お金の未来年表 (SB新書)
朝倉 智也
「お金の未来年表」というタイトルから、この本に興味を持った人は、将来の株式や不動産などの資産価値に関する予想やそれに対応する資産運用のノウハウを期待するかもしれない。
水を差すようで恐縮だが、読後の感想を簡単に言うと、本書は「お金の未来予想」ではなく、デジタル通貨の普及を背景にした「社会インフラの未来図」である。
ただ誤解のないように説明すると、本書では近い将来に実現するであろうキャッシュレス社会において、「おカネ」だけでなく、「5G」「情報銀行」「自動運転」「食品の安全性」といった幅広い分野・領域をカバーし、かつ分かりやすく説明しているという点で高く評価できる。
しかもこれらの分野の解説には、背後に「おカネ」が関与している仕組みも含まれている。この独自の視点と、説得力のある見立てには、著者が銀行、証券などで資産運用や資金調達などを経験したプロの金融マンとしての見識が大きく役立っていると思う。
デジタル通貨については、国際決済銀行(BIS)がこれまで仮想通貨を含めてその普及にはセキュリティ面などから否定的な立場だったのだが、最近になって賛成へと立場を変えたとの報道が「The Financial Times」であったらしい。
その背景にはFacebookが支援する仮想通貨「リブラ」の台頭への警戒感があるようだが、何にせよ、これで日本を含む世界の中央銀行が一斉に自国のデジタル通貨発行に向かうのは確かだろう。
著者が「日本人はあまり大きな変化を望まないが、いったん『この方向に行く』と目標が決まれば、そこに向かう推進力は類まれななものがある」(p17)と指摘するように、弾みが付けば一気にキャッシュレス社会が実現する可能性は高い。
最後に本書で最も参考になった予想を紹介したい。それは「2035年にブロックチェーン技術を活用した単一市場が創設される」というもの。
具体的には、現在売買取引による資産などの「価値の交換」は、銀行や販売業者などのプラットフォーマーが取引の安全性を担保しているが、ブロックチェーンによって個人間でありとあらゆるモノが取引できるようになり、「家電と株式の交換といった取引が可能になる」(p189)というものだ。
これはもう、商取引の仲介機能を担う「おカネ」の価値が、キャッシュレスという事象をはるかに上回る変化をすることになり、我々の生活にどのぐらいの規模の影響をもたらすのか想像することすらかなり困難だ。
欲しい商品を「買って」手元に置いて使うという現状が、欲しい時に不要な商品と「交換して」手に入れるというスタイルに変わるとなれば、「モノを所有して使う」という行為が「モノは必要な時だけあればいい」という一種のシェアリングエコノミーが一般化する可能性もある。
となれば、消費者向けに「中途半端な品ぞろえ」の小売り業者は、販売戦略で大きな打撃を受けるのは避けられそうにない。