如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

今の時代に必要なのは「分裂気質」のトップだ

「天才を潰し秀才を重用した」日本型組織の末路(東洋経済オンライン)

茂木 誠 : 駿台予備学校 世界史科講師

 

 仕事の内容によって、必要な資質は異なるがそれは優劣を示すものではない。という趣旨の記事「『天才を潰し秀才を重用した』日本型組織の末路」が815日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 記事では、前半で「臨機応変に高度な判断を要求される政治家や経営者に向いているのは「分裂気質」であり、反対に、与えられた任務を黙々とこなす官僚、大企業の社員に向いているのは「執着気質」。これは役割分担であり、どちらが優れている、という話ではない」と解説している。

 

 記事後半は、この前提に基づいて日本軍が太平洋戦争で敗戦した原因を解明しているが、それについては記事を読んでいただくとして、ここでは前半部分に焦点を当てたい。

 

そもそも、その時代に即した人物が要職になるかどうかで、その運命が決まるのは、「国家」だけの話ではない。会社経営でも同じである。

 

例えば、ソニーの井出元会長も、雑誌のインタビューによれば、上司への反発が原因で一時は倉庫番のような閑職に追いやられていたそうが、その後ヒラの取締役から14人抜きで社長に昇格、ノートPCVAIOやデジタルコンテンツに舵を切って、業績を回復させた。もっとも、その後業績悪化で退陣したが、それも時代の趨勢というものだろう。

 

また、JAL(日本航空),JDI(ジャパンディスプレイ)のように半官半民による経営責任の押し付け合いで、経営トップが交代しても業績回復ができなかった(困難な)企業も多い。

 

会社経営で、一番多い多いのは、事業を立ち上げた創業者を、2代目が大きく発展させるものの、3代目が放蕩息子で会社に損害を与えるという大王製紙のような例だろうか。現場や社員の苦労を知らないボンボンに競争の厳しい経営トップが務まるはずがないのである。

 

 政治の世界では、過去に自民党の大幹事長金丸信氏が、首相の器として「平時の羽田、乱世の小沢、大乱世の梶山」と言ったそうだが、やはり時代に即した適任者がいるということだろう。

 

 こういう時代となると、会社の経営トップを選ぶ方も責任重大なわけだが、ステークホルダーとして昔はせいぜいメインバンクに幹部人事の事前了解を取っておけば済んだが、今は、外国人を中心とする「モノ言う株主」が増えたことで、利益(配当)拡大への圧力は強まる一方だし、商品や社員のコンプライアンスへの風当たりも強い(広告への抗議やバイトテロなど)。株主代表訴訟のリスクもある。

 また、社内でも「社外取締役の選任」や「指名委員会等設置会社の制度」など重役だけでは物事が決められなくなっている。

 

 現在のように、「貿易摩擦」「技術革新」「働き方改革」など会社を取り巻く経営環境が激変する可能性が高まる中で、必要とされるのは臨機応変に対応できる「分裂気質」タイプの経営者だろう。所与の条件下以外では何の対応もできないトップでは会社は持たない。

 

 ただ、個人的に重要だと思うのは、トップがリーダーシップを発揮するのは良いとしても、その判断が100%常に正しいとは限らない。

 明らかに考え直した方がいいと思われる案件には、堂々と反対意見を言える側近や幹部を置ける度量があるかどうかが重要ではないか。

 

 自分の考えを否定する幹部を近くに置くのは、気持ちのいいものではないが、リスク回避という点では欠かせない視点だと思う。