「駄目なマニュアル」が組織にのさばる深刻度(東洋経済オンライン)
中田 亨 : 産業技術総合研究所 人工知能研究センター NEC-産総研人工知能連携研究室 副連携室長
世の中にいかに「使えない」マニュアルが存在し、その理由を解説する記事「『駄目なマニュアル』が組織にのさばる深刻度」が10月15日付けの東洋経済オンラインに掲載された。
記事では。「駄目な」マニュアルを以下に5つに分類、解説している。
・仕方なく作ったマニュアル
・責任回避手段としてのマニュアル
・判断を奪うためのマニュアル
・門前払いのためのマニュアル
・すでに存在しているという理由だけで使われ続けるマニュアル
どれも、過去に経験した仕事を振り返ると思い当たることがある人が多いのではないだろうか。
まず、ここで挙げられたマニュアルに関して言えば、どれも「後ろ向き」に作られたという特徴がある。
また、後任者へと仕事を引き継ぐうえで、その「最低限」の内容を「分かりにくく」記載しているという共通点も挙げられる。
つまり、「定型作業」を「そのまま」、「次の担当者」に引き継ぐまでの「言い訳と時間稼ぎのツール」になっているのだ。
しかも、やっかいなことに長年職場で使われてきただけに、「金科玉条」のような存在になっていて、誰も何の口も出せないような扱いになっているケースも多い。
昭和の時代ならまだしも、仕事を取り巻く環境が加速度を付けて変化しているなかで、その仕事の手順を書いたマニュアルが、令和に入ってからもそのまま通用することは少ないはずだ。
記事にも、「マニュアルが読者に与えるべきは、「被統制」とは全く逆の「自主的な統制」への助け」とあるように、マニュアルはあくまで仕事をするための「参考」とすべきで、本来、仕事を進める上での改善点などを見つけるための「出発点」に過ぎない。
また、マニュアル最優先型の「頭の固い」社会人にありがちなのだが、「マニュアルも所詮人間が作ったもの、欠陥はあって当たり前、それをより良いものに常に改善していくのがマニュアルのあるべき姿」という認識ができていない。
とは言え、実際の世に出回っている多くのマニュアルは新人などに「効率的に仕事を覚えてもらうためのツール」になっているのも事実。
ファストフードやスーパーのレジや、コールセンターの受付など、仕事の内容が一定の範囲に収まっていて、例外として「マニュアルにない問題が発生した場合は上司の指示に従う」という規則が徹底しているような、定型作業がほとんどを占める職場では、既存のマニュアルをいかに早く理解するかが最優先項目だろう。
現場で仕事をするパートやアルバイトに「マニュアルの改善・更新」まで意識して仕事を任せるのは、支払う給与に対して期待値が高すぎる。少なくとも現場を知るリーダー以上の仕事だろう。
では、現場により「早く」「分かりやすく」理解してもらえるマニュアルとは、どういうものなのか。それは「想像力を持つマニュアル」である。
これはあるテーマパークの従業員マニュアルにある内容だが、迷子になった子供への対応方法として「子供が安心するように、自分が子供の目の高さになるまで腰を落として」とある。これを読んでその内容が理解できない人は少ないだろう。顧客の目線に立って、しかも具体的に説明している。
同じ対応策を想像力を働かさない人が書くと「迷子は見つけ次第、迷子センターに届ける」といった無味乾燥な内容になるはずだ。間違いではないが、親切でもない。いわゆる最低限の必要事項を書いたに過ぎない。これでは到底「役に立つ」マニュアルとは言えない。
この差は、現場を知ったうえで、より効果的な対応を考えるように常に意識してマニュアル作りに取り組んでいるかどうかによる処が大きいだろう。
マニュアルは「必要」ではあるが「十分」ではない、という認識を社員が共有する企業はまだ伸びしろがあると言えそうだ。逆もまた然りだが。