如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

ストレスは人を殺す。対応策は「防御」と「撤退」

 

本当に怖いキラーストレス 頑張らない、あきらめる、空気を読まない

2018年6月19日

 東京・銀座でクリニックを営む精神科医の書いた「ストレス対策本」である。

 夜9時まで診療していることもあって、付近の高収入のビジネスマンの受診者が比較的多いようで、彼らが
精神面で不調に至った経緯や症状などが具体的に紹介されている。

 例えば、ある世界的なコンサル会社では、毎年社員の下位50%に退職勧告を実施、会社側が過酷な労働を要
求している訳ではないが、社員側が常に「評価」を気にして必死に働かざるを得ず、結果として精神的に追い
込まれるという事例を紹介。

 昨今問題となりつつも、一向に減らない上司による「パワハラ」に加え、最近ではモンスター部下による「
逆パワハラ」が急増しているという。就職が売り手市場になり、ようやく採用した新人の育成ができないと、
指導できない上司の責任が問われるらしい。

 また、ヒエラルヒーの底辺で、収入格差と人間関係に悩む派遣社員のストレスも拡大しているようだ。

 著者はこれらの原因として日本人独自の「自己犠牲の精神」が影響しており、最終的には「逃げるしかな
い」とアドバイスしている。

 そのうえでサブタイトルにもある「頑張らない」「あきらめる」「空気を読まない」の3つをストレス対策
として挙げている。

 まずは「やればできる」と思い込むから限界を超えて「頑張ってしまう」訳で、勝ち負けにこだわる負けず
嫌いなお人ほど、まずはこの意識改革が必要。

 次に、自己啓発本によくある「自分が変われば、他人が変わる」を信じないこと。ここでは実例を挙げて、
いかに自分が「いい人」になろうとしても、結局そのツケはストレスとして自分に回ってくるからだ。とにか
く「いい人」になることを「あきらめる」ことが大事。

 最後に、これも最近よく聞くキーワードとして「共感」があるが、他人の気持ちを理解する「共感」はして
も、同じ態度、意見になる「同調」は回避すべきという。日本人は集団になると同調圧力が働き、自分の気持
ちを抑え込みがちになるが、あえて「空気を読まずにいる」方が、結局はストレスを溜めずに済むとしている。
 
 個人的には、2番目の「自分が変われば、他人も変わる」というのが間違い、というのは合点がいった。

 これも日本人の自己犠牲の気性に関係があるのかもしれないが、「他人を変えることができる」というのは、
大きな誤解というか自己能力を過大評価し過ぎである。

 所詮他人なのだから、「そういうもの」として、それ以下でも以上でもないとある意味「見放した」方が合
理的だ。個人的にはこれは家族にも言えると思っている。

 逆の言い方をすれば、他人も「自分のことをその程度としか思っていない」と割り切った方がはるかに精神
的に楽だろう。冷静に周囲を見回してみると、自分が思っているほど世間は自分を目にとめてもいないし、気
にもしていないものである。

 本書は、本文以外にも「おわりに」で、多くの社員が通院しているという大手IT企業をストレスが原因で退
職した人たちを集めたディスカッションでの発言を紹介している。この発言は、彼ら彼女らが「自分たちの症
例を使うことで救われる患者がいるはず」という意思から掲載が実現したものだ。

 精神疾患を起こした職場の熾烈な実態やその後の回復過程など、現在ストレスで悩んでいる人には参考とな
る事例も多いはずだ。