パワハラですべてを奪われた56歳男性の絶望(東洋経済オンライン)
藤田 和恵 : ジャーナリスト
障がい者雇用制度の拡充(精神障碍者を対象に含める)など政府が、対策を進めているのは事実だが、現場となる会社組織ではまだ「差別」が続いていることを明らかにする記事「パワハラですべてを奪われた56歳男性の絶望」が8月8日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
記事の前半は、主人公である障碍者(男性)の友人で長年寄り添ってきた女性の「友人が昨年12月、貧困とパワハラの果てに脳出血を起こして重度の障害者になってしまいました」という言葉で始まる。
本人も「理不尽だ。労働組合なんて、組合費だけ取って、何にもしてくれない」と述べているが、ことの始まりは2005年ころの関連子会社への出向で、業務は変わらないのに年収は50万円ダウン、その後脳出血を発病し1年間の休職、復職後は庶務部門に転属され、年収は200万円に落ち込み、2度目の脳出血で実家近くの施設に転院した。
この間の会社側の対応は記事の詳細に書かれているが、事実だとすれば「非情」という言葉しか思いつかない。
個人的な感想を言えば、会社側は「役に立たない社員は不要、何とかして辞めさせたいが最近は世間の目もあるので、自発的かつ合法的に解雇したい」という姿勢がありありである。
本人は、入院中の極めて理不尽な会社の要求や上司の不穏当な発言などをメモとして残しているようなので、管轄の労働基準監督署に持ち込めば、十分に対応してくれる案件にも思える。
ただ、この記事を読んで「何ともやり切れない。何とか社会福祉で対応してほしい」と感じたのは事実だが、同時に「しょせん会社とって従業員とはその程度のモノ」だという認識も改めて持った。
労災や休業規定などの法整備が拡充されても、それを運用するのは結局、会社組織に属する人間なのである。先の障がい者雇用促進法の概要を引き合いに出すと、障碍者雇用率(民間企業で2.2%)とされている雇用制度義務を達成できない場合、事業主は一人当たり月額5万円の障害者雇用納付金を収める義務があるのだが、現実には「この納付金を収めても障碍者を雇用したくない」と考える経営者が少なくないのである。
こう考える事業主は、納付金がたとえ10倍に引き上げられても雇用を進めないだろう。負担額以上に儲ければいいと考えるからだ。
「従業員を単なるコスト」という利益最優先の考え方が変化し、「障碍者雇用を民間企業を含めた社会全体でサポートする」という意識が定着しないと、この記事にあるような不幸な事例は後を絶たないと思う。
記事の最後には、友人が先の参院選で「れいわ新選組」の演説会に足を運んだ際に、「(演説後)ほとんどの人は、微動だにしない(障がい者候補者の)舩後さんをスルーして、山本さん(山本太郎代表)や、健常者であるほかの候補者のところに集まっていきました。中には、舩後さんの足元にぶつかりながら通り過ぎていく人もいて」というエピソードを紹介している。
おそらくぶつかった人たちに悪意はないのだろうが、障碍者への配慮が足りないのは間違いない。
結局のところ、世間一般人の多くは、障碍者の苦しさを「感覚」で理解しているつもりだけで、実際の「行動」が伴っていないのである。これは自分自身への自戒も含めてだが。