お金を増やしたい人が絶対にやってはダメな事(東洋経済オンライン)
山中 伸枝 : ファイナンシャルプランナー(CFP®)
定年を迎えて退職金2000万円をうけとった65歳の男性が、銀行の勧誘に乗っかって金融商品を購入、あっという間に500万円を溶かしてしまった―――。という高齢者が引っ掛かりやすい金融機関の「詐欺的な売り込み」の被害をレポートする記事「お金を増やしたい人が絶対にやってはダメな事」が8月25日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
この手の退職金を狙った金融機関のあくどい手口は、でにかなり知られた存在になっているはずなのだが、いまだに被害は続いているようだ。
具体的な経緯は記事を読んで頂くとして、要約すると、大学の後輩として近づいた支店長のセールストークに乗せられて、言われるがままにお決まりの「高金利の短期定期預金」と「高手数料の投資信託」を買わされて、投資信託が暴落、多大な損失を被る。
怒りの収まらない本人は、文句の電話を掛けるが、支店長は人事異動ですでに他店に転勤済というオチだ。
ちなみに、この手の詐欺的な勧誘に引っかかるのは、大企業の管理職経験者でプライドが高いわりに、資産運用、金融商品への知識に乏しいという傾向がある。接客に長けた銀行員の「よいしょ」に乗せられやすい。要は「いいカモ」なのだ。
話は若干それるが、この手の詐欺的な勧誘には「お決まりの小道具」があって、それは「支店長が直々に対応」「支店の豪華な応接室か支店長室」「提供される高級そうな緑茶」の3点セットだ。
結論から言えば、このケースを含む金融機関の詐欺的な行為を避ける防衛策はたったひとつだ。それは「金融機関が勧める商品は絶対に買わないこと」。
そもそも黙っていても売れる「良質な金融商品」は売り込む必要がない。売れない商品だから営業マンがノルマで売らされるのである。そんな商品が顧客のためにならないことは自明の理だろう。
今回の相談者は、被害後にまともな著名でかつ良心的なFPに相談したので良かったが、よくあるのは、「今回はたまたま担当の営業マンに恵まれなかった」と自分の運の悪さを理由にして、さらに別の金融機関から質の悪い商品をつかまされるという一種の「追いはぎ」に引っかかる高齢者が多いことだ。
とは言え、いきなりの数千万円という大金を手に入れて、「どうしよう」と狼狽する気持ちは理解できなくもない。
また超低金利という現状に加え、最近の金融庁の報告書で「老後資金2000万円不足」問題が誤って世の中に広まったこともあり、「何か資産運用しなくては」と焦るのは仕方のない側面はある。
しかし大切な老後資金だからこそ、まず心を落ち着かせて、自分のおカネに関するライフプランを慎重に考えることが重要なのだ。
高齢者向けに自宅のリフォームの必要性や、子供や孫への住宅・教育等の資金援助、介護が必要になった際の施設への入所費用など、必要となる資金は不足する可能性は小さくない。
だからこそ、投資経験がなかったり、経験が浅くて投資に自信がない場合は無理に「資産運用」する必要はないのだ。
「増やすこと」よりも「減らさない」ことを重視すべきなのである。
具体的には、退職者専用の高い金利で引き付ける特別な定期預金ではなく、「普通の定期預金」もしくは「個人向け10年変動国債」を勧める。利息は少ないが元本が減ることはない。
ちなみに、個人向け10年変動国債は、財務省が「個人向け販売を強化したい」との思惑から、証券会社で購入すると金額に応じてキャッシュバックがある場合がある。これはおまけがついてくる優良金融商品として、「例外中の例外」である。
他の方法としては、あおぞら銀行は「高齢者向け定期預金」に年率0.3%というメガバンクの30倍の金利を、インターネット支店なら普通預金でも年率0.2%という同200倍の利息を提供している。また、インターネット専門の住信SBIネット銀行の一種の普通預金(SBIハイブリッド預金)も金利は0.01%と高い。
これらの預金には預入額などの多少の条件はあるが、先の銀行のような「投資信託」と抱き合わせ販売という「見かけだけのの高金利」で顧客を集めている訳ではない。一考の価値はあるだろう。ただし、今後いつまでも高金利を維持してくれるとは限らないないが。
最後に金融商品や資産運用の知識に乏しい人にひとつだけ覚えてほしいことがある。それは「金融機関のセールスマン、セールスレディから声を掛けられたから詐欺の勧誘だと思え」ということだ。
もちろん真面目な行員もいるだろうが、こういう前提で対応した方が損失を被る可能性は格段に低くなる。
さらに言えば、投資で資産を増やそうと思うならば、自腹を切って投資に関する本を読んで勉強することだ。身銭を払えば真剣になるし、真剣になればまともな投資手法も身に付く。
大金持ちでもないのに、なんの苦労もしないで資産を増やそうという考えそのものが「甘い」という事実に気づくべきだ。いい年をした大人なのだから。