただ、問題は物件の価格だ。2020年9月度、東京都「都心3区」の中古マンション市場によれば、1平米単価は127.94万円。これを平均的なマンションの広さ70平米に換算すると8955万円。確認しておくがこれは「中古」の価格だ。多くの購入予定者が希望する「新築」なら軽く1億円を超えてくるだろう。これは普通のサラリーマンはおろか大半の共稼ぎ世帯でも購入不可能な価格のはずだ。

 

 要するに普通の家庭が購入可能な「新築」を買えば、資産価値の下落は避けられず、特にマンションの場合は住民の合意形成ができなければ、将来の大規模修繕も建て替えも難航するのは確実。であれば、中古の戸建てを安く買って自分の都合(時期・費用など)で修繕などを実施するほうが自由度が高いのは確かだろう。

 かく言う私自身、築10数年の戸建てを購入して、地元で評判の良い工務店と親しくなって外壁・屋根を含めて小まめに家屋の手入れをしている。上物(家屋)はほぼ無価値だったので、実質的にほぼ購入価格=土地価格であり、資産価値の下落は土地部分に限定されていることも、相対的な資産価値の維持に寄与していると思う。

 もっともこれはあくまで「私個人の価値観」からの選択であって、誰にでもおススメできる手法とは思っていないので悪しからず。

 

大塚家具の今後を占う。ヤマダHD主導で匠大塚との合併も

大塚久美子社長の退職金にも注目

 

 大塚家具は28日、大塚久美子社長(52)が12月1日付で辞任する人事を発表した。自主再建が困難となって昨年ヤマダ電機の傘下に入った時点で、こうなることは予想されたが、「ようやく」といった感はある。

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 もっとも同社が発表した「業績予想に関するお知らせ」によれば、2021年4月期の純利益予想が28億9000万円の赤字で、これで通算5期連続の最終赤字、3期連続の無配となるのだから経営責任を取るのは当然と言えば当然ではある。しかも親会社のヤマダホールディングスグループの山田会長は昨年12月の大塚家具の子会社化にあたって「業績回復への社長の猶予期間は1年」という趣旨の発言をしていたはずで、今回の人事はまさに有言実行と言える。

 

 ここで気になるのは、発表資料に「現在スピード感を以って取り組んでいる抜本的構造改革を期中に終える予定であり、来期黒字化に向けて道筋がつきつつあります」とあること。過去の業績の推移を見ると、2016年12月期に最終赤字(45億円)に転落したあと、2017年12月期には赤字幅が1.58倍の約73億円に拡大、2018年12月期は赤字幅が32億円に縮小するも、決算期変更のあった2020年4月期には再び77億円の赤字と2.38倍に増加している。

 今期が28億円の赤字に収まったと言っても「卸資産評価損対象商品の販売や閉店等による賃借料の低減等による効果が大きい」と書いてあるように、前向きな施策によるものではなく、効果は一時的だろう。このままでは再び赤字が拡大する可能性も否定できない。

 つまり現行の経営方針では、本業の業績回復は見込み薄と言わざるを得ない。

 

 ここで今後想定されるのは、社長をヤマダ電機から来た三嶋会長が兼任することで、ヤマダ電機を主軸とするヤマダホールディングスグループの「家具事業の大規模な構造改革」の可能性が高いこと。例えば、大塚久美子氏が完全に経営から離れることで、名実ともに大塚家具を自由に差配することが可能になる。

 

 ヤマダ電機は2011年エス・バイ・エルを子会社化し住宅事業に参入、大塚家具も子会社化して、その傾向を強めていた。今回の大塚家具の社長交代で、個人的に今後真っ先に予想される展開は、大塚家具の創業で久美子社長の父親でもある大塚勝久が会長を務める匠大塚との合併だ。

 

 もともとヤマダ電機が大塚家具を買収したのは「家電の安売り」というイメージを「高級ブランド家具」という商品を手掛けることで払しょくしたいという意図があったのは間違いない。

 大塚家具が「会員制」「高級家具」路線を変更して業績不振に陥る中、この創業以来の独自路線を守り続ける匠大塚はかなり魅力的な会社だ。

 

 匠大塚の大塚勝久会長にとっても、思い入れの深い大塚家具を再び自分の会社とし、これまでの経営方針を生かせると考えれば悪くない話のはずだ。最大の障壁であった久美子社長の辞任で、事業復興の環境は整ったのではないか。非公開会社なので詳細は不明だが、匠大塚も昨今の経営状況は厳しいとの話もある。

 

 しかも、ヤマダ電機の親会社でヤマダホールディングスグループの山田昇会長は1943年2月生まれ、一方の匠大塚の大塚勝久会長も1943年の4月の生まれでともに77歳。同じ戦前生まれとして商売を含めた価値観は近いものがあるのではないだろうか。

 

 このようにヤマダホールディング主導による、大塚家具と匠大塚の合併はかなり現実味がある話だと思うし、合理主義者で知られる山田会長の性格から考えて、かなり早い時期に実現する可能性もある。

 

 あと余談になるが、現大塚家具社長の退職金についても気になるところ。2015年に社長就任後その年の12月期にはかろうじて売上高も増加、3億円の最終黒字を確保したが、その後は一貫して売り上げは減り続け、資金繰りは急速に悪化、銀行に支援を要請した。中古品の取り扱いや、中国企業と提携するなどの新たな事業展開も不発に終わった。

 

 ここまでの実績を考えれば、常識的には「退職金はゼロ」だろう。ただ、あの気の強い久美子社長がそのまま無抵抗に受け入れるとも考えにくい。12月1日の辞任まではマスメディア等による退職金の有無や金額について憶測記事が飛び交う可能性もありそうだ。

不動産仲介業界の「反顧客志向」の改善が絶望的な理由

報公開されれば事態は改善するのだが・・・

 

 私が購読しているメールマガジンのひとつに廣田信子さんの「まんしょんオタクのマンションこぼれ話」というのがあるのだが、10月20日配信号を読んで「やはり不動産仲介業界の顧客を考えない独善的な営業姿勢が変わることはほぼ不可能」という印象を改めて持った。

 

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 このメールマガジンは、マンションの管理などを中心に多岐に渡る不動産業界を話題を毎日提供してくれるのだが、その内容の充実度と指摘の鋭さに毎回感服している。

 よくぞ毎回新たな視点から書けるものだと感心する一方で「そこまで管理問題で苦労話を取材、執筆するならマンションではなく戸建てに住めばよいのではないか」と戸建て派の私は思うのだが、それは別の話なので・・・

 

 さて、今回のメルマガのテーマは「『囲み込み』『両手仲介』って何のことかわかりますか?」だ。

 多少なりとも不動産取引について理解があれば知っている話なのだが、メルマガによれば「ある調査では・・・8~9割の人が「全く知らない」と回答していると言います」だそうだ。これは不動産の売り手となる個人が「圧倒的に不利な状況を甘受している」と言って差し支えないだろう。

 

 一応、この2つのキーワードを説明しておくと、「囲い込み」は不動産会社に持ち込まれた売り物件を、レインズ(不動産流通標準情報システム)に登録せずに自社で抱え込むことで、この結果物件が不動産売買市場に出回らないことになる。

 当然ながら売り手にとっては買い手が見つかる可能性が減る訳で、売り手の受けるデメリットは大きい。

 しかも一般の個人はレインズの存在自体知らないので、売買委託契約を結んだ不動産会社のWebサイトか営業担当からの連絡でしか、自分の物件の市場での反応など状況がわからない。これを「不利」と呼ばずして何というべきか。

 

 もう一方の「両手仲介」だが、これは物件の売買で不動産会社が売り手と買い手の両方から独占的に委託手数料を受け取ること。先に書いた「囲い込み」の結果、自社で売り買いともに担当するので、利益相反に該当する間違いない行為だ。

 

 ちなみに私自身、実家の処分で大手不動産会社に売却を委託したが、委託契約の際に「自分が宅建士の資格所有者であること」を伝え、「レインズへの登録が完了したらその画面コピーを渡すこと」を確約させたので、「囲い込み」はなかったが、買い手をその不動産会社が見つけてきたので結果として「両手仲介」にはなってしまった。

 

 メルマガで廣田さんは、「囲い込み」をなくすには、「両手仲介の禁止」「手数料の自由化」「レインズ情報の一般公開」の3点セットが欠かせない、と指摘している。

 このうち、「両手仲介の禁止」は望ましいが、不動産仲介業界の利益構造の根幹に関わる内容だけに抵抗は大きいだろう。手数料が2倍取れるから営業担当のインセンティブが働くという側面も無視できない。

 

 一方「手数料の自由化」だが、宅地建物取引業法では「売買又は交換の媒介に関する報酬の額」として物件の価格に応じて一定利率を定めているが、これは「あくまで上限」である。従ってすでに一部では仲介手数料無料をウリにする会社も登場しているぐらいで、事実上自由化は進んでいると見ていいだろう。もっとも「ではどうやって収益を確保するのか」という疑問と問題は残るが。

 

 最後の「レインズ情報の一般公開」だが、個人的にはこれが最大かつ最強の効果が見込めると思う。

 というのも不動産業界には、顧客にとって不利な悪い情報は「聞かれない限り教えない」、もしくは「知っていても知らないフリをする」という慣習が根強く残っているためだ。

 これがレインズ情報が公開されれば、少なくとも物件を売りに出した人は公開サイトで自分の物件を確認できることになるので、業者が「囲い込む」ことは不可能になる。レインズへの登録を強く要請しても一向に不掲載が減らないのが実態で、これでは登録を義務化しても脱法行為に走る会社は出てくるのは避けられない。

 実際人づてに聞いた話では、レインズへの登録画面を偽装・偽造して顧客に渡す事例もあるそうで、「登録の義務化」よりも「登録情報の公開」の方が効果は確実に大きい。

 

 ただこれらの対策が実施されるには、業界の抵抗などでまだ相当の時間がかかるだろう。これから不動産物件の売却を考えている人は、不動産会社と委託契約する際に「専属選任媒介」「専任媒介」「一般媒介」の3つある契約形態のうち、売り手の自由度が最も大きい「一般媒介」を選択し、「レインズへの登録画面のコピー」を受け取ることを確約させるべきだろう。

 

 この2つを拒否するような不動産会社は、見限った方が良いと断言してもいい。自社の営業スタイルにやましいところがなければ、この条件を堂々と引き受けても何ら問題はないはずで、これを断るという事は「顧客への真摯な態度は望み薄」な会社としか判断できないからだ。

 

 

政権への「批判」も、政府からの「地位」も欲する「さもしい」言い分

なぜそこまで「日本学術会議会員」の肩書にこだわるのか

 

 日本学術会議の新会員に105名のうち6名が除外されたことに対して、一部の学者やメディアなどが政府を激しく攻撃している。

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 共同通信などの報道によれば選ばれなかった6名は、2014年に施行された特定秘密保護法や2015年に成立した安全保障関連法への反対を主張するなど「反政府」の立場だったようだ。

 ここに注目したメディアなどが「学問の自由が損なわれる」とか「過去に前例がない」といったことを理由に、政権批判をしているように見える。

 

 私は学者ではないので、日本学術会議の立ち位置や評価等について詳細は知らないが、同会議のWebサイトには役割として「政府に対する政策提言」など4つが挙げられている。

 簡単に言えば日本学術会議は、日本学術会議法に基づいて、国が費用を負担することで、学術の進歩に寄与することを目的とし、会員は内閣総理大臣が任命するもの(第一章第一条等)ということになる。

 この趣旨に沿えば、菅首相が2日夜の記者団の質問に「法に基づいて適切に対応した結果だ」と述べたことは間違っていない。

 

 そもそも「学問の自由が損なわれる」という指摘については、橋下徹氏がコメントしているように、誰も政府批判をするような学問を研究すること自体を否定はしていない。本人の好きで選んだ学問の分野で何を研究しようがそれはあくまで自由であるのは事実だ。

 個人的な意見を言えば、今回選出されなかった学者やその周囲の人たちは、なぜ「日本学術会議の会員」という「肩書」にそれほどこだわるのか理由がわからない。

 学者としての評価は論文などの実績で決まるのであって、本来であれば肩書やどこぞの会員などというのは単なる「箔付け」に過ぎないはずだ。それほど自分の研究実績に自信がないのだろうか。

 

 しかも政府が資金を出して、総理大臣が任命する当会議のメンバーになりたいなら、反政府的な主張は控えるというのが一般的に見て合理的な判断ではないのか。学者として自己責任で研究、主張しているのだから、政府から会員に選ばれなかったことを「学問の自由」を盾に反論するのは、どう考えてもおかしい。「政権への批判はしたいが、政府のお墨付きの肩書も欲しい」というのでは、何とも「身勝手」かつ「さもしい」言い分ではないか。

 スジを通す学者なら、政府の管轄する会議のメンバーなど「なってくれと要請されるなら受けてもいいが、こちらから要望する気はさらさらない」ぐらいの気概を見せてほしいものである。

 

 加えて言えば「前例がない」という主張もおかしい。菅総理は就任にあたって「前例を踏襲しない」ことを明言しているし、そもそもここでいう学者の学問とは「前例のない領域」を新たに探究していくというのが本来の姿だろう

 

 ただ、日本学術会議が3日、任命されなかった理由の説明を求めるとともに、6人の任命を求める要望書を提出したことについて、このうち「理由の説明を求める」ことは理解できる。(改めて任命を求めるのは越権行為に思える)

 新会員のメンバーのリストを作成したのは同会議であり、これまでリストがそのまま採用されていたのが今回通らなかったことに対しては、日本学術会議内部での説明責任が生じると思うし、その説明をするための最初の責任は新会員を決定した総理大臣にあると思うからだ。

 今回の件に限らず法律上は問題がなくても、何の説明もなく「前例の排除」を実行すれば、実務を担う現場の混乱は避けられない。政策変更に伴う説明は、要不要の「理屈」ではなく「現実」へのスムーズな適用という視点からも欠かせないと思うのだが。 

 菅首相の改革への「熱意と意気込み」は高く評価しているが、もう少し「配慮や丁寧な対応」があっても良いと思う。

 

 菅総理が就任後に矢継ぎ早に打ち出した政策には、縦割り行政の打破を狙ったデジタル庁の設立など「前例にない」「既得権益の排除」という特徴がある。今回の日本学術会議の会員選出の件もこの趣旨・流れに沿ったものだとすれば、同じような事例、案件が今後相次ぐ可能性が高いだろう。その際には今回の件を参考に、より分かりやすい説明も合わせて実現してほしい。

デジタル庁、新総理が「電子捺印しか承認しない」と宣言すれば事態は一気に進展する

  

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 新たな総理大臣に就任する菅義偉氏が、政策の目玉のひとつとして掲げたのが「デジタル庁」の創設。メディアの報道によれば「各省庁に分散しているデータを統合し、柔軟に利活用できる仕組みを築く考え」のようで、マイナンバーカードのさらなる普及を含めた省庁の業務デジタル化による作業効率化を目指すようだ。

 

 キャッシュレス決済など多くの物事のデジタル化では、世界的に後れを取っている日本にあって、この政策の方向性は正しい。あえて実現に向けた懸念要因を挙げるとすれば2つ。

 ひとつは、デジタル化が「手段」でなく、「目的」になってしまい、業務の実態を理解せず「何でもかんでもデジタル」という現場を無視した無理な介入が行われること。

 もう一つは、竹中IT担当大臣が日本の「はんこ文化」がテレワーク(在宅勤務)の妨げになっているとの指摘に対して「民・民の取引で支障になっているケースが多い」と述べるなど、政府や自治体には「自分たちには関係ない」といったデジタル化に消極的な姿勢が感じられることだ。特に省庁間を跨る案件についてはその傾向が強いようだ。

 

 まあ手練手管の菅氏なので、その辺りの事情は十分に考慮したうえでの提言だろうし、関係省庁への説得にも自信は持っているのだろう。実際昨年5月には行政手続きを原則、電子申請に統一する「デジタルファースト法」が成立しており、政策実現のための仕掛けはすでに用意されている。

 

 ただ、ここは実現への意気込みを強くアピールするために個人的な「提案」をしたい。それは菅・新総理自ら「自分の手元に届く書類には公私を問わず電子著名・捺印でしか承認しない」と宣言することだ。こうなれば、周囲の議員・役人や国民への本気度がかなり伝わるのではないだろうか。(閣議での花押は一種の儀式なので残したほうが良いと思うが)

 

 一国のトップがここまで言えば、少なくとも政府内の業務デジタル化は加速せざるを得ないだろうし、そうなると地方自治体の対応も変わらざるを得なくなる。自治体がマイナンバーカードや電子捺印などを使ったデジタル化などを進めれば、自治体に書類で提出している民間企業や個人の各種証明書の申請にも波及する。

 不動産取引のように重要事項説明書など書面でのやり取りと捺印・署名が法律で義務化されている業界も残されているが、一方で国土交通省では「IT重説」の実験も行われており、他の業界でも「契約を含むあらゆる書類のデジタル化」が進展していくのは間違いない。

 

 「隗より始めよ」ではないが、菅・新総理は官邸での公文書は言うまでもなく、地元選挙区での有権者や近しい議員から要望・提案書などもデジタル書面化を要請し、紙の資料は一切承認しないぐらいの姿勢で取り組んではどうだろうか。この様子(特に支援者が紙を持ち込んで拒絶されるような場面)をYoutubeの動画で紹介していけば、デジタル化への国民の認知度と関心も高まると思う。

 少なくとも民間の「書類へのハンコしか認めない時代錯誤の経営者や管理職」への効果は絶大ではないだろうか。

 

 菅・新総理は、自民党の新総裁に選出された直後のあいさつで「役所の縦割り、既得権益、あしき前例を打破して、規制改革を進めていく」と訴えた。首相の公私を問わず「電子署名・捺印しか認めない」発言があれば、この政策の実現に弾みが付くことは間違いないと思うのだが。

石破茂氏はどうしてこうも議員に人気がないのか

各種メディアの世論調査では第一位なのに・・・

 

 自民党総裁選が9日に告示、14日に投開票される。菅義偉・官房長官・岸田文雄・政調会長、石破茂・元幹事長の3名が出馬予定のようだが、すでに各種メディアで報じられているように派閥の大半の賛同を取り付けた菅氏の圧勝は既定事項とされている。

    

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 つい最近まで菅氏は総裁選には出ないと明言していたが、「安倍首相の突然の退陣に政策の継続性などを考慮して急遽出馬を決めた」と本人がメディアでは説明していた。これは嘘ではないだろうが、老練かつ冷静な菅氏が「勢い」で決めるとは思えない。立候補を決意するまでの短い期間に二階幹事長や公明党幹部の了解を得ていたのは間違いないだろう。

 

 菅氏の思惑通りかどうかは分からないが、二階幹事長が真っ先に指示の方針を打ち出したことで、総裁選の流れは大きく動いた。安倍首相からの禅譲を自他ともに想定していた岸田氏にとっては想定外の事態だっただろうが、前回の総裁選では安倍首相に配慮して立候補しなかっただけに、今回出なければ2回連続の不出馬となり、派閥や支援者の期待を裏切ることになる。ここは次につなげるためにも「負戦」を覚悟で、総裁選に臨むしかないだろう。

 むしろ岸田氏で注目すべきはどの程度の得票で2位を確保できるか、そして石破氏にどれだけ差をつけられるかだ。これは地方票(141票)の行方に左右されるが、石破氏との最終得票があまり差がないようだと、これはこれで政治家としての実力を問われる事態になりかねない。まさかの逆転はさすがにないと思うが。

 

 個人的に気になっているのは、現時点では最下位が予想される石破氏である。マスコミもあまり口にしないようだが、総裁選の立候補には20人の国会議員の推薦が必要なのに、どのメディアを見ても石破派は19人とされている。最終的には無派閥の議員に協力を要請するのだろうが、何とかスタートラインに立てるような状態では、カタチだけの参戦で実質的な選挙戦にはならない。本人は立候補さえすればあとは地方票(141票)をどこまで確保して、岸田氏に近づけるかが焦点と考えているのではないか。

 

 テレビなどのメディアの世論調査では次期総裁の人気第一位になることが多い石破氏だが、総裁選に勝つのは100%不可能だろう。なにしろ同じ国会議員の評判があまりよろしくないというか、評価する議員が少ないからだ。ここ数年の石破氏の言動を見る限り「味方の後ろから鉄砲を撃つ」ような政権批判が大きく影響しているのは間違いないだろうが、個人的には石破氏の「信念の弱さ」や「変わり身の早さ」が信用されない最大の要因ではないかと思っている。

 

 2018年に出版された新書「政策至上主義」では、石破氏が自身の経歴について書いているのだが、まず大学卒業後の就職にあたって本人は鉄道好きもあって国鉄(現JR)を希望したそうだが、父親の反対にあって三井銀行(現三井住友銀行)に就職している。就職先すら自分で決められないのだ。さらに28歳の働き盛りの時代に鳥取県知事だった父親が急死するのだが、ここでも故田中角栄首相の要請で元々政治家志望ではなかったのに、銀行を退職して衆議院議員に転じている(1986年)。自分の職業・仕事すら他人の言うがままでは、政治家には必須の「信念」が乏しいと言わざるを得ない。

 

 1993年には政治改革関連4法案に自民党の意向に反して賛成したことで、離党するという政治家としての「覚悟」を見せるも4年後の1997年には自民党に復党、2002年には小泉内閣で防衛庁長官に任命されている。この辺りの立ち回りのうまさを見ると「機を見るに敏」ともいえるが、「節操がない」とも見れ取れる。以上から考えて、個人的には石破氏を「軸足の定まらない不安要素の大きい政治家」だと認識している。

 

 石破氏は「軍事オタク」として有名な一方、「鉄道オタク」「アイドル通」としても知られており、他の政治家にはない「大衆的な要素」を持っているのは事実で親近感のを覚える人もいるだろうが、政治家の仕事の本質はあくまで自己の信念に基づく「政策の実現」だ。その政策はどれほど立派な内容であったとしても、多くの議員の協力や賛同がなければ、政策の実現に必要な法案の作成・審議・成立は不可能だ。

 

 石破氏の場合、確固たる信念に基づいて終始一貫してブレずに行動する「気概」が感じられないし、かといって利害関係者と折り合いをつけて現実路線を目指すような「柔軟性」にも乏しいように見える。要するに政治家としての「立ち位置が不明瞭」なのだ。だから地元の選挙にはめっぽう強いものの、国会では文句ばかりいう「評論家」扱いされて人望がないのだろう。

 

 ともあれ、総裁選後に石破氏がそのまま自民党に居続けるとは考えにくい。新総理となるであろう菅氏も、岸田派はともかく石破派から閣僚を起用するとは考えにくく、石破派は解消もしくは派閥ごと新党ないしは、既存野党に合流するのではないだろうか。この場合、党首としてプライドも信念も高い枝野氏の立憲民主党ではなく、新しい国民民主党を選択すると推測する。玉木雄一郎氏を中心とする新党の参加者は22名と言われており、これに石破派の19名が加われば議員40人台の規模となり、国会でもそれなりの存在感を示せる。余談だが新たな国民民主党には石破氏と仲が良いとされる前原誠司・元外相もいる。

 

 巷では、菅新総理が今秋にも総選挙に打って出るとの観測も流れているが、石破氏の動向次第で投票が影響を受ければ、多少なりとも与野党の構図に変化が起きるのかもしれない。完全な野党にはなりきれないものの、自民党とは一線を画したいとする政党は、日本維新の会のように「現状に不満はあるが他に選択肢がなかった保守層」にとって、それなりの「受け皿」になると思われるからだ。