如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「強制転勤」を続ける会社は人材難に将来直面する

不都合だらけ「強制転勤」はこうして撲滅できる(東洋経済オンライン)

横山 由希路 : フリーランスライター・編集者

 

 「転勤」というと、いわゆる「栄転」「左遷」というイメージのほかに、「志願」「強制」という側面があると思うのだが、918日付けの東洋経済オンラインに掲載されたのは、このうち「強制」転勤の影響と企業の対応について書かれた「不都合だらけ『強制転勤』はこうして撲滅できる」というタイトルの記事だった。

 

 基本的なスタンスは強制転勤によって、共稼ぎや単身赴任の場合、仕事や育児で様々な問題が生じる、ということだ。

 記事にあるように、共稼ぎの場合、夫が転勤する場合に妻・家族が帯同すれば仕事を辞めるというのが現在ではまだ一般的だし、現地での仕事には就労ビザの問題がある。単身赴任となれば、家事・育児はすべて妻の負担になってしまう。

 

 確かに、共稼ぎ世帯の方が専業主婦世帯を上回っている現状では、「収入の減少」「妻の家事等の負荷増加」はつらいものがある。子育て世代では住宅ローンの返済もあるだろうし、夫婦で分担していた家事・育児が妻一人で対応するのでは、生活に余裕がなくなるのは確実だ。

 

 この大きな負荷の要因として、記事では「労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査によると、国内転勤で赴任1週間前、海外でも赴任1カ月前の辞令がザラ」という調査結果を紹介している。

 これは個人的な見方だが、特に金融機関の場合「赴任通知」が一週間前というのには事情がある。あまり表ざたにはなっていないが、顧客との間で金銭的に不適切な関係があった場合に備えて、社員がその取引の隠ぺいにかける時間をなくすという意図があるという話を、当事者から聞いたことがある。

 ちなみに、同機構のレポート「企業における転勤の実態に関するヒアリング調査」によれば、ある金融業では転勤の内示が赴任「当日」という事例もある(p29)。

  一般的な転勤者にとっては迷惑な話だが、こういう事情があることも指摘しておきたい。

 

 記事中ごろからは、(他社に勤める夫の強制転勤)への対策として、サイボウズで最近はやっているという女性の「リモートワーク」の事例を紹介してる。具体的にはイタリアのナポリで仕事をする女性なのだが、これは同社が24時間クラウドサービスを提供するという事業を手掛けていることも影響しているはずだ。

 

 まだこういった事例は少ないだろうが、夫婦共稼ぎ世帯が今後も増加傾向にあることを考えれば、将来の結婚を考える新卒、強制転勤の可能性に怯える世帯などは、待遇を重視して会社を選別する傾向が強まるだろう。

 終身雇用制度の崩壊、転職への抵抗感の低下、仕事とプライベートの両立などで、自分や家庭をより重視する若い世代は増えている。

 

 しかもカネカの事例のように、転勤に伴う不都合な関係がSNSで拡散するようになり、今まで表に出てこなかった会社側の対応が、世間に広く認識されるようになった。「悪い」評判が広まれば、「良い」人材が集まらなくなるのは言うまでもないだろう。

 

 この問題でカギとなるのは会社の人財部門及びそれを統括する経営陣の意識だろう。現場の若い世代には当然危機意識はあるだろうが、経営者の意識が変わらなければ「強制転勤」問題は解決に向けて進展しない。「業務命令なのだから転勤に従うのは当たり前」という前時代的な意識では、社員は納得しなくなりつつある。

 

 有名大企業の一部はその知名度と社会的ステイタスから危機感が薄いかもしれないが、多くの新卒の卒望動機はすでに「会社名という他者の評価」よりも「自分の価値観によるスキルと生活の向上」に変化してきている。人材の流動化も加速するのは間違いないはずだ。

 

 もう数年もすれば、「リモートワーク」「サテライトオフィス」「個人事業主契約」といったスタイルは一般化しているだろう。

 その観点から見れば、組織が硬直化しておらず、経営陣の考え方も柔軟な社歴の若い中小企業の方が、対応力という点では有利かもしれない。