如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「病院難民」にならないための「患者力」を高めよう

その診断を疑え!

池谷 敏郎

2018年12月8日

 本書は「その診断を疑え!」というタイトル通り、間違った治療法によって病気が治らないで苦しんでいる
人向けに、その対処法を解説している。

 第一章から第二章までのテーマは「病院難民」。

「足の冷え」「胃がもたれる」など患者が訴える痛みを、医師がその根本原因を突き止められず、安易に投薬
などで対応することで、一向に症状が改善しないことも多いらしい。

 この結果、患者が「自分は別の病気ではないのか」という疑問を持つようになり、次々と新しい医師・病院
を求める「病院難民」への道を向かうことになるという。

 これは患者に取っては「何とか症状を改善したい」という思いからの行動なので一概に「止めた方がいい」
とは言いにくい。

 ただ著者は「もっといい医師ではなく、自分の言って欲しいこと、都合のいいことを言ってくれる医師を求
めた」(p84)ためではないか、と自分に問いかける必要性を説いている。

 第三章は「病院捕虜」。

 これは一人の医師やひとつの医療機関で囲い込まれて病気を悪化させる患者のことだ。

 日本の医師制度は「自由標榜性」といって麻酔科以外はどの診察科を名乗っても自由なので、専門知識がな
くても中高年向けの診療報酬が見込める「皮膚科」「美容外科」に鞍替えする医師が多いらしい(p114)。

 著者は、こうした「なんちゃって医師」が患者を診察すると、正しい判断をする能力がないか、他に紹介し
て自分の技量がバレるのが怖いのか、いずれにせよ患者を囲い込むことなると指摘している。

 実際に「鼓膜切開の手術を受けたと言う患者に手術の形跡がない」、「中耳炎と判断されたので総合病院の
耳鼻科を受けたら全く異常はないと診断された」(p115)という事例があるそうだ。

 第四章では、以上のような「難民」「捕虜」にならないように、「患者力」を高めて自分を守ることを勧め
ている。患者力を強める方法のひとつが、大病院とかかりつけ医を症状に応じて使い分けること。二つ目とし
て「病状を伝える力」の重要性を挙げている。

 また、セカンドオピニオンの具体的な受け方も丁寧に解説されており、これは参考になった。

 全体を通じて感じたのは、病気を治すにあたって「先生にお任せ」という時代ではないということだ。

 先述したように国家資格を持った医師とはいえ、得手不得手の分野はあるだろうし、専門外の治療には向い
ていないことも多いはずだ。患者は、症状に関する医師との対話のなかで「どの程度の自分に合った治療が見
込めるのか」を判断する必要があるだろう。

 自分の症状をどれだけ的確に伝えられるかという「患者力」、患者の症状と聞き取り内容からベストな治療
法を提供する「医師力」、このふたつがうまく噛み合ってこそ、双方が満足できる医療行為が成立するのだろ
う。