如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

金融商品をめぐるトラブルは「顧客」側にも問題アリ

銀行・証券を不適切営業に走らせる、顧客の「無理な注文」4パターン(ダイヤモンド・オンライン)

山崎 元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 

 不適切な金融商品の販売というと、まず頭に浮かぶのは「金融機関が商品知識に乏しい高齢者をカモにして・・・」という事例なのだが、10月23日付けのダイヤモンド・オンラインに、「銀行・証券を不適切営業に走らせる、顧客の『無理な注文』4パターン」というタイトルの記事が掲載された。

 

 内容は、よくある金融機関側から顧客への不適切な勧誘だけでなく、顧客側が無理や非合理的な要望を押し付けることが、結果として営業マンが顧客に不釣り合いな商品を販売する要因になっている、という趣旨だ。

 

 記事では、顧客側の不適切なニーズとして、以下の4つのパターンを紹介している。

 

  1. 実現不可能な希望を持つ
  2. 本当は得にならない状態を望む
  3. 真の問題解決にならない商品・サービスを望む
  4. 金融の問題ではないニーズを金融で解決しようとする

 

 1のパターンの例として、「安全な2%の利回り確保」というニーズを挙げている。

 記事にもあるが、郵便局の定期貯金金利(1年物)が年率4.57%、銀行の定期預金金利(同)に至っては同5.57%もあった1991年頃の金利水準を覚えている中高年世代に多い。

 朧げな記憶ではあるが、当時の日本興業銀行等の発行する割引金融債(ワリコー等)には、購入希望者が店舗の周囲を取り巻きニュースになるほどの人気商品だった。

 

 こういう人たちには「現在の預金金利はほぼゼロ%、長期金利に至ってはマイナスなのですが」という話をしてもまず通じない。過去の金利と比較して2%程度の利回りなら、何とかなるはずという「根拠のない前提条件」が染みついている。

 

 2の例としては、金融庁の強烈な指導もあって一時期ほどの勢いはないが、根強い人気がある「毎月分配型の投資信託」が紹介されている。

 記事にもあるように、毎年支払う手数料を考慮するとまったく検討にすら値しないダメ商品なのだが、これを購入する高齢者は後を絶たない。

 

 個人的に知り合いの高齢者と話をする機会があったので、「毎月分配金を受けとる投資信託を購入するぐらいなら、1カ月満期の定期預金を毎月一部解約した方がお得ですよ」とアドバイスしたのだが、本人曰く「通帳の預金残高が毎月減っていくのは見たくない。それなら投信の分配金を年金代わりに受け取った方がいい」と譲らなかった。

 こうなると損得の「理屈」ではなく、個人の「信念」に近いので、他人のアドバイスは耳に入らないだろう。逆にここまで自分の資産管理を自分で納得しているのであれば、理論的に間違っていても他人がとやかく言う話ではない

 

 3のパターンの商品例として、記事では「ファンドラップ」と「ロボアドバイザー」を取り上げている。どちらも金融商品としての歴史は浅く、その商品内容が投資家に幅広く理解されているとは思えない。

 どちらもカタカナ名称で、いかにも上手に運用してくれそうなイメージを醸し出そうという販売側の意図が見え見えだが、前者は「人間」に、後者は「機械」にその運用を任せるかという違いであって、余計な手数料を支払わされるという点では同じだ。

 多くの場合、カタカナなどで目を引く名称の金融商品は、売りにくい商品を売るための「隠れ蓑」になっている

 

 4については、記事では高齢者の話し相手になってくれる営業マンに付き合って、勧められるままに金融商品を買ってしまうケースを取り上げている。

 「買い手」の懐に入り込んで信用を得るのは営業手法のひとつではあるが、セールスマンからすれば「時間を割いて話を聞いたんだから、こちらの立場も考えてくれ」となり、結果として営業成績として評価されやすい利益率の大きい商品、つまり購入者には不利な商品を販売することになる。

 例えるならば、戸建てに一人住まいの高齢者の話し相手になって、信用させたうえで法外な金額のリフォーム契約をする類の悪徳訪問販売業者の手口に近い

 

 以上4つのパターンをキーワードで表現すると、1は「時代錯誤」、2は「自信過剰」、3は「思慮不足」、4は「思い込み」になる。この「無理筋」な思考回路でセールスマンと向き合うから、提示される金融商品も「不適切」なものにならざるを得ないという側面は否めない。

 

 普通の人にとっては「命」の次に大事な「おカネ」なのだから、自己責任で対応するのが基本なのだが、相手は金融商品の「売り手」のプロである。1から4のパターンに該当するような顧客を「落とす」テクニックには長けている。

 

 対応策としては、今更ながらだが、自分の行動に常に疑問を持つか、信頼できる身内に相談するぐらいしか思いつかない

 あとは、過去の記事や著作などを読んだうえで、個人的に信用している本記事の著者・山崎元氏の著作を読んで参考にするぐらいだろうか(私自身、20年以上前だが一度仕事でお会いしたことがある)。