如月五月の「ちょっと気になる話題、情報を斜め視線から」

ちょっと気になる話題、情報を斜め視線で解説

若手社員の将来設計は想像以上に「堅実」。ただし現状再考の余地も

若手の49%が「転職を考えている」という現実(東洋経済オンライン)

佐佐木 由美子 : 人事労務コンサルタント/社会保険労務士

 

 私のような50代後半にとっては薄々感づいてはいたものの、想像以上にショッキングな記事「若手の49%が『転職を考えている』という現実」が11月7日付けの東洋経済オンラインに掲載された。

 

 記事では、一般社団法人日本能率協会の2019年『入社半年・2年目 若手社員意識調査』を引用しているのだが、調査対象は「全国の入社半年・2年目を迎えた若手社員400人」となっている。

 

 こう言ってしまうと見も蓋もないのだが、本記事は日本能率協会が調査結果の概要としてまとめた1ページ目の「トピックス」を多少「肉付け」した内容が主体で、著者オリジナルの分析は少ない。

 とは言え、普段目にする機会が少ないこの調査結果にスポットライトを当てたことの意味はあると思う。

 

 記事は、冒頭に「若手社員の約半数(48.8%)がすでに転職を検討・活動中という結果」という内容から始まる。

 続けて、「『すでに副業・兼業をしている若手社員は、28.0%と3割近くもおり」とし、入社3年に達する前に、半数が転職を考え、実際に副業をしているという調査結果を紹介している。

 

 私自身は新卒から現在まで30年以上同じ会社で雇用されてきた(別会社への出向はあったが)という、「旧世代」の人間なので、若手社員との意識の差はあって当然だとは思うが、このアンケート結果にはいささか驚いた。

 

 ただ、現在までここ20年近くの正社員の待遇の変化などを考えると、納得のいく合理的な行動ではある

 私の就職した時代は、終身雇用、年功序列が当たり前、どんなに管理能力が劣っていても「部長」か「副部長」ぐらいまでは出世できて、本人の仕事ができない部分は部下がサポートしていた。

 今では考えられないが、懇親を深めるための毎年会社主催の「ボーリング大会」などがあったのである。当然ながら社員の家族の参加も大歓迎だったし、かかる費用はすべて会社負担。

 

 これがバブル崩壊やリーマンショックなどで会社の経営姿勢が「社員重視」から「株主重視」へと変わり、最大限の効率経営が求められるようになった。

 保養所や寮などは廃止、業務の目標を具体的に定めて上司と面談、その目標達成度で給与が変動し、評価次第で社員の「選別」も始まった。年下の上司が登場するようになったものこの頃からである。

 

 この方向転換は時代の趨勢であって間違っているとは言わないし、それまでが社員の「会社への帰属意識」を高めるための過剰ともいえる待遇だったのは確か。結果として今となっては死語に近い「社畜」というある意味自虐的な言葉が存在した(家畜から派生した造語)。

 いまでも、ブラック企業で生活のために死ぬほど働かされている人はいるが、社畜は自分の意志で望んで激務に身を投じていた点でやや異なると思う。

 

 時代を現在に戻すと、最近では富士通NECなど日本を代表するような大規模なリストラを実施、しかも対象が40代にまで低下してきたほか、キリンビールのように過去最高の利益を出しながらも早期退職を募集するなど、会社の社員を評価する視点は「どれだけ利益に貢献できるか」の一点に集中しているようだ。

 

 こういう環境下で若手社員が、自己防衛本能から転職への準備を進めるのは当然ではある。会社が自分の将来を保証してくれないのだから、自分で将来設計の指針や方策を立てるしかない。

 となると、いざ転職するとなった場合、転職市場で最も評価されるのは「スキル」。

 記事では、「目標にしたい人が『いる』人が、能力・スキルが『上がった』割合が圧倒的に高い」という結果を紹介しているが、つまり、社内でスキルが上がるなら会社に留まるし、そうでなければ見切りをつけるということだろう。これは極めて合理的な判断だ。

 

 と、ここまでは様々なメディアで報じられてきた内容でもある。当ブログの「情報を斜め視線から」という姿勢から、私見を述べてみたい

 

 まず、明らかなブラック企業であればとにかく脱出を図ることが最優先である。ここでいうブラック企業とは、従業員を安く使う「道具」としか考えていない会社で、社員のスキル向上などは視野にない。勤め続けるのは自殺行為である。

 ただ間違えないでほしいのは、単純に見える作業で「こき使われること」自体が、悪いわけではないということ。

 特に大企業の場合、会社全体から見れば、若手社員にできることなどわずかだ。意識高い系の若手には「これは自分の仕事ではない」と単純なコピー取りなどの仕事を嫌う傾向もあるようだが、これは個人的な見方をすれば「仕事を表面的にしか見ていない」浅はかな行動である。

 

 これは私自身の経験でもあるが、当然ながら新人時代はコピー取りも任された。問題はこの任されたコピー取りの仕事をどう捉えるかなのである。ポイントは2つ。

 普通は、自分の仕事場に元も近いコピー機を選択して待っている人がいれば順番待ちをするだろう。ここで普段から他部署の職場などに気を配っていれば、より高速処理で空いているコピー機の存在を知っているので仕事が早く済むという点がひとつ。

 

 もうひとつはこっちの方が重要なのだが、コピーを取っている間に「ぼーっと」待っているか、出てきたコピーの内容を流し読みでも構わないので「目を通す」か、という違いだ。

 

 これは上司を経験した立場から言えることだが、本当に需要な機密書類を新人にコピーを任せるようなことはまずしない。安全を考えて自分でコピーする。

 ということは、任されるコピーは、その内容が新人でも何らかの程度関係があったりして、仕事を進めるうえで役に立つかもしれない情報が書かれている可能性が高いのだ。

 

 この内容チェックを毎回コピーの都度実行していれば、会社における自分の部署の仕事の意味が立場がある程度理解できるようになる。少なくとも不満タラタラで漫然とコピーしている新人とは大きな差が付くのは確実だ

 加えて言えば、上司の手が空いた時間や機嫌がいい時に、「さきほどのコピーを任された資料の件で教えてほしいのですが」などと話しかければ、評価は上がることはあっても下がることはまずない。

 

 コピー作業ひとつとっても、それを生かすも殺すも若手社員の捉え方次第で大きく変わってくるのだ。

 

 若手社員にとって、現在の仕事が「スキルアップに繋がらない」と判断するのは簡単だが、その前に「何か生かす方法はないか」検討してみることをまずはオススメする。

 

 スキルアップは「与えられた仕事」から得られるだけではなく、「自分から創意・工夫」することで獲得するという側面もあることは知っておいていい。