如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

不動産投資は「投資」ではなく「事業」だ。サラリーマンは圧倒的不利

 

不動産投資にだまされるな-「テクニック」から「本質」の時代へ

山田 寛英

2018年11月11日

 『サラリーマン大家さん、不動産投資で年収アップ!』という広告を見て、その気になったり、疑問を持た
ない人は、間違いなく「不動産投資」に向いていない。

 この程度の宣伝文句に惑わされるようでは、魑魅魍魎が跋扈し、弱肉強食がまかり通る不動産業界で利益を
確保するのは不可能だろう。

 著者が本書を執筆したのは、このような安易な不動産投資に警鐘を鳴らすのが主たる目的である。その対象
は、銀行から借り入れが比較的容易なサラリーマンだ。

 本書のP60で解説しているが、冒頭の宣伝文句で注目すべきは「年収」というキーワードだ。賃貸物件を保
有すれば、当然のことながら賃料は入ってくるので「年収」は上がる。

 一方で、ローンの支払いや税金、管理費用などの「経費」もかかるので、差し引きではマイナスになること
が珍しくない。要するに不動産投資は「収入」ではなく、「収支」で考えるという基本中の基本ができていな
いという点で、投資不適格者なのだ。

 加えて、不動産業界は「情報の非対称性が確固として存在する」(P95)という、プロに圧倒的に優位な業
界という非合理な事情がある。

 本書でも解説しているが、不動産業界には証券業界のような「インサイダー取引規制」が存在しない。簡単
に言えば、不動産屋が値上がり確実な物件を事前に仕込んで、高値で顧客に売却しても何ら責任も問題も生じ
ないのである。

 ちなみに私は宅建士の資格を持っているし学生時代、不動産屋でバイトをしていたこともあるが、本当の優
良物件は市場に出てこない。業界の仲間内で回してしまうのである。当時不動産広告の出稿手伝いをしていた
が、実際に広告に出すのは決まって、黙っていては到底売れない「残りカスの物件」ばかりだった。

 また著者は、借金をして不動産投資をする時点で大きなハンディキャップを抱えていると指摘している。
人が住む住居用の不動産ローンに比べて数倍の金利を払うのだから当然である。

 すでに先祖代々からの土地持ち資産持ちで、キャッシュで物件を購入するような資産家は、利息を支払わな
い上に、不動産屋からも優良物件を早く紹介してもらえるという二重の有利な立場にある。
 
 普通に考えて、サラリーマン大家が極めて不利な条件で不動産投資を始めるという事実を冷静に考えれば、
多額の遺産を引き継いだか、自宅のローン返済が終わり手元に資産があるという最低条件をクリアできなけれ
ば、そもそも資産家や業界のプロを相手に勝負にすらならないだろう。 

 それでもあえて家賃収入という魅力から逃れられない人は、本書をまず読み、特に第4章の「絶対に負けら
れない人のための12の鉄則」を理解してからでも遅くないと思う。

【追記】
 個人的には、中長期的に日本の不動産相場の先行きに対して強い懸念を抱いているので不動産を投資先とし
ては積極的には考えていないが、預金金利がゼロに近い現状で、ある程度の賃貸収入利回りがどうしても欲し
いというのであれば、上場不動産投資信託(REIT)を勧める。

 物件の分散投資が可能になるし、利回りも4%以上の銘柄が結構ある。10万円(ETFならもっと安い)ぐら
いから投資できるうえ、税金や手数料も個別の不動産物件を買うよりは割安だし、流動性のある銘柄なら必要
な時期にいつでも換金できる。とにかく物件の維持管理に伴う負担から解放されるのが大きい。