如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「暴言」なのか「妄言」なのか、それが問題だ

 

国家はいつも嘘をつく --日本国民を欺く9のペテン

植草 一秀

2018年12月3日

 厳しい安倍政権批判で知られる植草氏の最新刊である。
 
 いつの時代も権力者は批判に晒されるのは常なので、まあ予想していた内容ではあるのだが、読後の印象と
しては、良い悪いは別にして「よくぞここまで舌鋒激しくストーリーが展開できるものだ」だった。

 引用される各種データは間違いないだろうし、政権批判したいという意思が強く感じられるのは事実。私自
身、安倍政権を擁護すべき理由はないし、様々な問題で政府が「不遜な対応」をしているのは疑問の余地がな
。批判されても仕方がない側面はあるのは事実だ。

 ただ本書を読むと、どうにも政権批判のためのデータ引用と論理が前面に出過ぎのような違和感も一部に感
じた。

 気になった部分を一部引き合いに出すと、雇用者数の増加について「内訳を見ると、非正規労働者が73.7%
を占めた」(p22)とあり、非正規労働者の賃金など労働条件が著しく悪いことを指摘、批判している。

 確かに非正規労働者の比率が増えたのは事実だろうが、企業に65歳までの雇用(基本的に60歳以降は非正
規)が義務付けられたことや、著者の指摘する家計の実質賃金の低下で、専業主婦がパートで働き始めたこと
などの影響はないのだろうか。
 
 また、株価の上昇は全国に上場している4000社未満の企業を対象にしたもので、「日本の法人数400万社の
0.1%にも満たない」(p33)のも間違いではないが、2017年版中小企業白書によれば、企業規模別の売上高
の推移は、2012年以降一貫して大企業が中小企業を上回っている。

 大企業=上場企業という訳ではないが、会社の数が0.1%だから経済への関連性や影響度も同程度というム
ードを醸し出すのはやはり無理があるだろう。

 このほかにも、2003年のりそな銀行の自己資本不足問題で担当の公認会計士が自宅マンションから転落死し
たのは「他殺だと推察している」(p86)、1985年の日航ジャンボ機が墜落したのは「事故ではなく事件であ
った疑いがある」(p160)など、真偽のほどは分からないが一種の「陰謀論」とも思えるような記述もある。

 こうなるともはや「事実を根拠にした暴言」なのか、「ただの思い込みの妄言」なのか判断しかねるという
のが正直な感想だ。

 終章で著者は、何事も疑ってかかるべきで「自分の目で見て、自分の頭で考える」ことの重要性を説いてい
る。
 特に自分の頭で「考える」ことは間違いなく正論であることは私も同意するが、これをどのように実践して
も「共産党を含む反安倍政治連合を確立して日本政治が刷新され」(p256)ることで、日本が良い方向に向
かうとは到底「考えられない」のだが。