如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

弱者の側に立った社会階級論、非正規雇用者の貧困化は加速する

 

新・日本の階級社会

2018年1月20日

 まず本書は、「格差は容認できないほど大きくなっており、格差を縮小させ、より平等な社会を実現が必
要という認識に立っている」(第七章冒頭)ということを前提に読む必要がある。

 そのうえで、個人的に各章のポイントを挙げると以下のようになる。

 第一章 貧困の自己責任論について 
  全体の過半数が自己責任論について肯定的である。また、貧困層でも肯定的な回答が44%を占め、自分
の貧困の責任を自分の責任によるものとして受け入れている。

 第二章 現代社会の階級構造について
  現代社会では、経営者、役員の「資本家階級」、被雇用者の管理職・専門職・上級事務職からなる「新
中間階級」、5人未満の自営業者の「旧中間階級」、被雇用者の単純事務職・販売職・サービス職からなる
「労働者階級」の4つの階級によって構成される。

 第三章 アンダークラスについて
  4つの階級に加えて、2015年以降、所得水準が極端に低く、一般的な意味での家族を形成・維持するこ
とから排除され、多くの不満を持つ第5の「アンダークラス」という最下層階級が、就業人口の約15%を占
めるという大きな存在になった。

 第四章 階級の固定化について
  親が資産家である者は資産家になりやすくなり、親が労働者階級の場合は子供も労働者階級になりやす
い。しかし、新中間階級が親である者は同じ新中間層にはなりにくくなった。これはバブル期採用世代と就
職氷河期世代の間に大きな格差があるため。 

 第五章 女性たちの階級社会について
  女性は、本人と配偶者が資本家階級か新中間層の場合は豊かな生活を送れるが、両方が下層階級だった
り本人が下級階層もしくは無職で配偶者がいない場合は、厳しい生活となる。

 第六章 格差の解消とその原因について
  資本家、新中間層、正規労働者には、所得再配分には消極的で、排外主義的な傾向が強く、アンダーク
ラスでは、所得再配分に積極的で、排外主義的な人が多い。追い詰められたアンダークラスに「ファシズム
の基盤」が芽生え始めている。

 第七章 格差縮小にむけて
  格差の縮小には、「賃金格差の縮小」「所得の再分配」「所得格差を生む原因の解消」が必要。同時に
格差の「自己責任論」を捨てさせることが必要。
  
以上となる。以下に個人的な見解を述べる。

 まず、「自己責任論」に厳しい態度だが、これには理解はしつつも同意しにくい。筆者は就職氷河期に正
社員になれなかったのは社会の責任であるとしているが、正社員の採用規模が景気によって左右されるのは
当たり前で、就職氷河期の対象者だけを優遇するのは解せない。著者が卒業された東京大学でも学園紛争で
学生の募集を停止した年度があったはずだが、それで入学できなかった高校生がかわいそうだ、という話に
はさほど拡大しなかったはず。

 次に、大学進学について。著者は税金で給付型の奨学金を充実させて、利用者には返済可能となった就職
時点から「大学教育税」を課すとしている。これについては「そもそも大学教育をこれ以上拡充する必要が
あるのか」という疑問を持っている。私立大学の40%近くが定員割れで、偏差値の付けようがないFランク
の大学が続出しているのにである。これはとある採用関係者から聞いた話だが、就職希望者に一般常識のペ
ーパーテストを行ったら、Fランクの大学生よりも商業高校の生徒の方が成績が良かったそうだ。大卒を応
募条件にしている企業側の姿勢も問題だろう。おりしも成人年齢が18歳に引き下げられることもあり、バカ
な大卒よりもまじめな高卒を採用、育成した方が有利という社会認識に変えていくべきだと思う。

 最後に生活保護制度と資産税・富裕税について。これはいつも思うのだが、例えば同じ会社に入って(例
のため厚生年金、退職金はなしとする)同じ時期に同じ役職で退職した2人がいたとする。片方は月給、ボー
ナスを自分の趣味や遊行費に使い退職時の資産・貯金はゼロ、当然のように生活保護を申請する。もう片方
は将来に備えるため生活費を削って貯金、個人年金、有価証券等に投資、まとまった資産を残したとする。
この場合、好き勝手に暮らしてきた人間に生活保護を認めるのは、例え生存権が憲法で保障されていても心
情的に合点がいかないし、倹約、努力して財をなした人に「あなたは資産があるから税金を払いなさい」で
は、あまりにも不平等ではないだろうか。

さて、ここで本書について考察をひとつ。
 データを独自の視点で分析、その傾向をあぶり出すという点で本書は非常に参考になることは確かである。
弱者の側に立つという姿勢を明言しているのも潔く、共感できる点も多かった。

 ただ、「自己責任論」を諸悪の根源のように敵視するのはどうかと思う。実際に本書のデータでも貧困層
の半数近くが貧困の原因を自己にあると認めている訳で。どうせなら自己責任の範囲でどのような対応がで
きるのかを探るような考察があれば良いのにと感じた。

 おそらく著者の本意は、アンダークラスを含む労働者階級などがまとまって支持できる政党(立憲民主党
を意識?)が自民党に対峙することを期待しているのだろう。