如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

「価値」を再認識することで、商品化は可能と言う「書店」の実例

「入場料を取る書店」がまさかの大流行した理由(東洋経済オンライン)

永井 孝尚 : マーケティング戦略コンサルタント

  

 六本木の「青山ブックセンター」跡地に、オープンした書店「文喫」の新しい方向性を解説する記事「『入場料を取る書店』がまさかの大流行した理由」が10月28日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 「文喫」の特徴を一言で言えば、入場料1500円(税別)を払うと、時間無制限で、コーヒー・煎茶を無料で、店内にある書籍3万冊を座って読める、という点だ。

 

 記事によれば、来客数は多い日で200人、休日には10以上が入店待ちで、平均滞在時間は3~4時間。来店客の4割が書籍を購入するそうで、入場料、飲食料、本の売り上げを全部合わせると、収支が取れている、そうだ。

 

 記事を読んでまず思ったのは、Amazonなど「ネット系」の攻勢で「リアル」書店は縮小傾向が続いているが、販売現場の発想次第で生き残る方策はある、ということ。

 

 実際に、書店の数は1999年の2万2296店から2017年には1万2526店と44%近く減少している。しかもこの店数には本部、営業所、外商のみの店舗も含まれるので、いわゆる普通にイメージする「本屋」の数はすでに1万店を割り込んでいる模様。

 

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日本著作販促センター「書店数の推移」

  

 普通に考えれば、あえて書店に行って持ち帰る手間を考えれば、買いたい本が決まっているならネット注文で済ます人が増えてくるのは当然で、この傾向は今後も変わらないだろう。客の足を本屋に向かせるには、何らかの「動機」となる「工夫」が必要なのは間違いない。

 

 「文喫」が選んだ方法は、入場料という仕組みだ。1500円は高いという人はいるだろうが、そもそも一冊1500円以上する単行本が当たり前の時代に、コーヒーが無料で、最新刊を何冊も読めるというメリットを感じる「読書家」には決して高くない金額だ。

 

 むしろ有料化によって、普通の書店のように「時間合わせのために何気なく」とか「買う気はないけど興味本位で」といった非効率な客が排除できるので、店内も落ち着いた雰囲気が維持できる。リピーターも増えるだろう。

 

 全体としては「構造不況」にあると言える書店だが、業界にも新たな取り組みを目指す動きはある

 

 同じ書店としては、一万円選書で知られる北海道の「いわた書店」がある。一万円選書は自分の好みの書籍のジャンルを登録すると、社長が自分で選んだ本を約1万円分セレクトしてくれるというもの。

 年に数回申し込みを受け付けるようだが、現在は申し込み多数のためか「受付停止中」となっている。

 これは店主(社長)の発想によるものだろうが、読書家としてのスキルを活かした「他には簡単に真似のできない手法」だろう。

 ちなみに、コミック、ライトノベルは対象外となっている。

 

 一方、書籍以上に厳しい状況が続く雑誌の世界でも、販売増に取り組む動きはある。日本雑誌協会が5月に一般書店向けに出版した小冊子「これで雑誌が売れる!!」だ。

当ブログでも8月12日に「小冊子「これで雑誌が売れる!!」で書店は立ち直るか」として取り上げている。

 

 内容は、雑誌協会が書店に対して行ったアンケート結果や業界関係者の対談などを編集したものだが、販売の現場の危機感は伝わってくる。

 

 ここでも、面白い意見だと感じた書店の特徴は、「実店舗ならではのアピールに取り組んでいる」ことだ。

 具体的には、「付録付きの女性誌に関しては、付録を開封して実物が手に取れるように売り場に展示する」など、ネット系の書店にはできない「弱み」を突いている。

 

 リアルの店舗では、来店する顧客の減少とそれに伴う売り上げ減に悩んでいる訳だが、購入する意欲のない人が多く来店しても、売り上げ増には繋がらない。

 むしろ、「文喫」のように、有料化によって書店が「顧客を選別する」という新しい視点を取り入れたことの意味が大きい

 

 ちなみに「文喫」の店内地図を見ると、入り口に「企画展示」とその奥に「雑誌コーナー」はあって、ここまでは無料で利用できるようだ。

 その一方で、5アカウント月額5万円(税別)で自由に出入りできる「法人カード」も導入しており、客の属性によって提供するサービスの内容も変えるという「柔軟な対応」にも注目したい。

 

 書店が生き残る手段としては、ここまでに挙げた「入場料の設定」や「選書サービス」はその成功例の一部に過ぎないだろう。

 

 確実なのは、出版社や取次の言われるがままに配本を受けて、店頭に並べているだけの「無気力な」書店は今後淘汰される傾向が強まるということだ