ラスベガスのカジノ王が「大阪」にこだわるわけ(東洋経済オンライン)
森田 宗一郎 : 東洋経済 記者
日本では初めてのカジノ(正確には統合型リゾートの一部)が実現化に向けて動き始めているが、横浜市が突如誘致に名乗りを上げ、米国大手の一角が大阪から横浜に進出先を変更するなど、カジノビジネスにおいて、その中身と合わせて進出先についての関心も高まってきた。
こうしたなか、同じく米大手のMGMは大阪への進出の姿勢を一貫して維持している。10月25日付けの東洋経済オンラインに同社社長へのインタビュー記事「ラスベガスのカジノ王が『大阪』にこだわるわけ」が掲載された。
記事では同社が、2014年の日本法人設立以来、大阪の自治体との良好な協調関係を維持していること、他社の異なり大阪IRを日本全国と統合するビジョンを持っていることを、大阪にこだわる理由として挙げている。
最初に個人的なカジノに対する見方を言えば、「あって悪いとは言わないが、絶対に必要かと言えば疑問」だ。
まずカジノのもたらすメリットだが、言うまでもなく「経済効果」だ。記事では大阪による経済効果の調査では「訪門客2000万人、うち訪日外国人700万人」とふんでいるが、実際にカジノで落とす金額ベースでは、外国人の方が多いだろう。
海外のカジノの収益の多くは、特別に用意された専用室でギャンブルに興じる「富裕層」からもたらされているのが実態。1回当たりの掛け金も、大きなフロアでスロットマシンに小銭で勝負する一般人とは「2桁」以上は違う。
外国人が日本のカジノで使ってくれる金額が、運営企業の米国企業の利益取り分分を差しいたとしても、雇用やIR内の商業施設などでの売り上げに繋がれば、大阪の経済的地位向上にもなる。
また、現在は首都圏に集中している大規模な会場が整備されれば、国際会議や見本市などの誘致も可能になる。
もともと、公的なギャンブルと言えば「堂島の米取引所が先物相場が世界初」との見方もあり、大阪と賭け事の相性は歴史的にも悪くない。
また、ギャンブルには非合法組織の関与が懸念されるが、米企業はラスベガスで徹底した対策を講じており、日本でもそのノウハウは生かされるはずだ。
一方、デメリットとしてはギャンブル依存症の拡大が最大の懸案事項だ。
現在でも、3競、オートと呼ばれる4つの公的ギャンブルに加えて、パチンコ、パチスロのグレーゾーン上の賭け事も存在する。
これらへの依存症対策ですら十分ではない現状で、さらにカジノを誘致する必要性と問われると、返答には苦しむ。
記事では社長が「業界のリーダーであるMGMにも、節度や責任を持ったカジノの情報提供が求められている」としており、収益の一部は企業イメージ向上のために依存症対策に充てる算段だろう。
ただ、この主張もよく考えると、「風邪の患者が増えるなら、治療薬を配布すればいい」という理屈とも言える訳で、本来あるべき政策は「患者そのものを減らす」ことではないだろうか。
ここまでカジノ誘致のメリットとデメリットを挙げたが、個人的には日本のカジノは「当初話題を集めても、既存のギャンブルへの影響は軽微」だと予想している。
その理由として、まず第一に現時点で6000円とされる入場料。これは私が個人的に趣味のひとつにしている競輪の場合、立川競輪場の入場料はたったの50円であり、カジノにはその120倍もの資金が必要だ。私ならこの時点でカジノに魅力を感じない。
しかもレースへの掛け金は100円から可能。カジノの掛け金の最低レートがいくらかは知らないが、現実的には100円ということはないだろう。
加えて、カジノへのアクセスの問題がある。公的ギャンブルは駅からある程度距離がある場合、多くの場合最寄駅からの無料送迎バスがあるが、カジノはおそらく鉄道でのアクセスがメインになる。交通費もばかにならない。
とてもではないが、庶民にとって身近なギャンブルとはなり得ないだろう。その意味ではカジノで依存症患者が激増することはない訳だが。
ということで、海外から来日する富裕層からの収益とそれに見合った雇用などの経済効果が見込めるという点では「あってもいい」とは思うが、依存症対策などのマイナス面を考慮すると是非とも「必要」とは思えない。
ただ新たな事業やビジネスを始める場合には、その具体的な影響が読み切れないだけに、その存在や影響に不安を抱く人が出るのは仕方ないし、既得権益を持つものからは反発の声が上がるのは必然ではある。
しかも今回は何かと批判を受けやすい「ギャンブル」だけになおさらだ。
導入すること自体はすでに政府の決定事項なので、あとは「経済効果」の最大化と、「社会的悪影響」の最小化を目指すしかないだろう。