如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

就職氷河期の就職支援は「官民」の複合政策で

俺たち「就職氷河期世代」1700万人を忘れるな(東洋経済オンライン)

田宮 寛之 : 東洋経済 記者

 

  バブル崩壊後の就職氷河期に正社員として就職できず、非正規雇用のまま40歳前後になった人たちへの「就職支援策」の具体例を紹介する記事「俺たち『就職氷河期世代』1700万人を忘れるな」が9月2日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 記事で紹介させてされているのは2つの組織で、ひとつは民間の「ジェイック」。もうひとつは公益財団法人が管轄する「東京しごとセンター」だ。

 ともに収縮支援という事業では同じ領域だが、大きな違いは、ジェイックが原則として30未満を対象にしているのに対して、東京しごとセンターはWebサイトによれば、、29歳以下、30~54歳までなど求職者に応じて6つのサービスがあること。

 

 政府が「正規雇用を3年間で30万人増やす」という方針が伝えられたのが今年6月。引きこもりを含めた100万人を対象にするということで、その規模が注目されたが、支援策の内容は、ハローワークの拡充や民間事業者への委託などというもので、具体的にどのような支援が行われるのかは、多くの人にとって理解が及ばなかったと思う。

 

 本記事では、前段でジェイック社の支援内容を詳細にわたって具体的に紹介している。

 セミナーは5日間で講師による「聴講」よりも自ら参加する「ワーク」が多いのが特徴で、4日目には自己PRのプレゼンなどを行う。

 印象的だったのは、冒頭の「あなたがもし社長だったら、30代の社会人未経験者を採用しますか?グループで5分間話し合ってください」という講師の発言。

 就職支援に対する個人的なイメージは、いかに自分の個性を内面から分析して、強み・弱みを認識したうえで、就職活動に臨むためのサポートというものだったが、この講師の真意は、「採用される自分ではなく、採用する企業側に立って考える」という点で、求職者の意識を変えされる効果があると思う。

 しかも、参加者同士が意見交換することで、自分では分からなかった問題点に気付くこともあるだろう。

 

 これを、採用する側の企業担当者に「どのような人を採用したいですか」というテーマで講義をしてもらっても、「社会人としてマナーをわきまえている人」「他者との協調性がある人」といったごく「常識の範囲内」かつ「実用性に乏しい」コメントしか期待できないだろう。

 

 また、このセミナーの参加料が無料と点にも注目したい。まあ、通常のヘッドハンティング企業も、採用側から仲介手数料を取るのでおかしくはないのだが。

 ただ、ヘッドハンティングの場合は、お互いの実績や要望などが事前にわかっているため、双方の考える年収と業務内容が一致すれば即採用となるケースが多いはずだが、非正規雇用者の場合はアピールできる実績に乏しいことが多いはずで、それをサポートする手間を考えると、それほど利益率はよくないようにも思える。当然ヘッドハンティングに比べて一件当たりの手数料も低いはずだし。

 

 ただ、同社のWebサイトを見ると、定着率は91.3%、一定期間内に退職した場合の返金制度、採用するまでは費用負担はゼロ、といった特徴をアピールしており、企業側が利用するためのハードルは低いように見える。

 もっとも、サイト中段にある「ジェイックで採るメリット」の一覧表は、他社との比較でやや自社の優位性を強調しすぎている感じがしないでもないが。

 

 一方の東京しごとセンターは、「就活エクスプレス」というジェイックと同様の支援事業のほか、「Jobトライ」という入社希望企業で15~20日間の実習を経たうえで、相互の納得のもとに就職するというプログラムや、2か月間の職務実習を経てよりじっくり就職を目指す「東京仕事塾」という制度もある。

 後者の2つには、受講者に1日当たり5000円の奨励金が支給されるというジェイック社との違いもある。

 ただ、東京しごとセンターの事業も、民間企業「パソナ」や「パーソルテンプスタッフ」が運営しており、純然たる公的支援というものではないことには留意すべきだろう。

 

 こうした民間企業が、非正規雇用者を対象にした事業を拡大し、正社員採用への支援を拡大していることは望ましいとは思うが、気になるのは運営を「政府・自治体が民間に委託している」という点だ。

 誤解を覚悟で言えば、人材紹介は「採用を実現させてなんぼの商売」であり、現在は精力的かつ良心的に事業を行っているにしても、今後同業他社の参入が相次げば、「マッチングありき」の風潮が強まる可能性は否定できないだろう。

 また政府・自治体による奨励金の求職者への支給や、雇用者側への受入準備金(1日6000円)や採用奨励金(10万円)が事業を支えている側面もあるはずで、この制度の変更次第では仲介事業者の姿勢が変わる可能性もある。

 

 加えて言えば、話は変わるが、正規社員と非正規社員の間にある待遇格差についても世の中は「同一賃金・同一労働」の方向に向かっており、これまでのように「何が何でも非正規から正規へ」という雇用者側の意識が変化していく可能性もある。

 

 個人的には、正規雇用への民間企業のノウハウを生かすのもいいが、「雇用」という厚生労働省の主幹業務を担う「ハローワーク」の大胆な意識改革と、業務拡充にも期待したい。