如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

文章のプロ、「読むこと」「書くこと」の重要性を説く。「本」選びは「人」選びと同じ

 

読書の価値

2018年4月7日

 著者は、大学教員及び小説家という経歴を持つ「文章のプロフェッショナル」である。

 このプロが本書で、自分の読書歴や本の選び方などを紹介しつつ、インプットとしての「読書」の価値を、
またアウトプットとしての「文章を書くこと」の重要性を説いている。

 「読書」の観点から見て共感したのは「本選びは、結局は人選びである」という点だ。これを発展させてい
くと、幅広いジャンルの本をたくさん読む人は「知り合いが多い」ということになり、昨今話題となっている
「孤独」を解消するひとつの手段になるのではないかという考えに至ることも可能だろう。

 もっとも著者は、「孤独な人間が増えているのではなく、情報過多の現代で、無理に人とつながろうとする
反動」と捉えているようだが。

 一方、「書くこと」について。著者はとにかく大量に文章を書くことが重要で、次にそれを直すことも大事
だと述べている。要するに「書くこと・直すこと」に慣れていないと、コミュニケーションとしての文章力が
育たないと言いたいのだろう。

 これには強く同意したい。私は特に文章を書くことが仕事でも趣味でもないが、他者とのやり取りでは「会
話力」も重要だが「文章力」の方が、結局は評価の基準になっていることが多いと感じる。特に明確に履歴が
残る仕事関係の場合はその傾向が強い。

 ただ気になったのは、電子書籍に関する記述。

 著者は「印刷書籍と電子書籍は値段は同じ。読み手が受け取るコンテンツが同じならば本来同じ値段が妥
当」としているが、これには疑問がある。対価を受け取る「著者、出版社」側に立てばそのような主張がで
きるのだろうが、「読者」の側からすると、印刷の手間もなく、流通在庫も不要で、取次への手数料もかか
らない電子書籍は、製作コストに見合った適正利潤を上乗せしたのが本来あるべき販売価格という考えに立て
ば、印刷書籍よりも安くて当然ではないだろうか。

 実際にこの本「読書の価値」も新書版は886円で、電子書籍版は842円(4月7日時点)であり、価格は同じ
ではない。著者の思い違いだと良いのだが。

 最後に、本書は具体的な読書のオススメ本を紹介していない。「本」を選ぶのはあくまで本人であり、そ
こに人間としての「人」の選び方が反映されるからだ。