如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

人財採用に「妥協は禁物」。常に「人材確保」の意識を

「採用してから育てる」がNGなこれだけの理由(東洋経済オンライン)

酒井 利昌 : アタックス・セールス・アソシエイツ 採用コンサルタント

 

 とある専門商社で即戦力のマネージャーを募集していたが、なかなか見つからない。焦っていたところに「これは」という人物が人材紹介会社から紹介され、トントン拍子で採用に至った。

 ところが、配属された部署の評価は散々。仕事は満足にできずに一年半で退職、指導したマネージャーも体調を崩すという、中途採用の失敗で想定外の「事故」に巻き込まれた会社の事例を紹介する記事「『採用してから育てる』がNGなこれだけの理由」が9月5日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 まあ採用担当としては、人材が必要な現場から「早く人を」と急かされるし、採用に手こずっていると自身の評価にも繋がるから、「焦る」気持ちは理解できる。

 

 特に会社が急成長して管理部門に手が足りなくなったり、キーパーソンが引き抜かれた場合などで起きがちで、自分の周りでもよく聞く話だ。

 

 記事では、この手の失敗の原因を「妥協して人を採用するため」としている。これは言われてみれば当たり前の話で、「人手」欲しさに「人物」の吟味ができないのだから問題が起きるのは必然である。

 

 今回は中規模の会社が1人のマネージャーを採用するという設定だったが、これは「大企業」の新卒採用でも同じような状況は起きている。

 これは採用担当の友人から聞いた話だが、どうも、一定期間内に数百人規模で学歴フィルターを使って採用すると、一定の確率で「はずれ」を引くのは不可避のようだ。

 

 記事もあるが、「育成しようにも本人の実力不足」というケースも多いのだろうが、大来業の場合は、「分不相応のプライド」が邪魔をして「自分のキャリアにふさわしいと思えない仕事」はまったく関与しないらしい。

 しかも、こういう話はすぐに他部門に伝わるので、人事部も別の配属先を決められない。結局「若年窓際族」になって辞めていくというのが常態化しているそうだ。傾向としては「高学歴」「意識高い系」に多いという。

 

 会社として「はずれの採用」をどう考えているのか聞いたのだが、「大量採用に伴うコスト」と割り切っているらしい。まあ大企業だから可能なのだろうが。

 

 いずれにせよ、どちらも「人手」の確保を最優先させた結果であることは間違いない。ようするに「妥協」で採用するから、採用する側も採用される側もお互いへの「理解不十分」のまま入社するため、その後実態がバレてお互いに不幸な結果を招くことになる。

 

 この問題の解決策は、記事にある「つねにいい人財はいないかと探し続けるのです。人手不足というマイナスの状態を±0にする採用でなく、±0からプラスにする採用を通年でやり続ける」というのが有効だろう。

 

 世間の採用傾向を見ていると、就職協定は形がい化して採用期間は伸びているし、「通年採用」の制度自体を廃止する会社も出てきた。

 

 また、大企業や経済団体も「終身雇用は維持できない」と宣言、採用する側は「必要な時期」に「必要な人材」を「必要な分だけ」採用するとう流れを強めるはず。

 一方、採用される側も「会社」の規模や知名度で選ぶよりも、「仕事」の内容など自分のスキルへ影響を優先する傾向が強まるのは間違いない。

 

 こうして大企業の人材採用傾向が変化すると、中途採用の人材市場にはこれまでに少なかった様々な人財が出回るようになる。これは冒頭のような中堅規模の企業にとっても「追い風」だろう。

 「追い込まれ型」採用から逃れることで、余裕をもって本当に必要な人材を見極める機会が増えるからだ。

 

 先にも書いたが、特に中規模以下の企業では採用にかかるコストは大きく、失敗は多大な損失を招く。

 これを回避するには、会社全体として「採用」への意識改革が必要だろう。これをけん引するのは経営トップの重要な役割だ。経営者自らが常にアンテナを張り巡らして、「いい人材を確保したい」という意識を持っていないと、採用の現場には伝わらない。

 

 経営という観点で考えてみれば、「製品開発」部門で、「常に一定の時期に自社のペースで研究・開発」で、などと呑気なことを言っていたらライバルとの競争に勝てる訳がない。

 適時、的確な判断と言う考えを「採用」の分野に展開するのは、ごく自然なことだとも言えるはずだ。