定年前 50歳から始める「定活」
大江 英樹
2019年1月11日
「定年後」をテーマにした本は多いが、本書はその前段階の「定年前」の生き方をアドバイスする本である。
著者が本書を通じて伝えたいことのベースには、「おわりに」に書かれている「『ねばならない論』と『べ
著者が本書を通じて伝えたいことのベースには、「おわりに」に書かれている「『ねばならない論』と『べ
き論』を排除したい」(p219)という強い意図がある。
長年サラリーマンとして自我を抑えて仕事に縛られてきたのだから、定年後は人それぞれ自由な生き方をす
べきという主張はもっともだろう。
とは言え、これまで学校や会社など組織に「いったん抜けて新たに入る」ことの経験はあっても、定年とい
とは言え、これまで学校や会社など組織に「いったん抜けて新たに入る」ことの経験はあっても、定年とい
う組織から「完全に抜け出る」ことは未経験なので、不安感が拭えないというのが実態ではないだろうか。
この不安心理の解消に役立つのが、第1章の「定年後7つの勘違い」だ。この章では、「定年後の暮らしに
は1億円かかる」、「地域の人達との付き合いを大切にする」など各種メディアなどで紹介される定年後の生
活上の注意点の“間違い”を正している。
また、老後のおカネをテーマにした第2章で参考になったのは、介護・医療費用で必要なのは800万円、定
また、老後のおカネをテーマにした第2章で参考になったのは、介護・医療費用で必要なのは800万円、定
年後は夫婦で月8万円稼げば十分、といった具体的な金額をデータを基にしっかり計算していること。
著者は定年後の退職金の運用にやや否定的だが、株式やREITの配当金で年率4%程度の運用はさほど困難
著者は定年後の退職金の運用にやや否定的だが、株式やREITの配当金で年率4%程度の運用はさほど困難
ではない(あくまで現時点だが)。仮に1000万円を回せば年間収入は税引き後32万円で月額2万6000円強の収
入が見込める(正確には120万円分をNISA枠で運用すれば配当課税もされない)。こうなると仕事による収入
は日額5000円のアルバイトを月10日もやればいいレベルの話になる。
こう考えれば、老後の生活資金にさほど悩む必要性は感じないで済むだろう。
また、基本的な考えには賛成だがやや異論があるのが、第5章にある「勉強は資格を取るための『手段』に
するから面白くないので、それ自体『目的』にすれば楽しい」との指摘。
まあ勉強自体、本人が楽しく取り組めればいいので他人がとやかく言う話ではないのだが、個人的には資格
という目標があった方がモチベーションも達成感もあると思う。
ちなみに私が昨年取った資格には「フォークリフト運転士」と「メンタルヘルスマネジメント検定」がある
が、どちらも未知の分野で専門知識は身に付いたし、フォークリフトは運転自体が面白くていい体験だった。
仕事に役立つかは別問題だが。
SNSについても一言。
SNSについても一言。
著者はフェイスブックなどSNSは、定年後の新たな居場所になるとして勧めているが、私自身はSNSは一
切やっていない。
というのは著者もデメリットとして指摘しているが、不特定多数に向けて情報発信することで「手間」と「
雑音」に悩まされることになるからだ。
発信した内容に、コメントが届けば何らかの対応を迫られるし、それが好意的な内容ならなおさらだ。
逆に、批判的・攻撃的なメッセージであれば心理的なダメージを多少なりとも受けることになる。
音信不通だった旧友と連絡が取れたり、新たなネット上の知り合いが増えるというメリットを考慮しても、
差し引きではデメリットの可能性の方が大きいと思う。
という訳で全体をまとめると、本書を読んで感じたのは、充実した定年後を送るには、定年前の準備を“多
という訳で全体をまとめると、本書を読んで感じたのは、充実した定年後を送るには、定年前の準備を“多
面的”、かつ“前向き”に、そして“自然体”で進めるのが大事だということ。
第1章と第2章を読んで、定年後のおカネの不安が解消すれば、あとは個々の望むライフスタイルの問題
である。第3章以降には、そのヒントが数多く紹介されており、多くの定年予備軍にとって参考になるのは確
かだろう。