如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

親会社の人事で使えないのは「天下り役員」だけではない

なぜ親会社からの使えない「天下り役員人事」はなくならないのか(ダイヤモンド・オンライン)

秋山進:プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役

 

 日本企業の特に子会社を多く抱える大企業で慣例的に行われてきた「天下り役員人事」の不合理性を指摘する記事「なぜ親会社からの使えない『天下り役員人事』はなくならないのか」が9月23日付けのダイアモンド・オンラインに掲載された。

 

 天下りと言えば「高級官僚」が代名詞だが、記事では民間企業を引き合いに出している。天下り人事の問題はすでに広く世間に知られていることだが、記事では「グループ会社の社長人事は、経験値やスキルに照らしたうえでの最適配置ではなく、本社役員の処遇問題として処理されている」と指摘している。

本人の能力に関係なく、その時点の本社の役職に見合った子会社の役職(名目上の地位は上)に異動することに起因しているという解説だ。

 

 本人の能力に関係なく、子会社の役員や管理職に登用されるのだから、押し付けられた子会社はたまったものではない。

 大体の場合、親会社出身というプライドがある一方で、子会社に飛ばされたという負い目もあるので、新天地で心機一転実力を発揮しようという人間はまずいない。

 

 さらにやっかいなのは、親会社のルールが絶対だと思い込んでいて、子会社の実情も知らないのに、現場の仕事の進め方に文句をつける輩が多いことだ。これならまだ、何もしないで役員室に閉じこもっていてくれた方がありがたい。

 

 子会社の立場からすれば、親会社からの天下り人事は「仕事を確保するための人質」のようなものなのだ。仕事を発注してもらうためのコストと割り切れるからこそ、役に立たない天下りを受け入れているのであり、元々仕事で活躍してもらおうなどとは期待していないケースが多いだろう。

 

 さらに言えば、この天下り問題は「低年齢化」しているという現実がある。富士通など名だたる大企業が45歳をターゲットにリストラを始めるなど、本社要員の削減は50代以上の幹部社員だけではなく、その下の中間管理職世代まで進行しているのだ。

 

 もちろんリストラなので、完全に退職して別会社に移籍する人も多いだろうが、少なからぬ人材が子会社に向けられている可能性はある。

 こうした若い世代の「子会社への転籍」の最大の問題点は、本人の気力・体力は十分なのだが、仕事の方向性が「親会社」に向いていることだ。つまり、子会社で実績を上げれば親会社に復帰できるという「希望」が心の支えなのである。

 

 以前は「修行」と言う意味合いを兼ねて本社復帰を前提にした、海外を含む関連子会社への出向は珍しくなかったが(給与格差は本社が補填していた)、現在の本社にはそんな余裕はない。

 

 本社からきた人材の叶わない夢のために「本社向け」の仕事に追い回される子会社の社員には理不尽としか思えないだろう。

 しかも本人が本社に戻ることはないと自覚した段階では、すでに現場は疲弊しきっている。管理職も社員も新たな事業に取り組む気力は残されていないはずだ。現場にはペンペン草すら生えていないかもしれない。

 

 記事では「社外取締役」の出番だと主張しているが、必ずしも外部から招へいしたプロの経営者が成功のカギになる訳ではないことは、日産自動車、オリンパス、LIXILなどの例で実証済だ。

 

 安易に外部の力に頼ろうとする経営者の気構えも問題だろう。大企業であれば様々な事情で「埋もれた」優秀な人材も多いはず。彼らを「発掘して生かす」人事を考えることが先決ではないだろうか。