如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

最近やたらに目立つ「からあげグランプリ金賞」とは何ぞや?

全部で26部門、単年度で計174店も金賞を受賞

 タピオカドリンクの人気が世間であっと言う間に盛り上がって、一気に潮が引くかのごとく消え去ったのは記憶に新しい。

 こうしたなか、今盛り上がっている食品として「鳥の唐揚げ」を挙げることに異論はないと思う。唐揚げは元々肉屋の定番商品だったし、スーパーの総菜売り場には必ずある。コンビニのローソンが「からあげくん」を売り出したのも随分昔のことだ。

 この唐揚げ業界に現在、ファミレス(すかいらーく)や居酒屋(わたみ)なども参入して、まさに戦国時代の様相になっていることは皆さんもご存じだと思う。

 

 唐揚げは個人的にも好きな総菜なので、多様な業種が参入して混戦となることで、味が良くなり、適度な価格競争も起きれば、消費者にとっても望ましいことではある。

 

 ところで、皆さんはこういった「唐揚げ店」の店頭やWebサイトに「からあげグランプリ金賞受賞」といったポスターを見かけたことはないだろうか。

        

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 実はこの「からあげグランプリ」、日本唐揚協会という団体が運営しているのだが、この協会のWebサイトを見て驚いたことがある。

 一般消費者の普通の受け止め方としては、「金賞」というのは、その年に最高と評価されたモノやサービスが受賞するものという認識があると思う。また「金賞」があるのだから「銀賞」「銅賞」もあると考えるのが普通だろう。

 日本唐揚協会のWebサイトで、からあげグランプリの記事一覧を見るとこの認識は大きく間違っていることがわかる。

      

 まず、最新の「からあげグランプリ」そのものが、大きく「第12回からあげグランプリ」と「第2回唐揚弁当グランプリ」の2つに分けられる。

 そしてこの「からあげグランプリ」については、「素揚げ・半身揚げ部門」「しょうゆダレ部門(3地区)」「手羽先部門」など10部門に分かれているほか、これとは別に「スーパー総菜部門」が北日本など4地区に分かれており、「からあげグランプリ」だけで14部門も存在、それぞれに「最高金賞」と「金賞」が授与されるのである。ちなみに「銀賞」も「銅賞」も存在しない。

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 これに加えて「唐揚弁当グランプリ」だが、こちらは「弁当屋部門」「専門店部門」「定食屋部門」がそれぞれ地区別に3つ、「酒場部門」が地区別に2つ、「コンビニ部門」が1つと合計12もあるのだ。

 「からあげグランプリ」と「唐揚弁当グランプリ」を合わせると、何と26部門も存在することになる。

 

 さらに驚かされるのか「金賞」の数。「最高金賞」はさずがに各部門ごとに1つだが、「金賞」は「全国定食屋部門」で受賞した「かつや」を除いて、すべての部門で複数の金賞受賞店が存在するのである。もっとも金賞を多く受賞しているのは「からあげグランプリ」の「東日本しょうゆダレ部門」で、何と15店も受賞しているのだ。

 

 この結果、トータルでの受賞店数をまとめると、「最高金賞」は26店、「金賞」に至っては148店にも達する。2つを合わせると174店だ。ちなみに資料の欄外の注釈によれば、「からあげグランプリ」のエントリー数は921で、ノミネート数は175、最高金賞と金賞の合計受賞店数は121だから、エントリー後の受賞率は13%、ノミネート後の受賞率は約70%となる。

 しかもこれは単年度の受賞店数なので、今年で12回目となる「からあげグランプリ」や2回目となる「唐揚弁当グランプリ」がこれまでにいくつの「金賞」を授与してきたのかは調べていないが、1000店を超えているのは間違いなさそうだ

 

 グランプリを主催する日本唐揚協会には、専門家としてそれなりの言い分があるだろうが、一般消費者からすれば「金賞の安売り」感は否めないだろう。ひとつかふたつと思っていた「金賞」が実際には174もあるとは誰も想像していないはずだ。

 

 私自身はこういった「〇〇賞受賞!」のような「権威付け」は嫌いなので、モノゴトを判断する基準にはあまりしていないが、一般消費者にとっては「金賞」が人気や味を保証する基準としている人も多いはず。味の好みは人それぞれなので、他人がとやかく口出しする話ではないが、「からあげグランプリ」金賞の実態を知っておいて損はないだろう。

 そして、この手の「〇〇賞受賞!」をウリにしているのは、「からあげ」だけではないというのも事実のはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスクの値崩れが止まらない--100円ショップでは20枚110円も登場

マスクの値段がとんでもないことになっていた

 

 今回のテーマは「マスク」である。昨年の年明けぐらいから新型コロナの脅威が騒がれはじめ、2月頃にはマスクの価格が急騰、一時50枚入りの不織布のマスクが「1箱7000円以上まで上昇した(1枚140円)」という話も各所メディアで耳にしたが、最近のマスクの価格事情を調べてみたら、どんでもないことになっていた。

 

 私自身、マスクは同じ医療用品のガーゼや包帯などのように衛生面から考えても「使い捨て」が基本だと思っているので、繰り返し使える布製のマスクは使ったことがない。幸い昨年春先には勤めている会社から、全社員に1人100枚の不織布マスクが配布されたので、夏場まではこれで乗り切っていたのだが、秋以降の分をどうやって確保しようかと考えていた。

 

 こうした中、昨夏ころに100円ショップのダイソーで、3枚入り110円(税込み・1枚当たり37円)で販売されたので、さっそく購入してく買っていたのだが、個人的には「まだ高い」と感じていた。というのも、ちょうど1年前の2019年夏頃には同じダイソーで1箱30枚入りのマスクが110円(1枚当たり3.6円)で売られていたのを知っていたからだ。

 

 しかもこの頃になると、国内外のマスクの工場生産も増産体制が整いはじめ、これからはマスク需給も緩和すると睨んでいたので、必要最小限の枚数を購入して対応していたところに登場したのが100円ショップ「キャン・ドゥ」の7枚入り110円のマスクだ。これだと単価は16円程度まで下がる。

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 これで当面は乗り切ろうと思っていたところに、ダイソーから昨年(?)発売されたのが、10枚入りで110円の商品だ。キャン・ドゥと同じ3層構造で、花粉などを99%カットするというのも同じ。単価は11円となる。

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 10枚という数字のキリもいいので、100円ショップの主力商品は他店も含めてしばらくは10枚入りに落ち着くのかと思っていたが、この考え方は甘かった。今年に入ってダイソーは15枚入りで110円という新商品を発売したのである。ちなみに単価は7.3円にまで低下、10円を割り込んだ。

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 我ながら「読みが甘かった。市場を舐めていた」と反省することしきりだったのだが、この反省がまだ不十分だったことを思い知らされる事態にこの春先に直面する。なんとダイソーが20枚入りで110円の商品(単価は5.5円)を売り出したのだ。

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 ちなみにこの20枚入りの商品、人気化しているのか最近ではあまり店頭で見かけない。3層構造、花粉99%カットといった性能は変わらずなのだらから当然ではある。ダイソーが最近始めたオンラインショップでもマスクは15枚入りが主力商品だ。

 

 ということで、ここ1年ちょっとで単価が140円から5.5円まで約25分の1にまで急落した不織布マスクだが、個人的にはそろそろ底値かと思っている。確かに一昨年までは30枚で110円という時期もあったので、この水準まで下がる可能性はあるが、これは「箱」に入っているタイプでやや大きい。20枚入りまでの「袋入り」なら持ち運べる利便性があるうえ、出し入れ部分がテープなので保存時に異物が混入するという問題もない。

 

 ここまでマスクの価格下落について説明したきたが、コロナ禍はいずれ収束するとはいえ、飛沫感染への対応が一般化することで「ソーシャルディスタンス」という概念が消えることはなさそう。これからはマスクは眼鏡やアクセサリーのような感覚で普段使いするようになるだろう。

 生産体制も整い、価格も安定してくるので、ドラッグストアではトイレットペーパーのような「日用品」と同じ扱いになるとかもしれない。

 

 

東京都が作成したシニアの生き方ハンドブック「東京50BOOK」

定年本初心者にはオススメ、もちろん無料で配布中

 

 今年もゴールデンウィークが目前に迫ってきた。昨年同様に新型コロナウイルスの影響で、旅行などの休暇計画を見送った方々は多いだろう。緊急事態宣言の発令もあって、東京都の小池知事は「都外への外出は控えるように」と飛びかけているうえ、大規模商業施設は休業中でもあり、せっかくの休暇なのに世の中に盛り上がる機運は皆無だ。

 かく言う私もリモートワークの真っ最中で、平日、休日を問わず外出を楽しむ気分にはどうやってもならない。といってぶつぶつ愚痴っていても仕方がないので、せっかくの休みを使って何をしようかと考えていたのだが、先日野暮用で市役所に行ったら1階のロビーで面白そうな資料を見つけたのでお伝えしたい。

 その資料の名は「東京50―フィフティ・アップ―BOOK」である。タイトルから想像できるように50代以上を対象にしたシニア向けの生き方を書いたガイドブックだ。総ページ208で、厚さは1センチ近いしっかりとした装丁の「本」である。一見すると書店で980円ぐらいで売っていてもおかしくないぐらいの外見だ。もちろん無料で配布している。(PDF版、電子書籍版もダウンロード可能)

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 作成したのは、東京都福祉保健局というお堅い部署。どういう経緯でこの本を発行することになったのかは不明だが、その趣旨は表紙裏にある文章「自分らしいシニアライフ、50歳からデザインしませんか?」という言葉に集約されるだろう。簡単に言えば、都民の高齢化に伴い、退職者などが増える中でシニアの無気力、孤独、孤立などによる様々な問題を回避するためのアイディアをまとめたものだ。

 

 章立ては大きく分けて

   1.これからのライフどうしたい?

   2.夢を実現するために50(歳以上)からできること

   3.未来の私たちはどうなる?

   4.健康長寿のために

   5.安心&元気に暮らしたい

 の5つのパートからなる。

 

 パート1では、チャートにより自分のタイプを「社交派」「独立独歩型」など4つに分類、それぞれのタイプ別に「仕事」「趣味」など4種類の生き方をアドバイスしている。

 パート2では、4種類の生き方の具体的な説明を、パート3では未来の見えるキーワードとして「少子高齢化」などに言及、パート4では健康寿命を延ばすためにできること、パート5ではこれに伴う補足説明などが書かれている。

 

 さて、ここでAmazonの書籍レビューで数多くの「定年シニア本」を扱ってきた者として忌憚ない意見を言わせてもらうと、「物足りなさはあるが、これまでシニア本を読んだことがない人には最初の一冊としてはオススメ」ということになる。

 というのも、多くにシニア本にあるがちな著者の「楽しく明るく生きるべき」的な押し付けがましさがあまり感じられない客観的な内容であることと、本文中や巻末に書かれている行動するにあたっての具体的なアプローチ先が記載されていて、便利で参考になると思うからだ。そして何よりタダだし。

 何かのアンケート結果からの引用だとは思うが、様々な場面でのシニアの体験コメントが多く取り上げられているのも、読者には身近に感じられるのはないだろうか。

 

 コロナ禍で家にいる時間が増えた中高年は多いはず。そのうえ何処への旅行はおろか外出すらままならない状況だけに、このGW休み期間中にちょっと先の話であったしても、シニアとしての生き方を学んでおくことはいずれ役に立つと思う。

 

 個人的には、この本を読んで最低限のシニア世代の生き方を知った後は、正反対の論調となる究極の自己主張型定年本「定年バカ」を読まれることを強くオススメしたい。この両極端の本2冊を読むことで、自分のシニアの生き方に対する立ち位置がある程度見えてくるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

20数年ぶりに京王閣競輪に行って驚いたこと

ファンも設備もすべてが変わっていた

 

 私の数少ない趣味のひとつに「競輪観戦」があるのだが、わざわざ「観戦」と言うだけに、専らギャンブルとしてではなく自転車レースとして楽しんでいる。

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 自宅が東京の郊外なので、観戦に行くのであれば「立川」か「京王閣」または「西武園」となるのだが、普段はネットのオンラインで見るため、ここ20年数年は実際に競輪場に足を運ぶことはなかった。

 きょうはたまたま予定がなかったうえ、何となく最近の競輪場の雰囲気も確かめたかったので、20数年ぶりに「京王閣競輪場」に行ってみたのだが、記憶に残っていた昔の京王閣とは大きく変貌した姿に改めて時代の流れを感じた。今回はその感想を書き連ねてみた。

 

 まず驚いたのは「女性客」の多さ。最寄りの駅は京王電鉄の京王多摩川駅なのだが、競輪場に直結した改札口はコロナ禍で閉鎖されており、反対側の改札口から線路沿いに戻る道を5分ほど歩くことに。その歩行者に女性が結構混じっていたので、最初は「何かコンサートかタレントの催し物もあるのか」と思っていたのだが、先を進む女性グループがそのまま競輪場に入っていったのを見て、腰を抜かすほど驚いた。

 しかも入場料(50円)を払って場内に入ると、別の若い女性群やカップルなどがあちこちにいて2度びっくり。20数年前の記憶では、女性は皆無と言っていいほど見かけなかったのだが、テーブルに座ってレース展開の話を弾ませる女性を見て、「うーん、時代は変わったものだ」とつくづく思った。

 今では信じられないかもしれないが、当時は「空いている」という理由で利用者の少ない女性トイレで、男性が何食わぬ顔をして用を足して出てきても誰も気にしないほど、社会通念とかマナーから隔絶された「異世界」が競輪場だったのだ。

 

 次に驚かされたのは昔は「穴場」とも言われた車券売り場。当時はちょうど窓口で受け付けの女性に「2、3裏表」などのように口頭で直接伝える方式が、鉛筆で記入したマークシートを差し出す方式に変わりつつある時代だったが、今は「窓口」そのものが存在しないのである。

 簡単に言えば、車券を買うのも、払い戻しも自動販売機で済ませるのである。まあ今はネットでも買える時代なので当たり前の話ではあるのだが、当時ズラッと窓口に女性陣が並んで車券の注文を受け付け、締め切りと同時に問答無用でビシャとカーテンを閉める風景が懐かしく感じられた。

 

 そしてさらに驚いたのが、予想紙のオンライン版無料配布。全国どこの競輪場でもこうなのかは分からないが、京王閣で予想専門誌「赤競」の全レース予想(カラー版)がスマホやタブレットで無料でダウンロードできるのである(印刷は不可らしい)。

 入場ゲートを通った際に「予想紙を販売する屋台が見当たらない」と違和感を感じてはいたのだが、その理由がようやくわかった。ただで見れるのであればだれもお金を払ってまで買わないのは当然だ。

 もっともこの予想紙、同紙の専門サイト「赤競.NET」で購入すると1レース70円、全レースだと550円もするので、どういう仕組みで無料配布できるのか不明だが。

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 競輪場そのものの変化も大きかった。20数年前の話なので、多少は記憶間違いはあるかもしれないが、まず改善されたと感じたのは「ゴール前」での立ち見ができるようになったこと。以前は屋外の吹きさらしとはいえ、座席指定の有料席(確か数百円)だったのだが、有料席は屋内の立派な施設内に収まった一方で、ゴール前からは奥に引っ込んだので、空いたスペースが無料の立ち見席に入れ替わったのだ。これはゴールに飛び来む選手の迫力を目の前で観戦することを、最も楽しみにしている私としては非常にありがたいことである。

 あとは、第4コーナーにあったコンクリートむき出しの4階か5階建ての巨大な無料観覧席が跡形もなく消えていた。もともと比較的のんびりした雰囲気のある京王閣には違和感の大きな建造物だったので、取り壊されたのは良かったとも思っている。

 ということで、20数年ぶりに訪れた京王閣にはひたすら驚かされた訳だが、これが数カ月ごとに通っていたら、その変化には気が付かなかったかもしれない。

 今回の久々の競輪場でのレース観戦で改めて感じたのは「やはり生のレースを見るのとネットで視聴するのとは臨場感が別次元」ということだ。当たり前の話ではあるのだが、レース開始時に聞こえてくる選手の気合の入った掛け声、発走機のガシャンという音、周回時の車輪の回転するシャーッというタイヤの摩擦音・・・どれもオンライン観戦では味わえないリアルの感覚だ。

 

 最後にこの投稿を読まれた方へのお知らせとして一報。5月4日から9日までタイトル戦の日本選手権競輪(GI)が京王閣競輪場で開催されるとのこと。入場者数を5,000人に制限して開催するとのことだが、ネットと来場による応募はすでに締め切っているため、観覧希望の方はネット観戦で楽しんではいかがだろうか。

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電車で騒ぐ子供には「言葉」では通用しない場合もある

手を挙げるのは厳禁だが、態度で示すのは有効だったという実例

 

 2月7日付けのプレジデントオンライン(POL)に「電車で騒ぐ子供を「静かにしなさい」と叱ってもうまくいかない根本原因」というタイトルの記事が掲載された。

 

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 趣旨を簡単にまとめると、子供を問題行動を起こすようなキレやすい人間にしないためには「肯定的で具体的な行動を促す声かけ」を意識すし、頭ごなしの否定の言葉はNG――ということだ。

 記事では具体例として「電車のなかで静かにしてほしいときなら、「騒がないで」ではなくて「お口を閉じましょうね」「本を読もうか」というといった具合です」と解説している。

 

 記事を執筆したのは早稲田大学教育学部教授の本田恵子氏。中高の教員を勤めた後に渡米しカウンセリング心理博士号を取得、スクールカウンセラーの専門家である。

 

 今回は記事についてとやかくケチを付ける気はない。著者が書いているように、子供に対して「騒がないで」「走らないで」などのように否定的な言葉で接するよりは、「本を読もうか」「ゆっくり歩こう」という別の行動に目を向けさせるというのは、有効な手段のひとつである。

 これと同じような手法に、部屋を散らかしている子供に「どうして散らかすの!」と怒るよりも、「どこに仕舞うのだっけ?」と話しかけて子供が主体的に行動できるように仕向けるというやり方も知られているところだ。

 

 私が今回言いたいのは、こういった「言葉」でいくら説得しても大人の言う事を聞かない子供に対してどう対処するかという問題である。

 電車内など公共の場でこうした子供に遭遇すると、どうしても「怒り」の感情が高まってしまうのは私の悪いところなのだが、あかの他人の子供に注意する義務はないし、親が出てきて揉めるのも面倒である。かといって放っておけば迷惑この上ない。

 

 ここで実際に数年前、私が取った行動を披露したい。結論から言えば効果は「絶大」だった。

 場所は通勤帰りの電車のなか、途中で塾帰りと思わる小学生2人が乗り込んできて、大声で話始め、じゃれ合うなど周囲にかなりの迷惑をかけていた。しばらくして60代後半ぐらいのおばさんが子供たちに「静かにしないとダメよ」から始まって「もう少しおとなしくして」などと声を掛けたが一向に騒ぎは収まらない。ちなみに周囲の他の大人たちは見て見ぬふりを決め込んでいる。

  私はドアをそばに背中を預けて新聞を読んでいたが、時間が経つにつれて子供たちの傍若無人な態度に我慢できない感情に包まれていた。

 

 そこで私は、手に持っていた新聞を丸めて棒状にし、隣のドアの窓を「バシッ!」と結構な音が響くように叩いた

 その瞬間、車内の空気がガラッと変わり、2人の小学生は瞬時に沈黙、直立不動の姿勢となり、そのまま降りる駅まで2人とも一言も話さなかった。

 私は「バシッ!」の際に子供を睨んだ訳でもないし、その後は新聞を広げ直して読み始めたが、それまで「言葉」で注意していたおばさんも同じように沈黙、その心中を察するに「私のような手法は自分には容認しがたいが、効果は認めざるを得ない」といったところだろう。

 ないとは思っていたが、もし誰かから意見されたら「窓のハエを叩いた」とでも言っておくつもりだったのだが余計な心配だった。

 

 小学生の側に立てば、「次は自分たちがバシッ!の対象になるかも」という恐怖があったかもしれないが、それよりも「大人を怒らせると怖い」ということを身をもって実感したのではないだろうか。

 

 体罰や暴力は私も反対だが、言葉でいくら言ってもマナーを守れない子供がいるのは事実。そうした場合に私のような「牽制」をかけるのは間違いではないと思う。実際に効果はてきめんだった訳で。

 

 記事を書いたカウンセラーの先生がいう事は正論だが、公共の場では「言葉」だけでは通用しないという現実もあるということを知ってほしい。

日経、オリンピック開催再考を促す記事を1面で掲載

「今夏の開催を望む人は少数派」が市井のリアリズムと主張

 

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 7日に政府から緊急事態宣言が発令され、1都3県の飲食店の営業時間短縮や一般市民の夜間の不要不急の外出の自粛要請が行われている。昨年末からの感染者の急拡大に伴うもので、後手になった感は否めないが実施しないよりはマシなのは確かだ。

 

 問題は予定されている2月7日に宣言が解除できるかどうかだろう。近況を見ると9日には京都、大阪、兵庫3府県の知事が新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を要請しており、少なくとも目先は感染状況が改善される見通しは立たないと言っていいだろう。東京都の感染者数に至っては9日まで3日連続で2000人を上回っており、医療崩壊は現実のものとなりつつある。

 

 この差し迫った状況のなかで、個人的には夏の東京オリンピック・パラリンピックが開催できるのか非常に疑問を持っているのだが、政府や都知事からは予定通りの開催の方針しか伝えられないし、東京五輪・パラリンピック組織委員会も「安全安心に開催されるよう準備を進める立場」と声明を発表している。関係者には「中止・延期」という発想は少なくとも表面上は微塵もないようだ。

 

 こうしたなか、日本経済新聞は10月付けの朝刊の1面のコラム「春秋」で、オリンピック開催の事実上の再考を促す論調を打ち出した。私は全てのマスメディアを漏れなく読んでいる訳ではないので不正確かもしてないが、日本を代表する全国紙が1面でオリンピック開催の見直しの記事を掲載したことの意義は大きいと思う。

 

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 記事では、第二次世界大戦末期の御前会議を引き合いに出して「国力の現状などのリアルな数字や予測を前にしながら誰もが思考停止に陥った」とし、「これが遠い昔の出来事と言い切れようか」と述べている。

 後半では各種世論調査では「今夏の開催を望む声は少数派である。これが市井のリアリズムだろう」と冷静に国民の声を代弁している。個人的には「よくぞこの時期にここまで踏み込んだ論陣を張ってくれた」として拍手したいぐらいだ大手新聞社は日経を含めて東京2020オリンピックオフィシャルパートナーであり(産経新聞はワンランク下のオフィシャルサポーター)、開催に否定的な記事を掲載するには相当な覚悟が必要だろう。しかも1面の準社説扱いである。

 

 こうした国民感情と与党幹部の意識はかなり食い違っているように見える。例えば自民党の二階幹事長は5日の記者会見で「開催しないということのお考えを聞いてみたいぐらいだ」という発言をしている。「お考え」は世論調査で国民の意識としてはっきり示されているのに、これを完全に無視した内容だ。要するに「開催ありき」の前提で話を進めているので、都合の悪い情報には聞く耳を持たないのだろう。

 

 そもそも日本がいくら開催すると前向きになったところで、肝心の海外各国が自国の感染対策で選手を送り出せない、もしくは感染が収束していない日本での開催に参加したくないと言い始めたらどうするのか。

 そもそも世界で感染者数(10日時点で2200万人)、死亡者数(同37万人)ともに最大の米国が、何の問題もなくすべての選手団を送り出せるというのはどう考えても楽観的過ぎるだろう。仮に米国が選手団を派遣できないという判断をした場合、オリンピックの最大のスポンサーである米テレビ局は放映する意味を大きく失う。その結果、放映権の解約となれば国際オリンピック委員会は予定通り開催できるのだろうか。

 

 7月23日の開催まで残り半年余り。聖火リレーは3月には始まる。政府と東京都は開催の中止や延期を視野に入れた議論を進める時期にあるはずだ。希望的観測だけに基づいて予定外のシナリオを考慮しないことを世間では「無為無策」という。

 

「マンション」or「戸建て」専門家の意見が真っ二つ。「購入」推奨では一致

戸建ての価値をどう考えるか

 

 不動産の購入を検討している人にとっては大きなテーマである「マンション」か「戸建て」。この問題について最近意見が真っ向から対立する専門家の意見が相次いでWebサイトに掲載された。

 

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 経済評論家の加谷珪一氏は12月3日付けのプレジデントオンラインで「マイホームと賃貸はどちらがお得か」お金のプロの最終結論」というタイトルの記事を投稿、賃貸の家賃は「経費」、購入は「資産形成」という視点から、考えるべきという前提条件の下で、購入するのであれば資産価値の下がらないマンションを推奨。具体的には中古・新築を問わず利便性の高く駅地価の「立地」で物件を選択すべきとしている。

 

 この見方について、私自身は「賃貸=経費」、「購入=資産形成」という考え方には基本的に同意する。不動産情報誌や雑誌の特集などで「賃貸と購入、どっちがお得?」といった特集が組まれることが結構あるが、賃貸料や借入金利の変動などで前提条件は変わってくるので、誰にでも通用するような確定的な結論はありえない。

 

 ただ、前々回のブログでも書いたが問題となるのは、資産価格が落ちない人気の都心3区のような物件を買うとなると、中古・新築を問わず、普通の共稼ぎ夫婦が購入できるような価格帯ではないということだ。親からの資金援助があって購入するなら話は別だが、無理をして高い物件を買えば、将来支払いの滞る可能性は高まる。

 

 折しも冬のボーナスが軒並み大幅カットされる会社が相次ぐなか、東京商工リサーチは10月30日に「上場企業「早期・希望退職」募集企業 前年比2倍超に急増」という記事を掲載。「募集人員は判明分だけで1万4095人と昨年をすでに上回った」としている。11月以降もこの勢いは止まっていない。

 

 高止まりする物件価格と家計収入減少の可能性を冷静に考えれば、この時期に共稼ぎを前提にした長期ローンでの住宅購入は個人的には危険極まりないと思う。結婚や出産などで引っ越しを考えざるを得ない人は、URなどの公営住宅を含めた賃貸物件に移って当面は様子を見るべきではないだろうか。

 

 一方、オラガ総研代表取締役の牧野知弘氏は、同じく12月3日の現代ビジネスに「日本人が大好きな「賃貸か持家か」論争、コロナ危機でついに答えが出た…!」というタイトルの記事を投稿、サブタイトルには「郊外戸建て住宅=持家」で決まり、として加谷氏とは逆に戸建てを推奨している。

 

 もっとも、牧野氏の主張にも前提条件があって、将来コロナ禍が収束しても通勤が週1回あるいは月2回という会社が増えてくることを想定している。この「通勤」を前提としないで家を選ぶとなれば「生活ファースト」の考え方が主流になるという見立てだ。地域としては神奈川県の横須賀、小田原や埼玉県の飯能、秩父などを挙げている。

 

 このエリアまで来れば優良な中古の戸建てが2000万円から3000万円程度で入手できるので、都心の資産価値が維持できるような高い価格のマンションを無理に買わなくても済むという見解だ。ローンを組んだとしても月々の支払いは少ないので、その分趣味やスキルの向上、家族との食事などに充当できるというメリットもあるという。

 

 この2人とも「購入」を推奨という点では一致している。最も大きな相違点は「戸建て」の寿命に対する価値観だろう。加谷氏が「一般的な日本の木造住宅はほんとうにもたないので、あっという間にダメになって、資産価値として最後は土地代ぐらいしか残らない」と指摘しているのに対して、牧野氏は「家が古くなっても建替えは自由にできるし、売却時には家を解体して更地にすれば土地としての価値を維持することが可能」としている。

 

 さて、この両者の言い分を聞いたうえでの私の個人的な意見だが、一般のサラリーマンが資産価値を維持できるようなエリアにマンションを購入できないという現実を考えれば、牧野氏の「郊外の中古戸建」に軍配を上げたい。

 ただし、30代の働き盛りの世代が中古の戸建てを購入するのは慎重にすべきだろう。最近の戸建ては20年ぐらいで目立ったガタは来ないはずだが、30代で買って永住するとなると築15年の物件を買っても70代になるころには築60年近くなる。さすがに建て替えを視野に入れることになるが、70代で少なくとも1000万円以上の建て替え費用を捻出するのは難しいのではないか。

  これは私の持論なのだが、仕事を引退するまでは多少不便でも賃貸に住んで貯蓄に努め、現役引退が見えた頃にライフスタイルに合わせた中古戸建てを現金一括で購入するのがベストだと思う。繰り返すようだが若いころに買ったマンションを資産として残せるのはごく一部の物件に限られるからだ。また、維持費も戸建ての方が安く済むし融通が利くというのが、現実に郊外の中古戸建に住む私の実感だ。

 

 牧野氏は購入対象としてかなりの郊外エリアを意識している。ただ、2022年に期限を迎えるはずだった生産緑地法の期限が10年間延長されたことで、同年に農地が住宅地として市場に出回るのは一部になるとはいえ、いずれ地主の農家は後継者不足などで農地を手放すことになる。対象となるのは駅からやや離れた土地が多いだろうからマンションやアパートよりも戸建てとして供給されるはずだ。

 国土交通省の都市交通調査・都市計画調査によれば、東京23区で最も生産緑地が多いのは練馬区の189ヘクタール、次いで世田谷区の95ヘクタール、江戸川区の63ヘクタールと続く。つまり戸建て向けの土地がヘクタール単位で放出されるわけだから、数十年先にはこの3区を中心に都区部でも中古を中心にかなり値ごろ感のある戸建てが供給されるのは確実だろう。もっともその頃には、神奈川や埼玉はさらに格安となってはいるだろうが。

 

 住宅購入はほとんどの人にとって一生に一度の買い物となるはずだ。現役世代に支払う賃貸料は「経費」と割り切って、引退後に自分に合った戸建て「購入」という生活を考慮した方が有意義な人生を送れるのではないだろうか。というのも、これからは「人生100年」の時代と言われているのだから

 

政治家からの内部情報で投信を売買したらインサイダー取引に該当するのか?

インデックス投信は規制の対象外だが・・・

 

 株式のインサイダー取引については、摘発の報道がされることで個人投資家の間では違法取引という認識がかなり定着しつつあると思っていたのだが、まだ手を染める関係者は存在するらしい。

 ちょっと前になるが10月29日、時事通信社がネットのJIJI.comで「ディスカウント店「ドン・キホーテ」親会社の前社長(57)を、金融商品取引法違反(インサイダー取引と情報伝達)容疑で証券取引等監視委員会が昨年11月と今夏、関係先を強制調査」と報道している。

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 「ああ、またか」というのが正直な感想だが、現在の株式市場で「早耳情報」で儲けようとするのは投資リスクの取り方を完全に間違えている。株価の上下に対してリスクを負うのは正当だが、インサイダー取引が露呈しなければ儲けものという考えでリスクを取るのは馬鹿げている。下手をすれば利益だけでなく投資総額すべてを没収される可能性もあるうえ、有罪となれば個人としての社会的な損失は計り知れない。

 

 企業の株価に影響を与える内部情報で発表前に株取引をすれば「完全なアウト」ということは、広く世間に知られていることだとは思う。ただ、この結果インサイダー取引を管轄する金融庁は「問題のない取引まで、必要以上に控えられているのではないか」という指摘を受けて、令和元年7月に「インサイダー取引規制に関するQ&A」の改訂として、インサイダー取引に該当しない例を明記した。

 具体的には、

 ① 重要事実を知らない場合の株取引

 ② 重要事実の公表後の株取引

 ③ ETFや大半の投資信託の取引

 の3点である。(注釈は省略)

 

 金融庁としては、平成20年のインサイダー取引規制に関するQ&Aで書かれているように「株式投資等は、不公正取引でなければ、本来自由に行うことができ、安定的な資産形成の観点からも有効に活用されるべきもの」という立場であり、「社内規則で株式投資等全般を禁ずるような場合には、過剰な抑制となる」という認識だ。

 

 要するに、これまでインサイダー取引を厳しく取り締まってきたがその効果と影響があまりにも大きかったため、個人投資家の間には問題のない株式取引まで摘発を警戒して手控えるような動きがあることを懸念して、今度は一転して一定条件下での「株式投資の推奨」に動いたということだろう。

 このことは金融庁が職員に対して「法令や服務規律に反しない範囲で資産形成を後押しする取組みを行っている」とし、「金融庁職員におけるつみたてNISA等の利用について」のなかで「つみたてNISA等を活用した資産形成に率先して取り組む」と明言していることからも明らかだ。

 

 さて、ここで個人的に気になっている事例を取り上げたい。それは「政治家からの政策全般に関する内部情報の提供を受けて日経平均などのインデックス投信を売買したらインサイダー取引に該当するのか」という疑問である。

 政府が政策を実現するうえで法案の整備は欠かせない。であれば法案を通す国会議員に事前に官僚から案件が持ち込まれるのは自然なこと。各種税制度や公共投資、金融政策に至るまでその範囲は広い。もちろん個別企業の業績に直結するような情報もあるだろうが、株式相場全体へのインパクトが明かな案件も多いはずだ。これらの情報を元にインデックス投信を売買したら、儲かる可能性は決して低くはないだろう。

 

 この売買がインサイダー取引に当たるかどうかだが、金融庁の資料を見る限り該当するとは言えないように思える。というのも先の該当しない例の3番目に「大半の投資信託」が含まれているからだ。大半と言うのは、注釈に「J-REIT、上場インフラファンド、⾃社株投信等はインサイダー取引規制の対象」と書かれているからだ。ただし、ここには日経平均などのインデックス投信は含まれていない(自社株投信等の「等」の文字が気になるが)。

 

 実はこの件について確認のため証券取引等監視委員会に問い合わせたのだが、担当外ということで金融庁の担当部署に回され、そこでは「取引する証券会社に聞いてほしい」とさらにたらい回しにされた。最後に聞いた証券会社からは「その他の何らかの法令違反行為に該当するかについては、恐れ入りますが弊社ではお答えいたしかねます」との回答があったが、その後に「制度上の変更事項や政策の変化など、株価全般に影響する事実を公開前に知って行う場合、市場倫理的には好ましくない取引とされる可能性があり、情報提供者の立場を危うくする場合もあり得ることをご承知おきいただきたい」と書かれており、まったくのリスクフリーとも言えそうにないようだ。

 

 以上から個人的な考えを述べると、政治家からの政策絡みの内部情報でその家族や有力な支援者などがインデックス投信の売買を行った事例は過去にも相当数あったはずで、これらがインサイダー取引で摘発されたことはない。つまり規制する根拠となる法律が整備されていないので対象にならないということだろう。

 証券会社からの回答にある「市場倫理的」というのは、文字通り倫理上の問題なので法律上は取り締まることができないという意味のはずだ。これは社会的な責任の大きい政治家の立場を懸念しているのだと思われる。

 

 ただこれはあくまで「現時点」での話。今後私の指摘するような事例が発覚して、世間で批判の声が高まれば規制の対象となる可能性は否定できない。

 

 ちなみに私には国会議員の知り合いはいないし、あえて不必要なリスクを取る気もないので、過去も将来もインサイダー取引とは無縁だと思っているが、今回の内容が読者の参考になれば幸いである。

 

復調のマンション市場、「本当にリスク覚悟の購入ですか?」

おススメは現役引退後の「現金一括購入」

 

 新型コロナ禍で低迷していた新築マンション市場に回復の兆しが見える。不動産経済研究所が10月20日に発表した「首都圏のマンション市場動向(9月度)」によれば、新規発売戸数は前月比48.4%増、契約率は73.4%と好不調の基準となる70%を6月以来3か月ぶりに上回った。

 

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 今年に入って購入を見合わせていた層が、ここに来てマンション市場に戻ってきたようだが、いい機会なので、2019年2月にAmazonに投稿した「負動産時代 マイナス価格となる家と土地 (朝日新書)」のレビューの一部を再掲したい。

 その趣旨は、「そのマンション本当に今買って大丈夫ですか?」。つまり購入予定者に一歩踏みとどまって、支払い計画や将来のライフスタイルなどを今一度考えてもらうことだ。

 

 折しも日本経済新聞は10月4日に「住宅ローン、定年後に遠のく完済への道」という記事を掲載、2020年の借り手の返済期限が20年前から5年延びて73歳になったことを伝えている。今後就業可能な年齢は70歳まで延長されることにはなっているが、現状の65歳でも60歳以降は1年毎の有期再雇用が大半で、給料は正社員時代の半分程度になるのが一般的。年金の支給開始年齢の引き上げも見込まれる中で、73歳まで本当に返済可能なのだろうか。

 おそらく多くの借り手は「退職金で残債を一括返済すればよい」と考えているのかもしれないが、大卒の退職金の平均額は平成30年までの15年間で700万円以上下がっている(下図:EL BORDE80年代生まれのリアル)。退職金制度自体を廃止する会社も出てくるなかで、年功序列賃金・ベースアップの廃止、ジョブ型雇用の普及などを考えれば、住宅購入後数十年間にわたって毎月10万円以上を支払える根拠がどこにあるのか慎重に再考してほしい。

 

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 ここからは私のAmazonレビュー(2019年2月)からの引用になるのだが、そもそも返済を終えた35年後の古びたマンションにどれほどの価値があるのだろうか。現在築35年のマンションを見てほしい。設備、構造など今の新築物件とは比較にならないはずだ。ごく一部の利便性の高い物件は中古でもニーズはあるだろうが、大多数のマンションは供給過剰でまともな値が付くとは思えない。(ちなみにこれと同じ趣旨のコメントが不動産アドバイザーの牧野知弘氏の2020年6月のコラム「コロナで終止符?「賃貸」VS「持ち家」のくだらない論争」に書かれています
  
 私は宅建士の資格も持っているので、個人的に分譲マンションのアドバイスを求められることも結構あるのだが、若い現役世代には新築・中古を問わずローンによるマンション購入を勧めない。代わりに手ごろな賃貸物件(公営住宅を含む)に住んで貯蓄に努め、引退後に家族構成などのライフスタイルに合わせた住宅(戸建ても含む)の現金一括購入を推奨している。人生の最後まで「賃貸」でも別に構わないのだが、今後減額が確実視される年金を原資に賃貸料を支払い続けるのは、さすがに厳しいのではないだろうか。

 近い将来人口・世帯数の減少する一方で、新規住宅建設は伸び率が鈍ることはあってもゼロにはならない。しかも区分所有者の様々な思惑が入り組んで、老朽化物件の解体も進まない(戸建ての建て替えに伴う解体は別)ので総住宅戸数は増え続けるのは確実。要するに「需要」が減って「供給」が増えるのだから、どう考えても市場全体の「不動産価格」は下がるとしか想定できない。言うまでもないが収益重視のいわゆる一丁目一番地の投資物件は別の話である。
 具体的には、いまから数十年先には相当数の住宅を選り取り好みで、中古なら数百万円程度で買える可能性が高いだろう。すでに都下でもバス便なら1000万円以下の中古物件は珍しくないのが現状だ。
 仮に70歳で引退して年金生活に入って、築15年の物件を購入しても90歳(築35年)になるまではマンションでも戸建てでも建て替えの不安はないだろう。

 では、なぜこのオススメの「引退後の現金一括購入」を、不動産の業界関係者が誰も話題にしないのかという疑問を持たれる方も多いと思う。
 その答えは「誰も儲からないから」だ。基本的に新規分譲マンションや中古物件を手掛ける業者は、「すぐにでも契約して建設コストを回収もしくは売買手数料を確保」したいので、数十年も先の話などまったく眼中にないのである。

 この話が信じられないのであれば、新築マンションのモデルルームに行って、一通り説明を聞いた後で「実は購入するのは2、3年先の話なんです」とでも話を振ってみればいい。まず間違いなく担当者の顔色が変わって、早々に話を切り上げようとするはずだ。目先の利益につながらない相手は客どころか、迷惑な存在以外の何者でもないのである。

 私は、学生時代に賃貸住宅仲介業者のアルバイト経験はあるが、現在は不動産関連の仕事をしている訳でもないし、当然ながら業者から一銭も受け取っていないので、思っていることを何のしがらみも制約もなしに正直に書いている。不動産で稼いでいないという意味では「プロ」ではないが、「プロ」が書きにくいことも正直に言えるという立場にあるのは事実だ。

 今の時代、夫婦共稼ぎの収入、借り入れ金利の上昇、地震などの自然災害、病気・ケガ、転勤・転職、子供の進学、親の介護など将来何が起きるかわからないうえに不動産価格の中長期的な下落は確実。住宅ローンという長期かつ多額の負債を自ら抱え込む必要はないと思うのだが。

 以上のように「引退後の現金一括購入」が現役世代の住宅購入予定者に対する私からのアドバイスだ。

 

 最近ではマンション購入にあたって「将来の資産価値」がキーワードになっている感がある。確かに人気の都心3区で利便性の高く、地盤・ハザードマップに問題がない物件は資産価値という点では安心感はあるのは事実だ。

 ただ、問題は物件の価格だ。2020年9月度、東京都「都心3区」の中古マンション市場によれば、1平米単価は127.94万円。これを平均的なマンションの広さ70平米に換算すると8955万円。確認しておくがこれは「中古」の価格だ。多くの購入予定者が希望する「新築」なら軽く1億円を超えてくるだろう。これは普通のサラリーマンはおろか大半の共稼ぎ世帯でも購入不可能な価格のはずだ。

 

 要するに普通の家庭が購入可能な「新築」を買えば、資産価値の下落は避けられず、特にマンションの場合は住民の合意形成ができなければ、将来の大規模修繕も建て替えも難航するのは確実。であれば、中古の戸建てを安く買って自分の都合(時期・費用など)で修繕などを実施するほうが自由度が高いのは確かだろう。

 かく言う私自身、築10数年の戸建てを購入して、地元で評判の良い工務店と親しくなって外壁・屋根を含めて小まめに家屋の手入れをしている。上物(家屋)はほぼ無価値だったので、実質的にほぼ購入価格=土地価格であり、資産価値の下落は土地部分に限定されていることも、相対的な資産価値の維持に寄与していると思う。

 もっともこれはあくまで「私個人の価値観」からの選択であって、誰にでもおススメできる手法とは思っていないので悪しからず。

 

大塚家具の今後を占う。ヤマダHD主導で匠大塚との合併も

大塚久美子社長の退職金にも注目

 

 大塚家具は28日、大塚久美子社長(52)が12月1日付で辞任する人事を発表した。自主再建が困難となって昨年ヤマダ電機の傘下に入った時点で、こうなることは予想されたが、「ようやく」といった感はある。

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 もっとも同社が発表した「業績予想に関するお知らせ」によれば、2021年4月期の純利益予想が28億9000万円の赤字で、これで通算5期連続の最終赤字、3期連続の無配となるのだから経営責任を取るのは当然と言えば当然ではある。しかも親会社のヤマダホールディングスグループの山田会長は昨年12月の大塚家具の子会社化にあたって「業績回復への社長の猶予期間は1年」という趣旨の発言をしていたはずで、今回の人事はまさに有言実行と言える。

 

 ここで気になるのは、発表資料に「現在スピード感を以って取り組んでいる抜本的構造改革を期中に終える予定であり、来期黒字化に向けて道筋がつきつつあります」とあること。過去の業績の推移を見ると、2016年12月期に最終赤字(45億円)に転落したあと、2017年12月期には赤字幅が1.58倍の約73億円に拡大、2018年12月期は赤字幅が32億円に縮小するも、決算期変更のあった2020年4月期には再び77億円の赤字と2.38倍に増加している。

 今期が28億円の赤字に収まったと言っても「卸資産評価損対象商品の販売や閉店等による賃借料の低減等による効果が大きい」と書いてあるように、前向きな施策によるものではなく、効果は一時的だろう。このままでは再び赤字が拡大する可能性も否定できない。

 つまり現行の経営方針では、本業の業績回復は見込み薄と言わざるを得ない。

 

 ここで今後想定されるのは、社長をヤマダ電機から来た三嶋会長が兼任することで、ヤマダ電機を主軸とするヤマダホールディングスグループの「家具事業の大規模な構造改革」の可能性が高いこと。例えば、大塚久美子氏が完全に経営から離れることで、名実ともに大塚家具を自由に差配することが可能になる。

 

 ヤマダ電機は2011年エス・バイ・エルを子会社化し住宅事業に参入、大塚家具も子会社化して、その傾向を強めていた。今回の大塚家具の社長交代で、個人的に今後真っ先に予想される展開は、大塚家具の創業で久美子社長の父親でもある大塚勝久が会長を務める匠大塚との合併だ。

 

 もともとヤマダ電機が大塚家具を買収したのは「家電の安売り」というイメージを「高級ブランド家具」という商品を手掛けることで払しょくしたいという意図があったのは間違いない。

 大塚家具が「会員制」「高級家具」路線を変更して業績不振に陥る中、この創業以来の独自路線を守り続ける匠大塚はかなり魅力的な会社だ。

 

 匠大塚の大塚勝久会長にとっても、思い入れの深い大塚家具を再び自分の会社とし、これまでの経営方針を生かせると考えれば悪くない話のはずだ。最大の障壁であった久美子社長の辞任で、事業復興の環境は整ったのではないか。非公開会社なので詳細は不明だが、匠大塚も昨今の経営状況は厳しいとの話もある。

 

 しかも、ヤマダ電機の親会社でヤマダホールディングスグループの山田昇会長は1943年2月生まれ、一方の匠大塚の大塚勝久会長も1943年の4月の生まれでともに77歳。同じ戦前生まれとして商売を含めた価値観は近いものがあるのではないだろうか。

 

 このようにヤマダホールディング主導による、大塚家具と匠大塚の合併はかなり現実味がある話だと思うし、合理主義者で知られる山田会長の性格から考えて、かなり早い時期に実現する可能性もある。

 

 あと余談になるが、現大塚家具社長の退職金についても気になるところ。2015年に社長就任後その年の12月期にはかろうじて売上高も増加、3億円の最終黒字を確保したが、その後は一貫して売り上げは減り続け、資金繰りは急速に悪化、銀行に支援を要請した。中古品の取り扱いや、中国企業と提携するなどの新たな事業展開も不発に終わった。

 

 ここまでの実績を考えれば、常識的には「退職金はゼロ」だろう。ただ、あの気の強い久美子社長がそのまま無抵抗に受け入れるとも考えにくい。12月1日の辞任まではマスメディア等による退職金の有無や金額について憶測記事が飛び交う可能性もありそうだ。