如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

死に至る「関係性貧困」という状況の怖さ

「生活保護でも幸せ」を訴える33歳女性の半生(東洋経済オンライン)

中村 淳彦 : ノンフィクションライター

 

 買い物依存症で生活が破綻、自殺を思い立つが直前に何とか回避、その後支援する関係者の協力もあって、先の見える人生を踏み出す――というストーリーの記事「『生活保護でも幸せ』を訴える33歳女性の半生」が9月4日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 インタビュー対象の女性のこれまでの人生に厳しいものがあるのに同情はしたが、まず記事のなかで気づかされたのは、貧困は「経済的貧困」だけではない。人間関係を失う状態に陥る「関係性の貧困」がある。というおそらくあまり認知されていない事実だ。

 

 この人の場合、運よく「就労支援センター」「相談員」「生活支援センター」の担当者に恵まれて、健全な生活の「基本方針」が定まったことが奏功したが、このケースは全体でみれば少ないケースではないか。

 

 「経済的な貧困」だけであれば、要するに「おカネ」すなわち生活費の問題なので、ケースワーカーに相談したりや役所の担当部署に行けば、生活保護を中心とする対応策が見つけられる可能性はある。もっとも役所では「水際作戦」で追い返されることも多いようだが。

 

 これに対して「経済的な貧困」に加えて「関係性の貧困」が絡んでくると、生活が破綻、食事にありつけない状況に陥っても相談相手がいないので、いわゆる「セルフネグレクト(自己放任)」状態となり、「不衛生な環境で生活を続け、家族や周囲から孤立し、孤独死に至る」(コトバンク)となる可能性が高まる。

 

 最近では、連日のように高齢者の孤独死が報道されるが、こうしたケースのほとんどは「関係性の貧困」が影響していると思われる。

 特に、戸建てのように庭の木々が伸び放題で、敷地にゴミが散乱し、付近の住人が気づくことも多いだろうが、「密室」に近いマンションやアパートに居住している場合は、変化に気づきにくいので発見が遅れがちだろう。

 

 やや古い調査になるが、平成 22 年度に内閣府経済社会総合研究所が調査委託した「セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査」によれば、見守りを行うためのネットワーク整備を行っているかを尋ねたところ、「全地域で実施済み」の自治体は 26.4%に留まっている(p5)。早急な対応が必要なのは間違いないだろう。

 

 記事によれば、今回は結果として本人が「就労支援センターの方々に支援をされたことで、お金があろうとなかろうと、生きていればそれでいいのかな。そう思えるようになりました」という新たな見地に立てたことで、現在は先の見えつつある状況にあるようだ。

  本人が33歳とまだ若いことで、自分から「就労支援センターに電話する」ことができたことで救われた側面があるのは間違いない。その意味では不幸中の幸いではあった。問題はやはり認知症などの病気も抱え、一人では行動できない高齢者対策だと思う。

 

 もっとも、本記事で伝えたい最大のポイントは、冒頭の「関係性の貧困」からの回避策にはこういう事例もあるということだろう。

 とにかく、何らかの形でアプローチできるハードルの低い相談窓口を整備して、世間に周知させることを地道に行うのが解決策の一歩にはなるだろう。

  同じような立場にいる人々や関係者に、この記事が少しでも役に立てばと思う。