如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

コンビニATMの成長に限界か――セブン銀は新型機を導入するも

セブン銀「オワコンではない」新型ATMの勝算(東洋経済オンライン)

藤原 宏成 : 東洋経済 記者

 

 個人的にはコンビニのATMは結構利用する機会が多い。言うまでもなく、銀行の営業時間外やATM専用店舗が閉まっていても利用できるためだ。

 ただ政府のキャッシュレス化の推進などもあって、現金への需要が減りつつあるのも事実。

 こうしたなか、ゆうちょ銀行に次ぐATM台数を保有するセブン銀行が新型ATMで勝負に出たことを紹介する記事「セブン銀『オワコンではない』新型ATMの勝算」が9月15日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 記事によれば、世界トップレベルの顔認証機能や本人確認書類を読み取るスキャナー機能などを搭載し、現金の入出金以外のサービスにも対応できるのが特徴で、2024年までにすべてのATMを置き換える予定だ。

 

 セブン銀行の社長は「『ATMはオワコン』という声も聞こえてくる。しかし、ATMも進化する」と力説しているが、個人的な感想を言えば、ATMの機能が「進化」しても、利用度は「退化」するのではないかと危惧している。

 

 その理由だが、最大の要因はやはり「キャッシュレス社会の進展」。セブン銀行は、メガバンクや地方銀行などのATM維持費用軽減へのニーズを取り込んで成長、加えて、セブンイレブンの日々の売り上げをATMに入金させ、店舗及び本部の売上金管理の手間とコストを軽減することで、これまで順調に成長してきた。

 

 この成長の根本にあるのが「現金」へのニーズだ。この現金の利用度がキャッシュレス化で下がるのだから、ATMとしては逆境にあるのは間違いない。

 記事でも最後に南都銀行の店舗外ATMの運営受注を紹介しているが、ATM事業の生き残りの最大の方策は、こうした自行で管理しきれない地銀などの「ATMの運営受注」に頼らざるを得ないのが実態ではないだろうか。

 

 その「現金」を前提としたATM受注ビジネスも、今後地銀の合併等による銀行数の減少などで将来の見通しは甘くないはずだ。しかも今後は同業のローソンもATM事業に参入、さらに環境は厳しくなる。

 

 しかももとはと言えば、親会社のセブン-イレブン・ジャパンは、スマホ決済「7pay」の不祥事でケチが付いたとはいえ、電子マネーnanacoでキャッシュレス化を推進してきたコンビニの第一人者でもある。

 今回の7payの撤退を受けて、セブン-イレブン・ジャパンは急遽、nanacoの利用で取得できるポイントを、9月30日までの期間限定ながら、7月以前まで(100円で1ポイント)と実質的に同様の200円で2ポイントに還元率を戻している。7payの失敗で顧客が離散する可能性のあるnanacoへの繋ぎ止め策と考えれば、この期間は延長される可能性もあるだろう。

 また、あまり知られていないが、イトーヨーカ堂などグループ店舗での利用を前提としたnanacoと「一体化」や「紐づけ」が可能なクレジットカード「セブンカード・プラス」の年会費が最近無料になったのも、この一環だろう。新規加入のキャンペーン得点も盛りだくさんだ。

 

 つまり、セブン銀行を含むグループ全体を束ねるセブン&アイ・ホールディングスとしては、「脱現金化」の流れは避けられないものして、対応を進めているのだ。

 

 もうひとつの懸念材料は、顔認証機能を利用した新型ATMの利用価値。記事では、顔認証を活用した口座開設や、クーポンの配信などを計画しているようだが、セブンイレブンにはすでに、住民票や各種チケットの発行が可能な「マルチコピー機」が設置されており、個人的にも利用している。

 

 顔認証機能をより生かすというなら、「現金」利用を前提にしたATMよりも、マルチコピー機を「キャッシュレス化」対応の一環として取り込んだ方が効率的ではないだろうか。

 

 顔認証機能による口座開設には、「ペーパーレス」効果ぐらいしか期待できないし、そもそも今では銀行も証券も、顔写真や証明書類をスマホで撮って添付すれば、インターネットでも口座開設はできる。

 

 よくわからない新機能が「ヘルスケアサービス」だが、おそらく遠隔医療サービスの拡充を見込んで、現在のスマホのカメラでは不可能な「高度な画像分析技術」を生かしたサービスなのだろうが、想定される顧客はおそらく「高齢者」。

 そうそう頻繁にコンビニにいくとは思えないし、医師との会話もない「デジタルな」医療関連サービスがどこまでなじむか疑問もある。

 

 とは言え、メガバンクを中心に金融機関のATMの縮小は不可避な一方で、顧客の利便性を考えるとセブンATMへのニーズが当面根強いのも確かではある。

 新型ATMの機能がどれほどのものかはまだ見通せないが、世の中全体の「現金」縮小の流れを押しとどめるまでの効果がある、とまでは考えにくい。

 

 2015年には661円の高値を付けたセブン銀行の株価が、その後低迷を続け現在は半分以下の300円を割り込んでいるのは、ATM事業の将来性を暗示しているようにも見える。