如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

かなり尖ったAI主導の未来予測図。未来は「面白がった者勝ち」

 


ユーチューバーが消滅する未来 2028年の世界を見抜く

岡田 斗司夫

2018年11月19日

 個人的には「オタク系の社会評論家」というイメージを持っている岡田斗司夫氏の最新刊である。

 タイトルは「ユーチューバーが消滅する未来」だが、実際にYouTubeに触れているのは、第3章のP64から
P84までの約20ページで、残りの大半はサブタイトルにあるAIが主導する10年後2028年前後の社会全般の未来
図を描いている。

 まず序章で著者は、「20年、30年スパンで考えたら人間にはどんな仕事も残らない」と断じる。その根拠と
して「人間の90%は可でも不可でもない普通の人であり、AIが進歩するほど、人間はより無能になっていくか
らだ」としている。

 会社などの組織でよく言われるのは、「戦力になる」のは20%、「いない方がいい」のが20%、「いてもい
なくても関係ない」のが60%なので、著者の人間の能力に対する評価は、世間一般より平均値に集約している
のだろう。
 
 また続く第2章で、未来予測に必要な三大法則として「第一印象主義」、「考えるより探す」、「中間はい
らない」を挙げている。

 法則の詳細は本書を読んで頂くとしても、最初の2つの法則の影響が今後さらに強まる結果、人間のバカ具
合が進行するというのは容易に想像できるだろう。

 3つ目の法則の意味として著者が引き合いに出しているのは、芸能人、漫画家などの分野で才能を発揮する
業界人。将来、超メジャーな人は生き残るが、SNSなどの普及で、一般人の作った無料ながらそれなりに面白
いエンタメや作品が出回るようになり、そこそこ食えていた「中間のプロ」が不要になるという、という考え
だ。

 その他で参考になったのは、第3章にあるAIユーチューバーは、その「面白さ」「可愛らしさ」「毎日100
回更新するマメさ」を武器に、人間ユーチューバーを一掃する、という指摘。ごく一部の人は、AIが作り出せ
ないオリジナリティで勝負できるだろうが、それも長い期間継続的に提供するのは無理だろう。

 また、第6章のテーマ「恋愛」で、現在恋愛を楽しむには「リアルな彼氏/彼女と付き合う」か「架空の恋
愛話を楽しむ」の二択しかないが、リアルとバーチャルの境界が消えて、より魅力的な選択肢が増えたら、恋
愛のカタチが大きく変貌する可能性はあるかもしれない、という考えには妙に納得させられた。

 一方で、とても尖った主張で面白いとは思ったが、実現するのは困難だと思ったのが第5章の「アマゾンが
不動産業へ進出」。

 現在、不動産仲介業者に支配されている物件情報が、アマゾンで誰でも閲覧できるようになり、過去にその
物件に住んだ人や近隣住民のレビューが物件の新たな評価基準となることで仲介業者の優位性がなくなる、と
いう見立てだ。

 まあ、私も現在の不動産業界の閉鎖性の強さと順法意識の欠如には大いに問題アリと考えているのだが、レ
ビューを「参考」にするのならまだしも、物件評価の「基準」にまで適用させるのは、信憑性の観点から危険
度が高いと思う。現在でも恣意的なレビューの存在が一部で問題視されているアマゾンレビューにそこまで依
存していいのかは疑問だ(これまでレビューを書いてきた者としては複雑な心境だが)。

 著者はさらに踏み込んで、物件のレビューを書いたレビュアーまでもが評価の対象となり、レビュアーとし
ての評価が低いと「相場の倍の家賃を払わないと部屋を借りれなくなる」(P117)という可能性まで言及して
いる。

 ただ、著者が予想するようにレビュアーが過去に住んだ物件情報まで開示されるとなれば、個人情報を悪用
したストーカー行為まで対策を講じる必要があり、現実問題としてはそこまでの情報開示は困難だろう。

 その他にも、アイドル、家庭ロボット、監視カメラ、政治など様々な分野でAIが主導する様変わりした未来
世界を論じている。どれも実現性や主義主張などへの異論はあるだろうが、著者の「合理的な問題意識」には
同意できる部分が多かった。

 本書の最後に書かれている「最低限の生活が保障されているんだから、未来は面白がった者の勝ち」という
主張は、いささか楽観的に過ぎるようにも思える。

 ただ、時代の大きな流れであるAIの普及とその影響を悲観的に考えるよりは、筆者の立場の方が気持ちの上
で今後ずっと前向きな人生を送れるような気がするのも確かだ。