如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

著者得意の独自ネタが満載、金融業界を中心に世の中の仕組みの実態に迫る

 

「階級格差」時代の資産防衛術

2018年6月10日

 須田氏の著書は何冊か読んだことがあるが、世の中であまり語られない金融関係の「裏事情」に精通してい
るというイメージがあったが、本書でもお得意の独自ネタが満載である。

 ネタのオリジナルを売りにする金融関係の本はあるにはあるが、須田氏のすごいところは、その取材フィー
ルドが「東京千代田区の番町」という超富裕かつ名家層(成金は対象外)しか住むことができない地域から、
その対極に位置する「大阪西成区の釜ヶ崎」にまで及ぶことだ。

 さて本書の趣旨は、「中流層が下流層に落ちる可能性は急速に高まっている。生活を防衛するには、世の中
の仕組みを知る必要がある」ということに尽きるだろう。

 その対象として、「仮想通貨」「投資商品」「銀行」などの本質的な問題点を具体的な事例を交えて鋭く指
摘している。詳細は本書を読んでもらうとして、個人的に参考になった部分を紹介したい。

1.トヨタ自動車は、下請けの中小企業の部品代などを引き上げるという意向を示した経済界に対して「これ
まで値下げの要求をしてきたが、今期はしない」という意向を表明、それまで表沙汰にしていなかった値引き
要求存在の事実を認めた。しかも半年後には値引き要求を再開した(序章)

2.JR東日本が展開するICカード(Suica)の入金金額の上限が2万円なのは、セキュリティが不完全なため。
この結果相当規模の資金が盗まれており、開発元のソニーは相当規模の損失が発生している(第1章)

3.TOKYO MXテレビの第二放送で放送しているマーケット情報が、買い手に有利なポジショントークばか
りで、株価が下がるとお通夜のムードになる。著者はこれを「お笑い番組」として事務所で流している(第2
章)

4.消費者金融の融資申込書には、(その使途を記入する)目的欄があって、そこには「競馬」「パチンコ」
などの項目がある(第3章)

5.下流階級の中でも最下流に甘んじている人たちは、働き方や職場環境に問題があるのではなく、「より高
い時給で働こう」という向上心のなさ、いわば本人の意識の問題ではないか(第4章)

6.個人が投資するには安全性などを踏まえると「利回り」重視の債券投資が望ましいが、日本国債よりも利
回りの高い米国債は、手数料無料で購入できるのに、証券会社は店頭でセールスをせず隠している(第5章)

 これら以外にも様々な視点から業界の問題点や本音を炙り出しており、参考になる情報は多かった。

 将来の資産確保のために「資産運用は『分散投資』『長期保有』が大事」といった在り来たりの投資解説本
を卒業し、金融業界がいかに自分たちの都合優先で動いているかを知るには、もってこいの一冊である。