如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

勉強になるのは確かだが、タイトルはやはり「論文の書き方」が妥当では?

 

情報生産者になる

2018年9月7日

 著者が「あとがき」で書いているが、本書のタイトルは「論文の書き方」でもよかったが、それよりも広い
情報発信者になるためのノウハウを網羅している、との理由から「情報生産者になる」としたそうだ。

 ただ約380ページという新書としては相当文章量の多い本書を読んだ感想は、内容が濃く勉強になるが「や
はりタイトルは『論文の書き方』の方が適切ではないか」だった。

 というのも、第一章「情報生産の前に」の主たるテーマは「研究」で、問いの立て方などの解説がメインと
なり、これは論文の前提条件であろう。

 続く第二章「海図となる計画をつくる」は、論文の概要を形作る「研究計画書」の書き方が大半を占めてい
る。 第三章も論文には欠かせない「仮説」の立て方の説明が主たる内容だ。

 第四章では、情報分析の手法として有名な「KJ法」とそれを発展させた「うえの式質的分析法」の具体的な
活用方法が書かれている。この内容自体は「論文」に欠かせない内容ではないだろうが、一方で「情報発信者」
にとっても必須の手法でもないだろう。

 ちなみに私は30年以上前に大学のゼミでKJ法を勉強したが、現在も有効な情報分析ツールだとは思いもしな
かった。当時は夏合宿でKJ法を実践したのだが、朝から始めて終わったのは日付が変わった頃だった覚えがあ
る。
 詳しくは本書を読んで頂くとして、個人的な感想を言えば、「メンバー全員が納得するまでとことん議論し
て結論を出すための手法」というイメージしかもっていない。対時間効果が良いか悪いかは別にしてだが。

 第五章「アウトプットする」では再び論文にテーマが戻って、目次に始まり作法など「書き方」の解説とな
る。ただこの章には、普通の人が普通の文章を書く際にも参考になる情報が含まれている。

 具体的には、「結論先取型で書く」「裏ワザは使わない」「知っていることをすべて書かない」などだ。特
に引用の手法については再認識させられる点もあった。

 第六章は「読者に届ける」。この章だけは論文と直接関係のない「情報生産者がどうやってメッセージを届
けるか」について言及している。誰をターゲットに何のメディアを使って伝えるかなどの解説が主体だ。

 という訳で、本書の大半は「論文」に関する内容であり、一般的な情報生産者にとって直接参考になるのは
第六章の50ページ弱となる。これが本書のタイトルが「論文の書き方」の方が良いとする根拠だ。

 私が何故ここまでタイトルに固執するかというと、「情報生産者」というタイトルに惹かれて買って読んで
はみたものの、「想定していた内容と違う」という人が私を含めて少なからずいると思うからだ。

 ちなみに、Amazonの本書の商品の説明にある「内容紹介」にも「内容」にも、本書のメインテーマである
『論文』という文字はどこにもない。ついでに言えば、この紹介文の最後には「この一冊で、あなたも情報生
産者になれる!」という迷文句まで付いてくる(9月8日時点)。

 購入意欲を掻き立てようとする出版社側の狙いは理解できないでもないが、いくらなんでも紹介文と内容の
不一致がひど過ぎるのではないか(良識ある著者は内容紹介に直接関与していないとは思うが)。

 最後に本書で最も参考になった一節を紹介したい。240ページにある「論文のコミュニケーション技術とは
説得の技術であって、共感の技術ではない」という一文。

 小説などは読者の「共感」が重要になるのだろうが、普通の文章を手掛ける情報生産者にとっては読者を
「説得」できるか、もしくは「納得」させられるかどうかが大事だということは改めて考えさせられた。

 誤解のないように繰り返すが、本書は「論文の書き方」としてはとても勉強になるし、分かりやすい良書
である。残念なのは「タイトル」だけなのだ。例えば「情報生産者になるための秘訣、『論文』のススメ」だ
ったら★5だったかも。