「貧困」を考えるうえで背けられない客観的事実(東洋経済オンライン)
大西 連 : 認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長
「2019年現在、「日本に貧困はない」と言う人はいません」という文章で始まる、現代社会の貧困問題を解説する記事「『貧困』を考えるうえで背けられない客観的事実」が8月21日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
全体を通じた読んだ感想を述べると、貧困の「定義」「歴史」「非正規労働」「女性・子供」というテーマに分かれているのだが、多少なりとも「貧困問題」に関心があって、関連書籍などを読んだ人にとっては物足りない内容だった。
確かに、冒頭の段落の最後には「(貧困の)現在地を共有することを目的」とあるので、おそらく明日以降の記事で深堀されていくと思うのだが、連載の一発目としてはややインパクトが弱いのである。
まず、貧困に「相対的」と「絶対的」があるというのは、まあ多少の常識のある人なら知っている話だがここで解説するのは「現在地の共有」なのでいいとする。
また「国際比較でも、日本の相対的貧困率の高さはOECD諸国の中で上から数えたほうが早いくらいなのです」とある。
確かにOECD35加盟国のなかでは上位にはあるが、Webサイト「世界の貧困率 国別ランキング・推移」によれば、主要42か国のなかでは第14位、貧困率では1位の中国(28.8%)の半分程度である。中国の経済力は世界第2位であるにもかかわらずだ。
米国(17.8%)に比べても低いし、スペイン(15.5%)と同程度だ。貧困率が低いとは言わないが、高いと声を大にして言える数字でもないはずだ。
また、「非正規労働」についても、「1984年には15.3%だった非正規労働者が2018年には37.9%と急増しており、(中略)この中には、主婦のパート労働や学生のアルバイトなどの「家計補助」的な働き方も含まれます」とあるが、パートがバイトが大半を占めているにしても、「高年齢者雇用安定法の改正」によって65歳までの雇用機会の確保が事業主に求められたことで、非正規雇用の高齢者が急増した影響に言及していない。
加えて、この項で年収200万円以下の人が増えたとについて、データの扱いに齟齬がある。
記事には、「年収200万円以下の人は2013年で1120万人。これは働く人の24.1%、(中略)2000年には18.4%であったことを考えると、この10年間で約6%の上昇」とあるが、「%」どうしを比較するのに%の絶対値を使うのはおかしい。「6」という数字を使うなら「6ポイントの上昇」が正しい表現である。
正確には、18.4%が24.1%に上昇したのだから30.9%上昇とすべきところだ。むしろこちらの数値の方がインパクトがあるのに、単純なミスで低所得者層の増加の大きさを「過小評価」させてしまっている。
貧困問題の重大度をアピールしたいという志は立派だが、もう少し数値データの扱いには配慮した方がいいのではないか。
記事の最後で、「私たちには、この記事で確認したような「数字」だけでなく、実際に「貧困」という状態を生きる人々の生に対する想像力も必要なのです」と述べているが、肝心のデータの扱いが不正確では、説得力に欠けると言われても仕方がないだろう。
とは言え、確かに社会的に大きなテーマではあるので、次回以降に期待したい。