如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

消費税は引き上げどころか、そもそも不要?

 

政治家も官僚も国民に伝えようとしない増税の真実

高橋洋一

2019年3月7日

 本書は、消費税の引き上げの必要性を否定することを主たる目的としているが、その背景にあるのは、消費
税の在り方そのものに対する世間の誤認識があるという主張だ。

 具体的には、「日本の消費税の最大の欠陥は、社会保障制度の財源とすると定められている点」(P5)で、
「存在すること自体が間違っている」(同)とまで言い切っている。

 とは言え一方で、消費税は「徴税コストが少なく、安定的な財源である」(p24)ので、「教育や水道など
の地方自治体の公共サービスとして地方税が相合しい」(同)とも述べているので全くの消費税不要論者では
ないのだが。

 第一章は消費税導入から現在までの経緯の説明が主たる内容で、本論は第二章から始まる。

 まず、年金は「福祉」ではなく「保険」であり、足りない分は支払う「保険料」を引き上げるべきであり、
税金を投入するのであれば低所得者層に影響の大きい「消費税」ではなく、累進課税によって富裕層の「所得
税」を充てるべきとしている。

 ただ、この所得税を持ってしても足りない分は、現在の社会保険料の徴収漏れを補足すべきで、著者によれ
ば最大10兆円程度の「取りっぱぐれ」があるそうだ。そこで出てくるのが第三章の「歳入庁」構想だ。具体的
には国税庁と日本年金機構の徴収部門の統合であり、徴税コストの低減など効率的な運用が可能になる。

 統合によってポスト、予算などが削減される官僚からは物凄い抵抗が予想されるが、何とか政治決断で頑張
ってほしいものである。

 ちなみに本書によれば、国税庁の補足する法人数が280万社である一方、日本年金機構の把握している法人
数は200万で、この差の80万社は従業員から年金保険料を取りながら実際には年金機構に払っていないことに
なるらしい。これは率にすると28%、実に10社に3社は保険料の「横領」をしていることになる。

 これは勤労者の立場に立つと、本来受け取れる年金が勤め先の「組織犯罪」によって失われることになる訳
で、長年保険料を払ってきたと自覚している者にとって、いざ受給開始年齢となったら「あなたに年金受給の
資格はありません」で済む話ではないだろう。

 問題が発覚するのが、保険料の負担開始から何十年も先の話なのでまだ問題が表面化していないのかもしれ
ないが、現実化したら大きな社会問題になるのは間違いない。

 しかも、「未納」会社の責任を追及しようにも、保険料を横取りするような悪質な企業が何十年も存続して
いるとは到底考えにくい。結局は国民全体の負担になってしまうのだ。

 第四章以降も、「年金制度」「財政問題」などをテーマに消費税の引き上げ不要論を展開している。

 総じて論理的な話の進め方で納得できる内容ではあるのだが、やや疑問に感じたのは第六章の「相続税の二
重課税問題」。筆者は、故人が生前に課税されて残した財産に、死亡をきっかけに新たに相続税を課すのが二
重課税に該当するとしている。

 だが、生前の税負担は財産の保有者であり、死後の税負担は相続人という別人である。加えて言えば、財産
を築いた本人は多くの場合、大変な苦労と税負担に耐えたと思われるが、相続人にとっては介護負担などを除
けば、努力も苦労もせずに取得できる「不労所得」の一種ではないだろうか。

 個人的には、一定水準以上の相続分については100%課税でも良いのではないかと思っている。当然ながら
こうなると「生前贈与」が増えるのは確実なので、贈与税の強化も必要になるが。

 本書でも舌鋒の厳しさは相変わらずだが、今回は「消費税」というテーマに内容を絞り込んだのが奏功して
いるほか、増税が実現するかどうかが決まる直前のタイミングというのも絶妙だと思う。

 ちなみに筆者によれば、延期を決定するのであれば5月1日の改元前後で、理由は「新しい元号の下、新し
い時代が始まる年にいきなり増税をするのはいかがなものか」という政治家の“勘”が働くのではないかという
見立てだ。

 いずれにせよ今年最大の経済テーマである「消費税」の在り方を問う専門家の意見として、「参考」になる
のは間違いないと思う。

【追記】
 細かい話で恐縮だが、第一章の見出し「消費税増税」について。「税」の「増税」いうのは言葉としてダブ
リ感がある。いわば「頭痛が痛い」のようなものだ。ここは、「消費税の引き上げ」が正しい日本語だと思う
のだが。