如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

マカオのカジノの実態を解説。成功のカギは中国の富裕層

カジノエージェントが見た天国と地獄

2018年10月13日

 世界のカジノ先進国「マカオ」で働く著者が、カジノの仕組みをギャンブルに詳しくない人も分かるように
丁寧に解説する本である。
 
 日本でも、今年カジノ施設を含むIR実施法が成立したが、総じてカジノに対する世間の風当たりは強いよう
だ。批判派が主張するのは、治安が悪化する、裏社会が関与する、ギャンブル依存症が増える――などで、一
方推進派は、海外からの観光客によるカジノ収益や、国内雇用、設備投資などの経済効果が見込める――とい
うのが主な理由だろう。

 双方にそれなりの言い分はあるだろうが、実際にカジノがどのように運営されていて、どうやって収益を上
げているのかをちゃんと理解している人は、私を含めて意外と少ないのではないだろうか。

 本書は、6年間マカオのカジノでエージェント(富裕層の世話全般を受け持つ)として働く著者が、マカオ
のカジノの内部事情にまで踏み込んで説明している。反対派の人も賛成派の人も是非本書を読んで、カジノの
儲かる仕組みや抱える問題点を理解してほしい。

 結論から言えば、マカオのカジノは「中国からの富裕層の遊び先として成立している」ということだ。中国
では、旧来の賄賂やバブル景気で1億円以上の金融資産を持つ人が1億に以上いるそうだが、本国には大金を
出して遊べる施設がないので、マカオのカジノ(ギャンブル)が対象になるらしい。ただし、外国への資金送
金や持ち出しは厳しく制限されていることも影響している(マカオも上限は高いが規制対象)。

 では賭ける「種金」をどうやってマカオで引き出すのか、という話になるのだが、詳しくは本書を読んでほ
しい。簡単に言えば、資金洗浄を専門とする業者が介在するということなのだが。

 ちなみに富裕層の遊ぶVIPルームは一般客の施設とは完全に切り離されていて、ほとんどの客が1億円以上
の保証金を入れて、1回の最低掛け金は140万円からで上限は事実上ないそうだ。この結果、カジノにとって
は100人の一般客よりも1人の富裕客の方が儲かるという構造になっている。

 著者は、立場上日本のカジノについても、資金洗浄と依存症への対策を前提に誘致に賛成しており、日本の
「おもてなし」に代表されるサービス力の高さが、中国の富裕層を引き付ける強い武器になるとしている。

 個人的には、競馬、競輪など公営ギャンブルに加え、パチンコまで存在する日本にこれ以上「賭け事」が必
要なのか、また長い目で見た場合カジノ自体、企業の技術開発や個人の能力向上といった日本の将来に繋がる
産業とは言い難いだけに、積極的には賛成しにくい。

 ただ、人口と税収の減少に悩む自治体が、新たな観光資源として誘致し、生き残りを図ろうとする気持ちも
理解できる。外国からの観光客が日本見学のついででもいいから、カジノに寄っておカネを落としてくれれば、
地方にとっては有難いことではある。

 問題は著者が言うように、カジノの「誘致」することではなく、どうやって「運営」を続けるかだろう。法
案名が「統合型リゾート」というぐらいだから、カジノ以外の家族全員が楽しめる例えばディズニーリゾート
ような施設を併設し、年間を通じて大勢の集客が見込める独立した観光名所となれば、「カジノ」の持つ悪印
象も薄らぐかもしれない。

 もうひとつ懸念されるのは、カジノ運営のノウハウがない日本は、米国を中心とする海外資本に運営の基本
を委ねるしかなく、その結果利益の大半を上納金として持っていかれる可能性が高いことだ。「労多くしてカ
ネにならず」だけは勘弁してほしい。