「できる事しかやらない部下」を覚醒させる方法(東洋経済オンライン)
伊庭 正康 : らしさラボ代表
どこの会社にも、「まだ若いのに新しい業務を受けたがらない」「ベテランなのに年齢相応の仕事をしてくれない」と悩む管理職は結構いると思う。
こうしたちょっと「面倒な」社員を、戦力として生かす手法を紹介する記事「『できる事しかやらない部下』を覚醒させる方法」が10月2日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
結論から先に言えば、「言われてみればその通りの王道」ではあるが、具体的かつ分かりやすい文体で、納得、好感を持てる記事だった。
具体的な内容は記事を読んで頂くとして、簡単に趣旨を引用すると「失敗を恐れる若手には、小さな成功体験を積ませる」と「ベテランには経験を生かせる思考力、説明力を生かせる仕事を任せる」の2点だ。
若手に関して言えば、私自身の見方は、記事にあるような「能力はあるのに事なかれ主義の消極派」と「能力が低いのに意識だけは高い系の積極派」の二極化がやや進行しているような気がしている。
上司や周囲とうまく「間合い」を取りながら、先輩の仕事を「見習って」自分から成長していくような、会社にとって「手のかからない若手」は減ったのは確かだろう。
とは言え、「若手を育てる」のもマネジャーの仕事だから、相手に自主的な変化を求めるのではなく、変化できるような環境を与えることが重要な訳で、その観点から記事にある「半年かけて“自己効力感の種”を植える」というのは、実効力のある対策だと思う。
「自己効力感」とは、「自分ならうまくやれる」と思える感覚のことで、この積み重ねで少しづつできる仕事の範囲を広げさせていくというのは合理的だろう。当然ながら個人差はあるので、任せる仕事の水準や期限には細かい配慮が必要だが、自分でできる仕事の範囲が広がっていけば、仕事を多面的に見るようになると思うし、その結果仕事への「判断力」は高まるはずだ。
自分の「判断」でこなせる仕事が増えていけば、自然と仕事の「面白さ」と「難しさ」への理解が深まるので、消極的な姿勢は変化していくだろう。
こうなれば、マネジャーとしての仕事はとりあえず「成功」である。
一方、ベテランに対しては、経験を生かせる仕事を任せるのは「王道」ではあるのだが、その手法には気を付けたい。
ここで言うベテランとは例えれば「役職定年を迎えた年上の部下」が該当すると思うのだが、総じて彼らの心理状態は、「役職も部下もいないので仕事をする覇気がない」か「部下はいないがこれまで通り自分主導で仕事を進めたい」のどちらかであることが多い。
つまり、仕事に対する意欲が「まったくない」か「分不相応にありすぎる」の両極端なのだ。これがベテランへの対応を難しくしている。
前者について言えば、「年下の上司」にとっては、現実にはできることは限られるだろう。ベテランに少なくとも一定の分野で経験があるとしても、新しい仕事には抵抗もしくは後ろ向きの反応しか示さない可能性が高い。
記事の趣旨とは反するが、こういう人たちには「馴染んだ定型ルーチンワーク」を任せるのが最善策だと思う。無理に嫌がる仕事を任せて「マイナス」の結果を生むよりは、現状維持の「プラスマイナスゼロ」の方が、相対的には評価できるからだ。やや後ろ向きの対策だが、現実的だと思う。
後者に対しては、有効な方法として「プライドをくすぐる」がある。そもそも人に物事を教えたり、指導するのは好きなのだから、あとはその仕事の「内容」に配慮すればいいのだ。
何の指示もなく「若手の相談に乗る」「新人に仕事を教える」などを任せると、大体の場合「指導と言う名の自慢話」になる可能性が高い。
仕事を依頼するにあたっては、慎重かつ丁寧に「具体的に関与できる仕事の範囲を決めておく」ことが必要だろう。
こちらは先の若手と逆で、放っておくと「暴走」する傾向があるので、常にウォッチしておく必要がある。
記事では最後に、「いいマネジャーかどうかは、部下の眠れる力をうまく活用できるかどうかで決まると言っても過言ではない」と持論を披露している。
これには私も諸手を挙げて賛成したい。マネジャーの本来の仕事は「自分がいかに仕事を効率よく大量にこなす」ではなく「いかに部下にいい仕事をさせて、成長させられるか」だと思うからだ。
会社の財産の柱の一つは人材(人財)である。会社が成長するにあたって、社員の成長が欠かせないのは言うまでもないだろう。