如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

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後付けカーナビは消滅へ――トヨタはモニタを「素」で販売

カローラから始まったカーナビ専用機の大転換(東洋経済オンライン)

桃田 健史 : ジャーナリスト

 

 乗用車のカーナビゲーションにおいて、後付けの製品が消滅するかもしれない――このようなカーナビの未来を予想する記事「カローラから始まったカーナビ専用機の大転換」が10月14日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 記事の要点をまとめると、トヨタは2019年9月に発売された「カローラ」以降、すべての乗用車のモデルチェンジのタイミングで、オーディオ再生機能のみを持つ「素」のディスプレイを提供、ユーザーは必要に応じてナビ機能などをオプション等で組み込むというスタイルになる。

 しかもオーディオ機能と言ってもCD、DVDデッキは搭載されていない。音楽はネット接続での利用を前提にしていると思われる(ラジオは標準装備)。

 

 しかも驚くべきはその価格だ。無料のLINEカーナビを使うのであれば標準装備だけで済むので無料。それ以外のナビアプリを使う場合は「キット」を購入することになるが、これが3万3000円(税込み)。トヨタのエントリーナビシステムを搭載した場合でも6万6000円(同)だ。

 これは現行のカローラフィールダーの搭載可能な純正ナビの最も安いエントリーモデル(85,800円)よりも、20%以上安い。

 

 記事では、「仮にT-Connectなどをフル活用した最上位パッケージを買ったとしても20万円でお釣りがくる計算」としているが、これは確かに安い。

 ちなみにほぼ同じ価格帯のミニバン「シエンタ」を例に出すと、最も高いナビは30万5800円もする。

 シエンタの最も安いモデル(FUNBASE X)の価格が180万9500円だから、このナビを買うと本体価格の約17%を占めることになる。これにETCやバックカメラを搭載したら20%を超えるだろう。純正カーナビの価格は高くなり過ぎたと言っていい。

 

 このように純正カーナビの価格が上昇する中でユーザーは、スマホを運転席の前に置いて、スマホアプリでカーナビを代用するようになった。

 ちなみに「Yahooカーナビ」なら、地図もナビも更新は無料、交通情報もしっかり提供される。確かに画面は小さいので地図の利用勝手は悪いが、音声案内で走行する分には特に支障もないだろう。

 

 この状況に危機感を覚えたトヨタが、利益率の高い純正カーナビという「ハード」にあえて見切りをつけて、T-Connectというネットワークサービスの利用を促す「ソフト」路線に切り替えたと思われる。

 T-Connectは車両の状態や緊急時の通報など24時間サポートする機能だが、対応ナビ購入から5年間は無料、その後は年間3630円となっている。

 高齢運転者が増えることや、万が一の安心機能としてニーズは高まるのは間違いないだろうし、月額換算で300円というのは安心料として考えれば高くはない。

 

 一方、トヨタにとっても大きなメリットが2つある。ひとつは年間制のサブスクリプションモデルになっていて、一度契約したらそのまま継続利用するユーザが多数見込めること。一台当たりの金額は少なくても販売台数が多いので、総額ではバカにできない水準だろう。

 

 もうひとつは、2020年までに標準搭載される「DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)」だ。

 これは、ネットワーク機能介して車両、走行状態を一分ごとに自動送信するもので、トヨタは受信した膨大なデータを、渋滞情報の提供や走行パターンの分析などに生かすことが可能になる。

 現在は、二年目以降年額1万3200円だが、T-Connectの価格に合わせて改訂される可能性もある。

 

 いずれにせよ、トヨタがオプション品のなかでも利益率の高い純正カーナビを、汎用品に置き換えたインパクトは大きい

 少なくとも、向こう数年で「ケンウッド」「パイオニア」「クラリオン」といったカーナビの売上比率が高いメーカーへの影響は多大だろう。後付けのカーナビ製品は「音質」にこだわるような、ごく一部のマニアを対象にした製品しか生き残れないかもしれない。

 

 組み込みROMから始まったカーナビは、CD-DOM、DVD、メモリーカードという変遷を経て、ネットワーク社会に組み込まれる形で、「ハード」から「ソフト」が主体の製品へと変わりつつあるようだ。