如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「知って驚いた」マスコミが伝えない世界の政治情勢

 

知らなきゃよかった 予測不能時代の新・情報術

2018年8月18日

 高い教養と知性で知られる池上彰氏と佐藤優氏が、日本や米国などの世界情勢について対談する本である。
 
 取り上げるテーマ自体は、北朝鮮の今後、劣化する日本社会、トランプはどこへ行く、独裁化する社会など、
特段目新しいものではないが、その内容が実に興味深い。二人とも日本のマスコミでは報道されていない事実を
次々とさらけ出し、独自の視点から分析し、相手がさらに深い解釈で返すという、中身の濃い「対談」になっ
ている。

 例を挙げると、日本政府は以前から北朝鮮が「よど号ハイジャック犯人」を引き渡すという話を断ってきた、
という話。そのココロは「ハイジャック防止法成立前の事件なので裁判にかけても軽い刑にしかならないか
ら」。実際問題、当時大事件となった亡命事件の犯人が懲役数年という結末になったら世論が黙ってはいない
だろう(ちなみに犯人は無罪帰国を要望しているらしい)。
 
 また北朝鮮が国内でテロ活動を行う可能性について、佐藤氏はイスラエルのテロ専門家の話として「テロは
北朝鮮が実行するが、犯行声明はイスラム国が行なう可能性」を紹介している。北朝鮮が実行犯では国際的な
インパクトが弱いので、イスラム国の名前を借りて日本でテロを行ったことにすれば世界的な影響度は遥かに
大きいし、捜査もかく乱できるという見立てだ。

 アラビア半島が混乱し、トルコやエジプトがおかしくなるなかで、イランの存在感が増してくるという話も
勉強になる。イランについては、池上氏が、その国が発展するかどうかは書店の数と、どんな本が並んでいる
かで判断するとし、イランには書店が多く、地図の専門店まである、と解説している。

 またJICAの関係者の話として、日本が技術支援する場合、他のアラブ国家が「丸投げ」するのに対して、
イランは「まず自分達でやってみるので、うまくいかなかったら教えてください」というスタンスだと紹介し
ている。イランはアラブのなかで将来有望な数少ない国家のひとつなのだ。

 恥ずかしながら私は、イランもイラクもサウジアラビアも全部「中東のイスラム教の産油国」ぐらいのイメ
ージしか持ち合わせていなかったので、この認識を改めさせられた。

 このほか、第五章の「本当は恐ろしい新しい常識」にも勉強になる事例が豊富に記載されている。

 最後に、どの章も内容は濃いが「対談」というスタイルを取っているので、一つひとつの文章は比較的短く、
奥の深いテーマの割には読みやすいと感じた。マスコミに報じられない世界情勢の裏側を知るという意味でも
一読の価値はあると思う。

【追記】
 池上氏は「日本が核武装できない理由」として、燃料、実験場の確保や資金面から事実上不可能、としてい
る。
 これはもっともではあるのだが、「事実上不可能(だから作れない)」と宣言するよりは、原発も保有してい
るので「作る作らないは別として技術的には製造は可能」という立場の方が安全保障上は有効ではないかと思
った。
 今後どのように交渉が展開しても、北朝鮮が核兵器を保有し続ける可能性は残るのだから、日本が一方的に
手持ちの核カードを捨てる必要はないのではないだろうか。

 ただし現状では、核兵器不拡散条約(NPT)第二条によって、「各非核兵器国は核兵器を製造せず、取得しない
ことを約束する」と縛られているので、事実上核カードは持てないことになってはいるのですが。