日本ではなぜ人口減でも大学が増え続けたのか(東洋経済オンライン)
木村 誠 : 教育ジャーナリスト
最近では「私立大学の40%近くは定員割れ」という事実は広く認知されるようになったが、この事態に関して、その経緯と現状、そして逆境下で奮闘する大学を紹介する記事「日本ではなぜ人口減でも大学が増え続けたのか」が9月30日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
記事ではまず、18歳人口の減少と首都圏特に東京近郊の大学への進学志向にも関わらず、地方の大学が増え続けたのは、地方自治体が既存の学校法人と協力し、財政支援をする「公私協力方式」と、その後の実質的に公設でありながら法的には民営(学校法人)という「公設民営方式」という2つの大学開設制度が影響したためと解説している。
このどちらも失敗に終わった結果、今度は起死回生策として行ったのが「設置者変更による私大の公立化」である。
この試みは、前の2つと違って成功例が出ている。例えば秋田の公立「国際教養大学」はその独自の教育プログラムが評価されて河合塾による入試難易予想ランキングでは東大、一橋大に引けを取らない。
もっとも現状は、私立大学の経営は低迷を続けていると言える。先の40%割れと言うのは「全国」の集計であり、「地方」に限定すれば50%は超えているだろう。
この原因はひとえに、地元の大学に通う魅力を高校生が感じられないからに尽きる。何ら教育プログラムに特徴もなく、キャンパスもただ広いだけで学生生活も楽しめそうもない、しかも就職実績は見るべきものがない、となれば進学したいと思う志望者がいるはずがないのである。
最近では、 福井県など13県でつくる「自立と分散で日本を変えるふるさと知事ネットワーク」が9月3日に、内閣府に「大都市圏の大学の定員を削減し地方大学の定員拡大を促進すること」などを提言しているが、地方私大の現実をまったく理解できていないとしか思えない。
提言した福井県知事などは、同じ日本海側にある国際教養大学を少しは見習えと言いたい。もっとも当事者は事情を分かったうえで、県民や支援者へのポーズとして出向いたのが実情と信じたいが。
結局のところ、大学進学率がこの30年間で50%強まで上昇したとはいえ、それ以上のスピードで大学(特に地方)を増やしたことが、定員割れの主因なのだ。
ではなぜ、経営難の地方の私立大学が生き残っているかと言えば、「補助金」と「地元の勉強意欲の乏しい学生」に支えられているからだ。
特に、いわゆるFランクと呼ばれる偏差値の付けようがない「ボーダーフリー」「フリーパス」の大学においては、学生のレベルに問題がありすぎるケースが多いと思う。
というのも、この水準の大学には、自分の意志で行きたい大学を選んだのではなく、「親がとりあえず大学に行っておけというから」とか「高校の教師がお前でも行ける大学があるというから」などの理由で、進学する方が圧倒的多数ではないだろうか。
よって元来勉強する意志のない学生しか集まらないから、勉学において積極性や向上心などは望むべくもなく、クラブ活動などにも消極的。就職にあたって何の努力もしない。
その結果は、地元の中小企業にしか採用されないという結果になる。まあ元々彼らは地元志向が強いので、卒業後の人生も地元で「完結」するのが本望なら、これで構わないのかもしれないが。
ただ補助金を使って運営している以上、「大学」レベルの教育をするのは最低条件だろう。それすらできない大学には存在価値があるとは言えないはずだ。
記事では、情報科学の専門性や地域貢献などで評価を高めた公立の「会津大学」や、今後ニーズが高まる介護など医療系の私立大学の新設を紹介しているが、こうした独自の努力と経営改革で奮闘している個性的な大学も存在する。
補助金に依存した低レベルの大学には、早々に退場願った方が、日本の大学の「質」を確保するためにも、良いと思うのだが。