理想の女性に条件70コ求める41歳男の結婚願望(東洋経済オンライン)
姫野 桂 : フリーライター
41歳という日本の就職氷河期世代にも関わらず、人と異なる人生を選択したことで結婚相手としての条件は悪くないものの、「高望み」という別の問題で結婚を模索する男性を紹介する記事「理想の女性に条件70コ求める41歳男の結婚願望」が10月16日の東洋経済オンラインに掲載された。
男性の経歴を簡略すると、医学の道を選ぶが日本の大学ではなく米国を目指し、結局心理学の大学院に進み、セラピーとして勤務、そこで得た日本人顧客の勧めもあって帰国後に日本で開業している。仕事は順調のようだ。子供が好きなので結婚したいとのこと。
記事のタイトルにもあるが、年齢的に妥協しがちになりがちな40代にして、結婚相手に求める条件が70項目以上もあったのにも驚いたが、結婚相談所に登録したら20万人の在籍者のなかで5人も該当者がいたというのも意外だった。
この手の就職氷河期世代の結婚事情という話になると、大学の進学難易度が急上昇して、不本意な大学に入学、さらに上場企業を希望するも就職難でアルバイトなどの非正規労働が続き、気づいたら40代で結婚が「年齢」「収入」の両面で困難に――というストーリーが定番だったのだが、その意味では異色の記事と言える。
今回の記事で注目したいのは、就職氷河期世代であっても結婚相手に困らない人もいるという側面もあるが、ポイントはそこに至った経緯だ。
一言で言えば、「他人と違った価値観で人生を柔軟に選択している」ということだ。
高校卒業後に米国留学するというのも、当時は現在ほど一般的ではなかっただろうし、当初は医師を目指すが、奨学金の有無などの条件を考慮して、心理学に転向している。その後も米国でセラピーとして職を得るも、顧客を確保したうえで心理士として帰国・開業という、結果から見れば「合理的」な選択をしている。
現在、日本で就職難に苦しんできた氷河期世代の人々とは全く異なるキャリアを自分で考えて実践している点で、周囲と同じ環境のなかで同じような道を進み、同じように苦労している同世代には、遅きに失したが「こういう人生の選択肢もあったのか」と感じさせる点も多いだろう。
もっとも、最近では超進学校の優秀な生徒も東大ではなく米国の一流大学を目指す人は増えているようだし、国内でも秋田の公立・国際教養大学のように東大並みの偏差値の大学も出ており、公立・私立を問わず人気が高い医学部も、入学のハードルの高さからハンガリーの大学の医学部を選択する傾向もある。高校生の進学の選択肢は広がりつつある。
大学進学と同様に、就職の選択肢も変わってきた。総合商社や一流メーカーなどの人気は相変わらずだが、一流大卒の間では、外資系のコンサルタント会社が人気を集めて、相対的に国家公務員の希望者は減っている。「学歴」だけで「出世」できる時代は終わったことに学生はとうの昔に気付いているのだ。
記事で紹介された男性は、70ものチェック項目を挙げたことで、非常識な高望みをしているようにも見えるが、これだけは譲れない項目のひとつとして「食とお金の価値観」を挙げている。
容姿や性格といったどちらかと言えば「個人的な嗜好」ではなく、それらよりは現実的な内容を挙げたことからも、理想と現実を冷静に区別する判断力の持ち主であることがわかる。
世間の価値観が多様化するなかで、何が重要で、何が自分に必要なのかは、当然ながら個々によって異なる。自分自身の「行動の判断基準」や「物事への価値感」をしっかり維持しないと、周囲に流されるだけの人生になる。
記事にある男性の結婚感はともかく、自分の人生を「自分で決める」ということは、多くの人が思っている「決めたと思っている」こととは本質的に違う。
例外的な存在ともいえる就職氷河期世代の「成功例」を記事で取り上げたのは、このことに気付いてほしいという著者や編集部の狙いがあるのではないだろうか。