如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

Amazonは配送業務でも主導権を確保、ただトラブルリスクは増大も

ヤマトがアマゾン向け運賃を値下げ!2年前の値上げから一転の事情(ダイヤモンド・オンライン)

ダイヤモンド編集部 柳澤里佳:記者

 

 ヤマト運輸がAmazonとの交渉で、「宅配の荷受け量を増やし、一部運賃を値下げしたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった」という内容の記事「ヤマトがアマゾン向け運賃を値下げ!2年前の値上げから一転の事情」が10月22日付けのダイヤモンド・オンラインに掲載された。

 

 記事では、当初ヤマト運輸は20年以降「値上げ」の予定だったが、今回の交渉で据え置きか値下げで合意した、と関係者のコメントを紹介している。

 

 その理由として、大口法人1000社の「荷主離れ」が進行し、Amazonの値上げ分では取り戻せないほどの機会損失が発生していることが挙げられる。

 

 一方のAmazonは、2017年のヤマトとの配送料交渉で、「いかに配送の現場が疲弊しているか」がマスメディアなどで報じられ、世論がAmazonがヤマト運輸を「業務委託先いじめ」しているような印象を持ったことで、社会的な批判を危惧したAmazonが大幅な値上げを受け入れたというのが実態と個人的には思っている。

 

 その後Amazonは配送業務の1社専属契約のリスクを意識して、地域に密着した複数の中堅配送業者「デリバリープロバイダ」との契約を急ぐことになる。複数社との契約交渉の手間はかかるが、料金交渉の柔軟性は上がる。

 

 デリバリープロバイダにとっても、それまでヤマト運輸などからの「下請け」で抑えられていた配送料金が、Amazonとの直接契約で引き上がるという効果もあったはずだ。

 

 一方で、このあおりを食らったのがAmazonの「顧客」。それまではヤマト運輸の制服を着たお決まりの配送員が業務を担っていたが、見たこともない制服を着た人が入れ替わり来るようになって戸惑った人も多かったのではないか。

 

 さらに最近になってAmazonは「Amazon Flex」という名称で、個人事業主との配送業務の直接契約を進めている。

 これには、デリバリープロバイダという中間業者との取引を省くことで、さらに配送料金の値下げを目指すと同時に、自社の配送網を整備するという狙いがあるのは明白だ。

 

 ここでも問題になるのは、配送員の「質」だ。デリバリープロバイダの登場で配送員の質に多少のバラツキが生じたが、個人事業主との契約によって配送員はまさに「玉石混交」になりかねない。

 

 この辺りの事情は10月19日の当ブログ「個人事業主の配送業務、問題は今後拡大する可能性がある」でも指摘したが、結論から言えば、「会社の従業員」として働く場合、会社員としての自覚が多少なりとも働くので、顧客とのトラブルは抑えられる効果はあるが、これが「一個人」として仕事を請け負う場合、このブレーキが効きにくくなる。

 

 つまり配送に伴うトラブル(遅延、破損、返品など)で、配送員が自分の判断や感情にまかせて行動する可能性は高まるだろう。

 実際に最近、自宅に来た個人事業主と思われるAmazonの配送員は、チャイムを鳴らした後、無断で私有地である庭に入り込んで玄関先まで荷物を持ってきた。しかも無言で伝票を見せて、押印しろと言うムードまで漂わせてい過去にはこのような不愛想かつ不気味な配送員は一人もいなかった。

 

 個人的に危惧しているのは、若い女性の一人暮らしなどのケースだ。配送員が女性の顔と住所を覚えることで、何らかの事件に巻きもまれた場合、Amazonは「あくまで個人事業主との契約なので」という立場で事態を乗り切れると考えているのだろうか。

 

 法律上は問題なくても、個人事業主と契約したAmazonの社会的な責任を追及する声は上がるだろう。これは2年前にヤマト運輸が世論を味方につけて、Amazonが渋る値上げを認めさせた構図に重なる部分もある。

 

 2017年のヤマト運輸の配送料の値上げ実現からわずか2年で、Amazonの配送業務の中身は大きく変貌しつつある。

 ヤマト運輸、デリバリープロバイダ、個人事業主を自在に使い分けるAmazonの手腕には感心するが、歯止めの効かないコスト削減を進めることによって、別のリスクが浮上しつつあることにも関心を寄せた方が良いと思うのだが。