如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

クラウンはトヨタのメーカーとしての「意地」だ

トヨタ「15代目クラウン」発売1年後の通信簿(東洋経済オンライン東洋経済オンライン)

御堀 直嗣 : モータージャーナリスト

 

 15代目という歴史もすごいトヨタの高級セダン・クラウンの評価を語る記事「トヨタ『15代目クラウン』発売1年後の通信簿」が8月28日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 まず売れ行きだが、記事によれば昨年の発売直後の7月には前年同月比333.4%増となったそうだが、これはあくまで参考値。というのも昨今の新車販売では事前予約販売という形で正式な販売開始の前に、現在クラウンに乗っている人を中心に数カ月前から発注をかけるのが通例になっている。

 

 メーカーにとっては、生産台数の目途が立つうえ、メーカーオプションなど工場での装備品や車体の色などの顧客の傾向を掴めることで、その後の生産計画が立てやすいというメリットが、一方、購入側にとっても「誰よりも早く新型車に乗れる」というプライドが持てる。

 デメリットは、値引きが期待できないことと、装備品の詳細が不明なため納車後に追加費用がかかる可能性があることぐらい。

 

 この事前予約でかき集めた台数が、発売初月の台数にカウントされるので、当然受注台数は膨れ上がる。実態を知らない顧客は「そんなに人気なのか」と関心を寄せるので、宣伝効果も大きいわけ訳だ

 もっとも、クラウンについては、その後も目標販売際数を上回って売れているようなので、人気は一時的なものではなさそうだ。

 

 最近の乗用車で売れているのは、「SUV」「軽自動車」「ミニバン」に集中しているので、「セダン」の存在感は極めて薄い。

 軽自動車は乗用車全体の40%近いシェアを維持しているし、SUVではあのレクサスもを3種類もラインナップしている。ミニバンもトヨタのアルファードなど高級車の存在感は高い。

 

 ただ、長い自動車の歴史で、セダンは良くも悪くもスタイルとしてはもはや「完成形」なので、一定のファンに支えられて衰退はしないものの、燃費や乗員数、荷室の大きさ、デザインといった顧客の嗜好が強まる現状では、オーソドックスなセダンの一段の成長は見込み薄だろう。良くも悪くも「華やかさ」に欠けるのだ。

 

 かつては、タクシー、ハイヤーではクラウンの独壇場だったが、最近ではトヨタのシエンタを改造したJPNタクシーが都内を席巻している。スライドドアで歩道に寄せやすく、大きな旅行カバンも後ろの上下に大きく開くテールゲートから出し入れが楽なので、利用者の評判は上々のようだ。

 

 加えて、大企業の社長が使う社用車や政治家の間でも、アルファードに代表される大型ミニバンが利用されるようになった。これは推測だが、乗降性のしやすさ、天井の高さなど利便性に優れていることが評価されているのだろう。

 

 一番台数が出ている軽自動車の人気はもはや説明の必要すらないだろう。「安い」「装備が貧弱」「衝突に弱い」といった評価は完全に過去のものになった。今年発売になった日産の軽自動車デイズ(三菱のekクロス)に至っては、自動ブレーキなどの安全措置は数段上のクラスのミニバン「セレナ」と同じ性能だし、ホンダに至っては、最近発売になった軽のN-WGNの安全装備は、同社の「フィット」やミニバン「フリード」を完全に上回っている。

 

 以前は、性能の高い装備は高級車から設定して徐々に下位のクラスに浸透させていくというのが一般的だったが、他者との競争が激化したことで、そんな悠長なことは言っていられない時代になった。

 

 さらに言えば、昨年のデビューの際に試乗記で読んだのだが、クラウンの利用者の平均年齢は70代が中心だそうだ。この層が新型クラウンに乗り換えて10年もたてば免許返納も増えてくるのは確実。セダンのマーケットが縮小するのは避けられない。

 

 という訳で、クラウンに代表されるセダンの復活は望み薄なのだが、トヨタとしては創業当時から製造しているセダンへの思い入れもあるだろうし、生産中止にすることによるイメージダウンも避けたいはずだ。

 

 スープラに代表されるスポーツカーも車体価格は高いとはいえ販売台数は低く、それ自体は大きな利益にならないだろうが、モータースポーツの世界で鍛えられることで、車の構造や部品の品質向上が見込め、一般車に展開させるという効果はある。

 

 トヨタというと全国一の販売網と、強力な販売力でシュアを維持し、巨額の利益を稼いでいるというイメージが個人的にはあるが、あまり利益を深く追求せずとも伝統の「クラウン」にこだわるトヨタの自動車メーカーとしての姿勢は評価したい。