如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

ジョブ型正社員は日本の雇用制度を変えるか

専業主婦がいないと回らない日本の「構造問題」(東洋経済オンライン)

中野 円佳 : ジャーナリスト

 専業主婦を前提とした現在の日本の雇用制度の変革の必要性を訴える対談記事「専業主婦がいないと回らない日本の『構造問題』」が8月7日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
 
 対談しているのは、東京大学大学院教育学研究科の本田由紀教授と、こちらも東大卒、日経記者を経て現在ジャーナリストの中野円佳氏。高い教養を持たれるであろう女性2人なので、さぞかし大上段に構えて、「現在の男性中心の職場環境はなっていない。女性の地位向上を要求する」といった過激なアピールかと想像したのだが、これは私の誤った先入観だった。ここは反省。
 
 記事は前半では、「新卒一括採用」「終身雇用」「父親の収入で子供を教育」という戦後の循環モデルが、バブル崩壊で破綻したことを説明している。
 ちなみにこの構図については、記事の1ページ目では本田氏の著書『社会を結びなおす―教育・仕事・家族の連携へ』から引用されたイラストが分かりやすく、「モデル破綻」のイメージが掴みやすい。

 一方、中野氏も近著『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』でイラストを使った解説している(著書へのリンクで記事にはない)のだが、こちらは「パッと見て全体像がつかみにくい」というか問題点が読者視点で整理されていない印象を受けた。分析は「深い」と思うのだが、「見せ方」には工夫の余地があると思う。記者出身なので「文章」は得意でも「図解」は苦手なのだろうか。
 
 後半部分は、女性の就業の現状を念頭に「ジョブ型雇用、つまり、ある特定の業務や、勤務場所、時間などを固定して働ける正社員」の拡大がメインテーマだ。
 これまでの非正規雇は有期雇用だったが、ジョブ型は無期雇用で正社員なので、雇用も安定、賃金も専門性に見合った水準が必要だとしている。
 
 個人的な感想を言えば、企業側は大企業が今年相次いで「終身雇用」を廃止する方向で、一方で厚労省は今年3月の「モデル就業規則」改正で、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」(第14章副業・兼業の第68条)いう「原則許容」に大きく舵を切った。

 雇用制度全体の流れとしては、「業務として必要な時に、必要な人材を採用する」という「ジョブ型」の雇用は今後さらに進展すると思う。
 当然ながら社内にない専門性を重視するので給与は「正社員以上」となる可能性も十分あるし、そうなって当然だろう。いわゆる「手に職を持つホワイトカラーのプロ職人」だ。
 
 問題は記事の最後にもあるが、家事や子育て、介護などの分野では女性の負担がいまだに大きく、仕事の「専門性」を伸ばし、生かせる環境にある人が少ないことだろう。

 個人的には、「在宅勤務」「サテライトオフィス」などの制度を通じて、通勤時間をかけて出社しなくても、家事など家庭の事情に合わせて自分の裁量で仕事を配分できることが解決の一つの方法だと思う。
 
 専門性を持ったプロなのだから「仕事の結果」で評価されればいいのであり、時間の使い方などは本人に任されていいはずだ。具体的には「1週間後の締め切りで、この業務の仕様書やマニュアルを作成する」といった業務などが向いていると思う。
 
 少子高齢化が今後一段と進む中で、労働力人口の減少は必至。スキルを持った女性(特に専業主婦)の潜在力を生かさない手はないだろう。