QBハウス、1割値上げでも客数減“起きず”大幅増益…低価格&高い技術で「敵が不在」状態(Business Journal ビジネスジャーナル)
佐藤昌司/店舗経営コンサルタント
ヘアカット専門店「QBハウス」が値上げしたにも関わらず、客離れが起きず業績は絶好調という状態を紹介する記事「QBハウス、1割値上げでも客数減“起きず”大幅増益…低価格&高い技術で『敵が不在』状態」が10月5日付けのBusiness Journal(ビジネスジャーナル)に掲載された。
記事では、今年2月に税込み価格を1080円から1200円へと約1割も引き上げたが、値上げ直前の6カ月の前年同期比(2.7%増)を、2月以降は毎月最低でも同7%増と大きく上回る状態が続いているという。
焼き鳥チェーンの「鳥貴族」や天丼チェーン「てんや」が同様に値上げをした結果、今年8月まで客数や売上高が長期にわたって低迷しているのとは対照的だ。
常識的には、値上げはマイナスのインパクトが強いので、値上げ直後から逆に売り上げ増加が続くというのは異例の事態とはいえるだろう。
記事では、
・1000円台前半でカットできるところはかなり少ない
・駅周辺や商業施設内など好立地の店舗が多い
・東証1部に上場するなど高い知名度を獲得
を理由として挙げ、「代替となる理美容室は少ないので、QBハウスの差別化の度合いは高い」と分析している。
また、独自の従業員育成ノウハウによる「高い技術力」が強みなうえに、その技術も習得するのに一般的な理美容室では2~3年かかるところを、わずか「6カ月で習得」できるという効率性も奏功している、としている。
ただ、記事では「価格」「立地」「知名度」などを差別化の主因として紹介しているが、QBハウスのWebサイトを見ると、同社のアピールポイントはやや異なるようにも見える。
というのも、サイト最上段の一番左にある「QBハウスとは」を見ると、まず目に入るのは「10分へのこだわり」という「時間」をアピールしている。次に紹介しているのは「衛生面へのこだわり」だ。
要するに「安さ」「身近」よりも、「短時間」「きれい」をウリにしているのである。
しかもサイトでは「新しいカットのご提案」として、「髪型を極端に変えることなく個性あるベストスタイルを維持するため・・・月に2回は是非ご利用ください」と提案している。
ちなみに私自身が理容室に行く頻度は、2カ月に1度が基本だ。これは少ない方だと思うが、毎月1度というのが平均的だとすると、月2回来店してもらえれば、売り上げは2倍になる。
もっとも、これはあくまでQBハウスの「提案」であり、実際に2回行くような「髪にこだわりのある人」はお気に入りの担当者がいる「より高い美容室」を利用するとは思うが。
記事では最後に、競合する同業が見当たらないとして「1000円台中ごろまでであれば、値上げは大丈夫ではないか」と結論付けている。
ここからは私の見解だが、1000円台中ごろへ現状のままのシステムで値上げをした場合は、売り上げへの影響は小さくないと思う。
というのは、私の住んでいる都心からやや離れた郊外では、1500円から1800円ぐらいで「シェービング」「シャンプー」に加え、簡単な「肩もみ」まで含まれたフルサービスを売り物にしている理容室が、駅近くに数件はある。
従業員が多く分業が進んでいるので時間も30分程度だし、混雑度、清潔感もQBハウスと大差ない。同じ価格ならフルサービス店を選択する人も多いと思う。
加えて言えば、「シェービング」は自分でできるとは言っても、額やまぶたなど目の近くはプロに任せた方が安心だろう。少なくとも私は「まぶたを自分で剃ろう」とは思わない。
一方で、今後も長期低迷が続きそうなのがいわゆる「街の床屋さん」だ。どっしりとした安定感のある椅子に、バリカンを使わずにハサミでの調髪、店によってはシャンプーが二回もあって、時間もたっぷり一時間はかかる。価格も4000円台が多いと思う。はっきりいえば「時間とおカネのある人」しか利用しないだろう。
こうした昔ながらの理容室を利用するのは、もはや近所の「おじさん」といった高齢者ぐらいだろう。顧客がQBハウスなどに奪われているので、この先回復も見込めない。
それでも営業を続けられるのは、一般的な小売店などと違って「在庫」負担がないためだろう。よくある自宅の一階を店舗にすれば賃貸料もかからない。コストの大半を自分の人件費が占めているので、その他の固定費比率が低いことは逆に「強み」ではある。
以上、理容室業界の先行きを展望すると、QBハウスが値上げをすれば勢いは止まり、フルサービスの低価格店が見直される一方、昔ながらの床屋は細々と生き残る、ということになると思う。