如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

フィルターは必要悪だが、乗り越える策はある。「就活の見える化」を提言

 

学歴フィルター

2018年6月1日

 5月末という就活シーズン真っただ中に、「学歴フィルター」とは実にタイミングよく出版された本である。

 内容は学歴フィルターの現状について具体例を用いて解説、フィルターに引っ掛かる学生への対応策や、フ
ィルターの弊害解消のための方策も提起している。

 基本的なスタンスは、「学歴フィルターが存在するのは事実だが、それを乗り越えたいと頑張る学生を応援
したい」だろうか。

 本書では、大学をその入試偏差値から「上位校」「中堅校」「低選抜校」の3つに分類、「大学通信」が一
部メディアを通じて発表する「有名400社の実就職率」を引用し、この比率が高いのが「上位校」に集中して
いることや、また大手企業の子会社では、親会社と違って「上位校から低選抜校」まで満遍なく受けるため、
より学歴フィルターが必要になるという実態を紹介している。

 就職ナビの普及でエントリーシート(ES)によるネット応募が容易になったため、本書にもあるが30人程
度の募集に1万人以上が応募するような人気企業では、人事部門の処理能力から見ても学歴フィルターを使わ
なければ現実問題として対応できないのが実態だろう。
 
 著者は「学歴フィルター」に否定的な立場だが、一方で「優秀な学生の出現率は偏差値に比例する」ことも
事実として認めている。面接で評価される「能力」や就職活動における「意欲」も低選抜校の学生は上位校に
見劣りする、と論じている。

 ただ第5章で「経済的な事情で自宅から通える中堅私大に進学、ほぼすべての授業を『優』で卒業、就職し
たが、奨学金の返済が心配だ」と自らの事情を伝える元大学生の例をあげ、「彼がもっと恵まれた環境であれ
ば、さらに上位の大学に行けたのではないか」と気持ちを寄せている。

 確かに、この例のような不運な環境においても頑張る「中堅校、低選抜校」の学生もいるだろう。ただ一方
で、特に「低選抜校」では「親がとりあえず大学に行っておけというから」とか「高校の教師がお前でも行け
る大学があるというから」などの理由で、進学する方が圧倒的多数ではないだろうか。

 よって元来勉強する意志のない学生しか集まらないから、積極性や向上心などは望むべくもなく、就職にあ
たって何の努力もせず、そういう学生ほどひたすらESを有名・人気企業ばかりに送りまくって、「学歴フィル
ターのせいで何百社も落ちた」などと社会に八つ当たりするのである。このような学生対策としては「学歴フィ
ルターは有効」と言わざるを得ないだろう。

 筆者は少数派である「不運な学生の環境」を見過ごせない立場のようだが、経済的に不遇でも意欲があり優
秀な大学進学希望者には、政府が給付型の奨学金をさらに手厚く(下宿生活の費用も含めるなど)すればよい
話だし、大学側が学費免除の特待生制度をもっと拡充するという手法もある(実際に杏林大学医学部や防衛医
科大などでは指定された医療機関に医師として一定期間勤務すれば学費免除になる。また、Fランクではある
が横浜商科大学では英検か簿記の2級以上を持っていると学費はかからない)。

 最後に筆者は、学歴フィルターの問題解消に向けて、上場企業に競争倍率や内定者全員の出身校名と校名別
の人数の開示を義務付けること、などを提案している。
 この発想は私にはなかったので新鮮だった。確かに「異常な競争倍率が是正される」という効果はあるかも
しれない。また、採用校があまりにも偏っている場合、企業が社会からの目線に配慮して、学歴以外の側面か
ら学生を評価する動きが強まる可能性もある。

 「学歴フィルター」という言葉としては一般的ながら、正確な実態はいまひとつ明確ではなかった概念を、
具体的な事例、過去の経緯や欧米での実情なども交えて、その功罪を解説するという点ではよく書かれている
と思った。★5で。