如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

元国税調査官「定年前後の収入確保のテクニック」を伝授、ちょっとした手続きで100万円の差

やってはいけない老後対策

2018年4月30日

 元国税調査官が語る「資金、生活面での定年後・老後対策」である。
 
 対象は、サラーリーマンから自営業者までカバーしているが、公的年金の現状と有利な受け取り方(第1
章)、退職金の受け取り方(第2章)、定年後の収入確保(第3章)、リタイア後の住居(第4章)、年金の
もらい方と相続対策(第5章)、とこれから定年、退職を迎える人にとっては関心のあるジャンルをほぼすべ
て網羅していると言っていいだろう。

 本書でも、他の老後対策本にあるように、「生活のダウンサイジング」「確定拠出型年金など自分年金」
「リバースモーゲージ」などが挙げられているが、個人的に興味を持ったのは「クレジットカード」を作る
というアドバイスだ。現在も数枚利用してはいるが、近くのスーパーやドラッグストアなど定年後も利用す
る店舗のカードは確かに年金収入だけでは申請できない可能性が高い。

 あと、65歳の2日前に退職すると、それ以降の退職日に比べて雇用保険の受取額が100万円近く得をする
というのも実践的なアドバイスだった。ほかにも定年後のアルバイトは年末調整されていないことが多いの
で、確定申告で10万円以上還付されるというもの「目から鱗」だった。
 
 元国税調査官として、「税務署は税金の未納や不足は容赦なく督促するが、納めすぎた税金を自動的に返
すことはあり得ない」というのは事実だろう。個人的な話で恐縮だが、母親の介護保険料は「過払いの分を
還付する」との連絡が役所から来たが、財務省と厚生労働省では納税者に対する考えが「税金は取り合えず
むしり取るもの」「税金は決められた分を頂くもの」ぐらいの差があるのだろう。

 後半は「老後資産をどう増やすか」がテーマだ。
 筆者が勧める投資と、そうでない投資の例の一部を以下に引用する。
   オススメの投資:配当目的の株式投資、NISA、変動金利10年国債
   回避すべき投資:不動産投資、借金をしての起業、フランチャイズ経営など
   中立な立場:金投資

 以上のように、総じて退職を目前に控えた人にとっては有用な情報が多い(他の老後本と被る内容もある
が)。読んで損はしないと言っていいはずだ。ちなみに月数万円を稼ぐプチ企業の始め方や、個人事業を法
人化することによる経費のメリットなどにも触れており、税の専門家らしい退職後生活の上級者向けのアド
バイスも豊富だ。

 一方で、第4章「リタイア後の住居で最後が決まる」には、やや疑問が残る部分があった。
 筆者は、「精神的な安定感」「資産価値」という点から賃貸よりも持ち家を勧めている。
 定年後の資金繰りや生活を考えるとあながち間違ってはいないと思うが、「マンションは管理費と修繕積
立金が2-3万円で済む」というのはどうだろうか。築年数が経過するほど修繕積立金は上がる一方だし、一時
金徴収の可能性もある。加えて築40年もすれば「建て替え」という大問題が現実問題として迫ってくる。戸
建てであればボロ屋になっても自分の都合で修繕の費用・時期は調整可能だが、マンションはそうはいかな
い。

 となると、戸建て保有者は別として「マンションの賃貸」が視野に入ってくる。本書では「都心で2DKを
探すと10万円以下は難しい」としているが、東京であれば都民住宅なら郊外で3万円台からいくらでもある
のが実情だ(より安い都営住宅という手もあるが厚生年金を受けていると収入制限に引っ掛かるはず)。こ
れはマンションの管理費・修繕積立金とほぼ同じ金額で、しかも礼金、更新料、手数料は不要だ。駅からは
比較的遠い物件が多いが、最近はコミュニティバスも充実傾向にある。

 個人的には「賃貸」「持ち家」や「戸建て」「マンション」に拘らず、自分のライフスタイルにあった
「住まい」を見つめ直すのが大事だと思うのだが。