如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

50代に立ちはだかる36の壁、残留組・独立組双方への現実的なアドバイス

 

会社人生、五十路の壁 サラリーマンの分岐点

2018年7月18日

 主として50代のサラリーマンに向けて書かれた、元みずほ銀行員で作家の江上剛氏からのメッセージである。

 現在50代のサラリーマンは、定年までの自分のポジションが見えているものである。多くは現状の管理職が
ほぼ限界で、今後は役職定年か関連会社への片道出向などを選ぶ(第二章)か、転職するかもしくは独立する
(第三章)かのいずれかの選択が迫られる。

 著者は銀行退職後、ハローワークに行って相談員から「あなたは高くて不味いレストランと同じで誰も行か
ない。冷静に自分に何ができるか考えなおして出直してきなさい」と応募書類を突き返されている。本人には
相当なショックだったらしい。
 
 作家として成功した著者は別格として、大企業の管理職で社内調整しか取り柄のない人物ほどこういう結果
になるのは必然な訳だが、結論として著者は「恥ずかしいことではないから会社にしがみつくのが一番」とア
ドバイスしている。私の周りでも自分の力(営業力や技術力)を信じて独立した人がいるが、ほぼ全員その後
音信不通となっている。まあ私に伝わってこないだけで起業自体は順調なのかもしれないが。

 さて第二章では「会社に残る続ける派」の生き方がテーマ。各種ある「壁」のなかで、まず最初に気になっ
たのは「出世の壁」。著者は「無能にならなければ出世できない。有能だと上司が嫉妬し潰しにかかる」とし
ている。

 出世の世界にはこういう側面もあるだろうが、有名なピーターの法則では「有能な社員は出世するが、いず
れその役職が果たせなくなる段階で無能となり出世が止まる」とし、評価する上司よりも本人の資質の問題が
大きいとしている。

 「パワハラ」だ「モラハラ」だと騒がれるこのご時世で、露骨な部下イジメが発覚し、ネットで拡散したら、
企業の社会的ダメージも免れず、自分への評価に影響することを考えれば、そこまで度胸の据わった「嫉妬心
の強い」上司がそうそういるとは思えないのだが。

 気になったもう一点は、「滅私奉公の壁」にある「副業よりもボランティアの方が会社以外の自分を発見でき
るよい手段」として、人は「他者に認められ、喜ばれる時、生きがいを感じる」と論じていること。

 これは個人的な意見だが、このように感じるのは自分の人生に資金的、時間的余裕があって、健康上の問題
がない中高年だろう。

 例えば、おカネに余裕がない人にボランティアを勧めて、「『ありがとう』という感謝の言葉で満足してく
ださい」というのはやや傲慢ではないだろうか。所詮聖職者ではないわけで、少なくとも交通費と食事代プラ
スアルファぐらいの報酬を得られるから続けられるという人の方が多いと思う。

 第三章では、「会社を辞める派」へのアドバイスだ。ポイントは「やりたいことを勤勉にやれ」だ。当たり
前ではあるが。

 面白いのは、「辞められる人になるために何をしたらいいか?」という問いに「50代になって今更こんなこ
を言う人は辞められない」と断言していること。

 これは至って正論で、社会人の新人が「僕何をしたらいいですか?」と問うのに等しいレベルである。こう
いう人こそ先述した著者が体験したような「ハローワークでの現実」を思い知った方がいいだろう。

 最後に第四章ついて。著者は「副業はサラリーマン生活の再建のチャンス」としている。長年の会社生活で
得たスキルを洗い出して見直し、いろいろな手段を使って世間にアピールすることから始めるべきとアドバイ
スしている。

 最初は仕事がまず見つからないだろうし、あっても「塵(チリ)」のような仕事しかないかもしれない。
ただ、「この塵を積み上げていけば定年の頃にはそれなりの高さになっている」というのは一つの見識だろう。

 50代となって会社内での自分の居場所に戸惑い始め、不本意ながらこのまま会社に残るか、自身の強みを見
つけて独立するか迷っているサラリーマンにとっては、双方の立場を理解する著者の意見は参考になることは
間違いないはずだ。