如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

問題先送りはあと20年が限界――「核技術」は安全保障のうえで必要不可欠

 

逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界

2018年6月16日

 東大経済学部卒→経済産業省キャリア官僚(7年半)→フリーランス(5年半)という経歴を持つ著者が、
日本の抱える「社会保障」と「安全保障」をテーマに問題提起をする本である。

 第1章では、日本の政治を「次の選挙のために2~3年スパンでしか考えない与党議員」「与党議員の意向
を踏まえて対処療法的な政策で対応する官僚」「政権・与党をスキャンダルで批判し足を引っ張る野党」とい
う『三すくみ』の状態にあり、問題の「先送りシステム」が回っているとしている。

 まあ昨年来の国会を見る限り「モリ・カケ問題」に振り回され、中国・北朝鮮など周囲を取り巻く国際問題
にまともに対応できていない現状では、この指摘も正しいと言わざるを得ないだろう。

 ただ第2章の「社会保障の先送り課題」にあるように、現在は国債を民間部門が引き受けることで政府債務
の問題は表面化していないが、この仕組みももってあと20年。団塊ジュニア世代が高齢者となる2036年から
2040年ぐらいには、この「先送りシステム」が限界となり(第2章)、年金の減額や課税強化、医療サービス
の自己負担や消費税の引き上げが行われる(第4章)としている。

 巨額の政府債務問題が永遠に先送りできるというのは土台無理な話で、20年後かどうかは別にして、増大す
一方の社会保障費を賄うべく国債の引き受け先を海外に振り向けないのであれば、政府予算の中で大きな比
率を占める社会保障の減額はやむを得ないのだろう。

 ただ個人的には、年金の減額等はそのまま生活保護の増大につながるのではないか、と危惧しており、結果
として社会保障費用の削減にはならないのではないかと思う。

 金利もあと20年現状の水準が続くとは思えず、物価の上昇で生活者の家計は厳しくなるだろし、AIの普及で
相当量の労働が削減される影響も大きいはずだ。社会不安が拡大する可能性は決して低くない。

 また著者は原子力発電について、核燃料サイクルの実現によって「核兵器保有国になれる」という状況を維
持することは安全保障上も必要であるとし、原子力発電の「負」の側面も含めて徹底的に付き合っていくべき
と論じている。

 これについては意見が大きく割れるだろう。もともと「安全」という前提で進められていた原子力発電の論
理が「福島原発」で破綻したわけで、もはや想定外の事故が起きるのを前提に話を進めるべきだろう。
 
 ただ石油、石炭の輸入に依存する現状も将来に渡って保証されている訳ではないので、原子力を認めないな
らCo2を排出する化石燃料への対応をどう位置付けするのか、もしくは消費電力そのものの削減を選択するな
ら、今後急激に需要が増えるEVへの電力供給をどうするのか、など解決すべき課題は多い。

 素人レベルの話で恐縮なのだが、現状の原発の改善・維持に費用をかけるなら、「核暴走が起きず」「高レ
ベル廃棄物が出ない」とされる『核融合炉』の研究・開発に資金や人材を振り向けた方が、中長期的には合理
的ではないかと考えている。

 最後に著者は、以上のような不安材料を提示したうえで「日本の未来は明るい」と述べている。これは「理
屈」ではなく戊辰戦争以来多くの苦難を乗り越えてきた「歴史」に依るとのこと。

 これはもう「予想」というよりは「希望」に近いような気もするが、キャリア官僚という地位を捨てて、
フリーに転じ、相当な苦境を乗り越えてきた著者にとっては、「国民の選択・対応次第で何とかなる」という
ことを言いたいのだろう。

 非正規雇用の拡大、終身雇用の崩壊、専業主婦の激減など、これまでの日本を支えてきた制度・システムが
きな変換点を迎えているのは間違いない。

 「変化はチャンス」という言葉通り、著者を含む今の30代の若者がリーダーシップを取って、数十年後の日
本が再び世界での存在感を高めていることを期待したい。