如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

不動産は「負動産」を経て「腐動産」へ

マンションを「マイナス180万円」で売る…越後湯沢の“腐動産”で起きている不気味な事態(ビジネスジャーナル)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

 

 越後湯沢などバブル期のリゾートマンションなどが無価値となり、売り手が手数料を支払って売却するマイナス価値の不動産、すなわち「負動産」という言葉がかなり一般的になった。この言葉を定着させる決め手になったのは今年2月に出版された「負動産時代(朝日新書)」だろう。
 これまでは親の残した大きな遺産として遺族間の「相続」ならぬ「争続」とまで言われることも多かった不動産が、現在では互いに押し付けあう「廃棄物」扱いとなっている。
 とまあ、ここまでは割と世間に知られた話である。
 今回紹介するのは、その後の世界を解説するビジネスジャーナルの7月27日付けの記事「マンションを「マイナス180万円」で売る…越後湯沢の“腐動産”で起きている不気味な事態」である。
 著者は、大手デベロッパーなどで不動産開発を手掛けた経歴などを持つ「街」の専門家・牧野知弘氏である。
 要約すると、無価値の不動産を抱えて売るに売れず、固定資産税の支払いに困窮する持ち主から買い取り専門業者が180万円を受け取って不動産を買い取るというスキームだ。
 記事にあるが「買い手の業者は日本のスキー場の現実に疎い中国人などに売りつけてトンズラ」という仕組みらしい。
 
 ここで登場するのは「元々の不動産の所有者」、「代金を受け取って不動産を買い受ける業者」、「その物件を投資目的で買う中国人」の3者である。
 
 まず、最初の所有者はしぶしぶ支払っていた固定資産税(取り立てが厳しいので滞納はまず不可能)、と滞納していた可能性が高い管理費・修繕積立金の支払い義務から「今後は」解放されるメリットはある。ただし買い取った不動産業者がまじめに移転登記をすればの条件付きだが。
 
 次の買い取り業者。聞いた話では滞納分として受け取った管理費等を管理組合に支払うことはないらしい。そのうえ、その筋の人たちを住まわせて住民を威嚇、住みにくい環境にしたうえで組合の総会にも出席して自分たちに都合のいい議題を通そうと画策しているらしい。
 狙った物件を集中して買い取る傾向もあるらしく、総会での発言権も強くなっているそうだ。こうして自分たちの利益の最大化を目指す。ちなみに巷の噂では、この買取を専門に行っているのは特定の一社でマスコミの取材には一切応じないらしい。
 
 最後が新たな所有者となる中国人。東京から新幹線で1時間、あこがれの日本にリゾートマンション、しかも価格は破格といった「売り文句」に乗せられて、購入する向きは少なくないだろう。
 買った当初はうれしさ100%かもしれないが、湯沢のリゾマンは築30年は経過している。必要となる2回目の大規模修繕を行うのは費用面で不可能だろう。ということはエレベーター、給排水管、外壁・屋上の漏水工事などのメンテナンスはされず、一時的にですら住むには不適格となる可能性が高い。
 
 こうなるとおカネにシビアな中国人はすぐに売却に動くはずだ。当然ながら事情を知っている日本人は当然のこと、口コミで状況を知った中国人も買わないだろう(一部の東南アジアのにわか富裕層は買うかもしれないが)。所有者は利用もしないし、売れない物件の管理費や固定資産税を支払う気はさらさらないはず。しかも海外在住なので税務署が課税するのも困難だ。
 ただでさえ管理対策に四苦八苦している管理組合にとっては、中国人所有者の行動は老朽化したリゾマンの存続にトドメを差すことになるだろう。
 
 著者は、買い取り業者を「何も知らない新たな客に高値で売りつけるバクテリアたちだ。その先買った中国人がどうなろうと知ったことではない。ここに老朽化していく腐動産の成れの果てがある」と結論付けている。
 
 と、ここまでは納得のいく展開である。不動産開発の専門家でもあり論理的には正しい。ただ湯沢のリゾマンがすべてこのような運命を辿るとは限らないだろう。
 実際比較的小規模な老朽化マンションでは最近解体、更地として売却されたし、地元でも駅から離れた郊外や都会から老後に移住している人もいて、住民のために買い物などのための巡回バスも運行されているらしい。一部には外国人向けの民泊に活用しようという動きもある。
 
 また、ただ同然で物件が手に入るなら、高齢者向けのマンションとして建て替えもしくはないしは大規模修繕をデベロッパーが手掛けるという手もある。
都心では高額な老人ホームを除けば、手ごろな高齢者向け施設の整ったマンションは少ないので、東京まで一時間なら価格次第で一都三県でも郊外のバス便マンションよりも人気が出る可能性はある。
 
 ただ、越後湯沢の街全体として見れば、経済的な効果は限定的だろう。高齢者はスキーをやらないし冬場の寒さは堪える、夏は夏で近場の山や高原などの観光地に行く気力も体力も乏しい。
 
 現時点で参考になるのは、栃木県の鬼怒川温泉郷だろうか。一部の宿泊施設は全国でチェーン展開するバスツアーを主力とする格安観光客でにぎわっているが、水害などで被災した老舗旅館などはそのまま無惨な「廃墟」として放置されている。
 こうした混然一体となった街並みが、経済活動が低迷を続けながら越後湯沢でも展開されると個人的には想像している。