如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

人生訓メモの集大成、その価値判断は読者に委ねられた

不惑の老後(SB新書)

曽野綾子

 

 これはもう「書籍」というよりは、著者の人生訓メモの「寄せ集め」もしくは「集大成」と言った方が適切だろう。

 何しろ、項目として立っている見出しが207もあり、出典一覧も67冊に上る。便宜上、全六章に章立てしているものの、その中身は細切れのメッセージがほとんどである。


 具体例を引き合いに出すと、文章が何と1行しかないという項目すらあり、2行、3行の項目も少なくない。

 しかも各章に含まれる項目は順不同で、時系列順でもないし、何ら特別な関連性を見い出せない。文体も基本的に「である」調で占められているものの、「です・ます」調も混在している。

 

 出版社と著者がどのような意図でこの本を出版したのか、その真意は「まえがき」にも書かれていない(ちなみに「あとがき」はない)。
 というか、あえて数多くの著作から多彩なメッセージを引用し、散りばめることで、本書に対する解釈や意味づけを「読者に委ねている」としか考えられない仕掛けだ。


 従って読者は、自らの価値観と読解力が試されていることになる。解釈の手掛かりになるのは、タイトルにある「老後」と「不惑」の2つのキーワードだが、各項目を繋げては見たものの、その結果に「どれ程の意味があるのかは評価が難しい」というのが正直な感想だ。


 こういったスタイルを取る本が過去にどの程度出版されて、どのような評価を受けているかは知らない。ただ「仕掛け」としては面白いのかも知れないが、お手軽な材料だけ素のままで提供して、あとは「焼くなり煮るなり読者のご自由にどうぞ」というのは、いささか度が過ぎているような気もする。


 まあ本書をどう受け止めて、どう生かすかは個人差があるだろうが、同時期に出版された「人生の醍醐味 (扶桑社新書)」が、比較的読み応えのある内容だけに、本書との構成や意図の違いの大きさにやや戸惑っている。