如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

日本郵便の企業体質は、まず絶対に100%変わらない

 
日本郵便「社員が社長にぶつけた不満」の全記録(東洋経済オンライン)

山田 雄一郎 : 東洋経済 記者

 保険の不適切営業という非常事態を受けて、日本郵便の横山邦男社長は8月23日に本社22階「前島ルーム」で、首都圏の現場社員のうち400人との対話集会を開催した―――この集会の模様を伝える記事「日本郵便『社員が社長にぶつけた不満』の全記録」が8月27日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 この対話集会、質問は抽選制で社員の意見を聞くことが目的のようだが、記事には「集取材班は校了後に開かれたこの対話集会の模様を追った」とあり、マスコミに公開されたようだが、質疑での対話のやり取りがそのまま掲載されていて実に生々しい

 しかも全5ページのほとんどが「発言」で占められており、集会の実態がよくわかる構成になっている。

 

 結論から言えば、記事のサブタイトルにある「返答はノルマ肯定、お付き合い容認、自爆放置」がすべてを物語っていると言えるだろう。

 

社長はノルマ営業について「ちょっと背伸びをして、ノルマに届くということが、組織や個人の成長につながる」と言っているが、金融機関ではメガバンクでもノルマ営業廃止の方向にあるのに、状況認識が世間の認識とズレ過ぎている。

 

 まあ、社長が体育会系の住友銀行出身なのでガチガチのノルマ市場主義は身体に染み付いているはずで、トップが変わらない限り、企業体質は絶対に変わらないと思った方がいい。

 しかも社長は、記事を読む限り責任もあまり感じていないようなので、辞任の可能性はゼロだ。

 

 とは言え、今回の問題の根本は、郵便局が本来の「郵便」業務以外に、「保険」「預金」「物販」などを手掛けていることに起因していると思う。

 郵便局なのだから民営化の際に、「郵便」業務に専念していれば、こんな結果にはならなかったのではないだろうか。

 郵便業務が赤字なのを他の業務で補填している構造はわかるが、本業の赤字を本業以外の業務で補う構図自体に無理があるという認識が欠けている。

 

 特に預金について言えば、どんな田舎に行っても「農協」「漁協」がない地域はないだろう。ちょっとした町なら「信用金庫」「信用組合」「労働金庫」もあるはずだ。これらでは預金以外にも融資も行っている。業務も、地域も重なる郵便局が預金業務を行う必然性はないはずだ。

 

 保険についても同じことが言える。

 埼玉県で保険販売を担当しているという郵便局員は「ここ2年くらい本当に売りづらかった。ほとんどの客に断られ続けている」と、かんぽ生命の保険商品がニーズに合っていないことを訴えた。と発言しているように、そもそも商品設計に問題がある。

 

 保険金の加入限度額が16歳以上で1000万円、加入後4年が経過しても2000万円までというのがまず現状に合っていない気がする。民業圧迫という民間保険会社の抵抗もあっただろうが。

 数か月前、所用があって近くの郵便局に行ったのだが、用事を済ませて帰ろうとしたら「保険」の勧誘をされた(どの保険かは記憶にない)。

 今は金利が極めて低いので長期の資産運用を保険で対応するのは合理的ではないことは分かっていたのだが、局員の話を一通り聞いたあとに「で、実際に払った金額と満期後に受け取る金額はどうなの」と質問したら、その場で計算してくれたのだが、何と長期に渡って支払った金額以下しか満期には返ってこないことが判明した。

 

 計算結果を提示してくれた局員もバツの悪そうな表情をしていたが、顧客に聞かれない限りは「元本割れ」という実態を説明することは避けようとする気持ちになるのは理解できる。

 いくら保険の分が上乗せされているとは言え、積極的に「売りにくい」「買いにくい」商品であることは間違いない。

 

 あえて郵便局で契約するなら「新普通定期保険」がシンプルで合理的な選択かと思われるが47歳男性で条件設定すると、Webサイトでの見積もりは死亡保険金300万円、入院保険金4500円で月額の保険料は3330円だ。

 とは言え、非営利団体のCOOP共済(あいぷらす)にすれば、死亡保険金は同額で入院保険金が5000円になって、月額3270円と、さらに安い。年額払いの割引もある。しかも加入は郵送でOKだ。しかも、剰余金が発生した場合、「割戻金」として契約者に還元するため、支払保険金の差額はさらに広がる。

 郵便局で最も合理的といえる保険商品ですら、世の中の保険商品全体でみれば競争力は決して強くはないのだ。

 

 物販に至っては、郵便局の店頭にこれでもかとチラシが並んでいるが、どれも商品力、価格面で惹かれるものが見当たらないのが個人的な感想だ。どの商品も「ふるさと納税」の返礼品で入手できそうなものばかりである。

 

 ようするに、郵便局は本来の郵便事業に専念し、商品力の強化で黒字化を目指すべきであるということが言いたいのだ。

 こういう言い方をすると、幹部は「年賀状の売り上げアップを目指す」といった、時代に逆行するさらなるノルマ強化に動きそうだが・・・

 とにかく現在のトップが経営を続ける限り、郵便局の体質は変わりようだないのは確かだ。