如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

勉強法というよりはシニア向け生き方の指南本

60歳からの勉強法 定年後を充実させる勉強しない勉強のすすめ

和田 秀樹

2018年11月7日

 過去に「勉強法」に関する著書を20年近く出し続けてきた著者が、これまでの資格取得等を目指す「イン
プット型」勉強法から、「アウトプット型」へと方針を転換、中高年向けに「勉強しない勉強法」について論
じた本、というのがタイトルを含めた本書の趣旨である。

 具体的には、
 (1)これまでの人生で蓄積した経験・知識などリソースを生かす(第2章)
 (2)自分の頭で思考する(第3章)
 (3)積極的にアウトプットする(第4章)

 の3本柱である。

 ただ、「リソースを生かす」に関して言えば、具体的な方法は第2章のうち108ページから3ページしか記
載がなく、解説が不十分な気がした。リソース自体その人の数だけで存在するので、カバーするには難しい内
容かも知れないが、引き合いに出される具体例が少な過ぎる感がある。

 この本を読んで「シニアとしての勉強法」を学ぼうという人は、おそらく自分のこれまでの実績や経験など
をうまく引き出せない、やや不器用なタイプの人が多いと思われるので、もう少し具体的に解説した方が分か
りやすいのではないかと感じた。

 次の「思考する」について。この章で著者が主張したいのは「思考の目的は、唯一不変の答えを求めるので
はなく、ものごとの捉え方にはさまざまな可能性があることを知ることにある」(p145)だろう。

 情報源に占めるニュースのまとめサイトやSNSの比率が高まり、自分の考えに合致する意見等へのアクセス
に傾く傾向が強まるなか、「異論・極論に接する」「比較読みで信頼性の高い著者を見出す」というのは、面
倒ではあるが自分の考え方の立ち位置を確認する意味からも重要だろう。

 「アウトプットする」についても、合点のいく指摘が多い。具体的には「上から目線のウンチク」を垂れな
いことと「聞く力」を大事にすること。

 これは自戒を込めてだが、シニア層は無意識のうちに「人生の先輩という身勝手な意識から一方的に話す」
状況にならないよう気を付けたい。他人のこういう行為にはすぐに嫌悪感を覚えるのだが、いざ自分の事とな
るとどうにも甘くなりがちなのだ。

 最後の第5章は、精神科医の立場から脳の劣化について。思考や意欲を司る前頭葉の萎縮が始まるのは40代
で、適切な対応を取らないと人間的機能が維持できなくなるという。

 複雑で刺激の強い偶発的な出来事が前頭葉を活性化させる一方、ルーティン化した日常生活が最悪の影響を
及ぼすそうだ。

 最後に、本書は著者が解説しているように、「勉強法」というよりは「生き方」のアドバイスという側面が
大きい。

 ただ、「勉強法」というタイトルを見て、勉強が嫌いなシニア層はそもそもこの本に関心を示さないだろう
し、逆に60歳を過ぎてなお勉強しようと考える積極的な人は、「リソース」「思考」などへの理解と対応はす
でに十分できているはず。

 その意味では、この本がどういった立場にあるシニア層を対象にしているのか、ちょっと疑問に思った。