如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

栄枯盛衰、ライバルとの競争、改めて知る地方都市の現状と課題

 

地方都市の持続可能性

田村 秀

2018年11月7日

 本書のテーマは「地方都市」である。

 著者は、自治省出身の地方自治の専門家で、住居のあるさいたま市と勤務地の新潟を毎年50往復、講師とし
て年間20-30回の出張をこなしていたそうだ。その意味では、実際に地方都市の現場を熟知している訳で、本
書も、具体的な事実やデータに基づく興味深い解説が非常に多いという特徴がある。

 全5章から構成されるが、第1章と第2章は、現在の全国の都市の現状や平成の大合併、道州制などの解説
が中心で、正直に言ってあまり興味をそそられる内容ではなかった。

 これが、地方都市の栄枯盛衰を扱った第3章「国策と地方都市」から一転して面白くなる。

 金・銀の採掘で天国と地獄を見た佐渡島、炭鉱で同様の経緯を辿った夕張市を紹介する一方で、同じ北海道
の炭鉱が出発点でも、生徒減で募集停止となった普通科の県立高校を、食物調理科の市立高校として改革、全
国の料理コンテストで実績を上げ、市外からの入学者が増えた結果、15-19歳の人口が増加に転じた三笠市を
成功例として紹介している。

 また、同じ元炭鉱都市でも、企業や大学誘致で成果を出した福岡県飯塚市、スパリゾートハワイアンズによ
る観光業で有名な福島県いわき市を取り上げているが、地方都市間の誘致活動の激化でこうした成功例は少な
いのが実態だそうだ。

 第4章は「都市間競争の時代へ」として、第1項では日立市、豊田市など企業城下町の経緯と現状を解説し
ている。この2都市は規模が異なるとはいえ、まだ勢いを維持しているが、シャープの液晶工場に翻弄された
三重県亀山市、日産の自動車工場閉鎖で財政が悪化した神奈川県座間市など、良くも悪くも「企業と一連托
生」が前提になる自治体には相当な覚悟が必要なことを指摘している。

 個人的に最も興味深かったのは第2項「代表的なライバル都市を比較する」だった。埼玉県の浦和と大宮、
群馬県の前橋市と高崎市、長野県の長野市と松本市、四国の高松市と松山市などで県庁設置などの主導権を巡
る激烈な攻防が詳しく解説されている。どこも過去の事情を引きずっており、特に長野県ではその都度「分県
運動」にまで発展するというのは、問題の根の深さを知ることができた。

 第5章「人口減少時代に生き残る都市の条件」で、これまでは人口の増加が都市繁栄の証とされてきたが、
これからは絶対的な決め手となるような指標はもはやない、と結論付けている。

 ただ、目標を定めその成果を検証するには、著者の指摘するように「数値などで可視化できた方が望まし
い」のは確かだろう。著者が例として挙げるのは観光客などの「交流人口」と、さらに広い意味で地域と関わ
ってくる「関係人口」だ。

 また、ふるさと納税についても著者は賛成派で、納税の使い道をより明確に示すことで自治体が納税額を競
い合い、結果として多くの住民が税金の使われ方に関心を持つことが地域の活性化につながる、という地方自
治の専門家ならでは見解を示している。

 つまり、都市部の納税者がふるさと納税をするのは、返礼品が目当てだけではなく、税金の使われ方に不満
持っているためではないかと推測している。

 実際、地方自治体に精通した著者の目には、自治体のコストカット意識は地方の方がはるかに厳しいと映っ
ている。特に都市部の自治体の現業職員数の多さ、給与水準の高さは「まだまだ濡れ雑巾の状況にある」とい
う。
 
 最後に、地方都市の生き残りの条件として、地域の個性を宝物として認知し、磨きをかけるという「地域の
魅力再発見」という地味で時間のかかる取り組みが一番だとしている。先行者のモノマネやまったく関連性の
ない事業ではダメなのだ。

 成果を上げている具体例として、長野市のリノベーション、大分県豊後高田市の昭和の街などを紹介してい
る。

 2020年のオリンピック開催に向けて、東京では湾岸地区を筆頭にタワーなど大規模マンションの建設が止ま
らず、価格も暴騰している。利便性や豪華な施設は住人には結構なことだが、人の住む「街」としての魅力に
は疑問を感じなくもない。不自然かつ無理な都市開発はいずれ限界を迎えるのは間違いないだろう。その原因
が人口減少なのか、景気の悪化なのか、自然災害なのかはわからない。

 ただ、「東京がコケたら日本全体がコケた」という状況にならないためにも、国の社会的資本や人口などは
ある程度分散させた方が、リスク管理上も望ましいのは確かだろう。

 ただし、政府が地方交付金や補助金に加え、総務省出身の幹部で地方自治体をコントロールしている限り
は、地方が東京を向いて仕事をするのを回避できないのも事実。

 消費税の使い道をすべて地方に移管して、「お金も権限も地方に引き渡すので、自由にやってください。そ
の代わり責任も地方にありますよ」とするのが、合理的かつ公平ではないだろうか。やる気も実力もある自治
体は水を得た魚のように発展するだろうし、そこまでの力量がない自治体は疲弊して合併を選択するかもしれ
ない。
 ただ、どのような選択肢を取るにせよ、地方都市が自らその将来を自由に選べるようになるという点だけで
も意味はあると思うのだが。

【追記】
 166ページに米国のデトロイトがGMの破綻などで2013年に全米一の規模の財政破綻となったことを紹介し
ている。
 まあ、ここまでは比較的誰でも知っている話なのだが、実はこれには「続き」がある。

 デトロイトでは最大28%まで悪化した失業率は、2017年夏に一時的に7%台まで低下、ダウンタウンのオフ
ィス占有率は90%台まで回復したそうだ。労働力の安さを背景にスタートアップ企業の誘致が奏功したらしい。

 復興を主導したのは、デトロイト出身のビジネスマンだそうで、やはり事業の成功のカギは「人」にあると
言えそうだ。